二十七話 十年前のルキナス市場
活気がある市場、取引が盛んである様に声が響く。
種族達が行き交う、誰一人差別がない優しい田舎町の印象だ。
「さて、どうするか……」
扉がバンっていきなり開く、出てきたのは小さな女の子……手にはぬいぐるみ。
一目見ただけでわかる……幼きシエルだ。
「おにいちゃんだれ?」
「えーと、先生だよ」
「せんせ? なにそれ?」
「勉強教える人だよ」
「へぇー、なんかたのしそうだね」
くっ!この先、色々苦労するのになんて言う無邪気さ!! 可愛すぎるだろ!!
「こら、シエル勝手に飛び出しちゃ……あら?」
シエルのお母さん、すごく美人だ。
特にシエルに似てる雰囲気、目の色も髪型も同じ。
「あ、おはようございます」
「シエルに何をする気?」
「え!? 」
「誘拐犯!!? 貴方、シエルを誘拐犯よ!!」
「ダニィ……いや、なにい!!」
シエルの騒がしさが遺伝してるのがよくわかる、なんで勘違いするんだろう。
父は筋肉増し増しだし、え、なにこれ? 鉱山で働いてる人か?!
「我が娘に手を出すなら、この右腕が全てを許さない……。いでよ我が魔力……」
「貴方! それやったら家が燃える!!」
「あ、そうだった」
すごく仲がいい親なんだな、シエル凄く幸せそうだしな。さて、どう話したらいいやら。
今ので一分経過、早い所やらないと。
「あの、少しばかり話……したいのですが」
「話? 鐘をぶっ壊す?」
「ふむ、貴方からかなり真剣な話を感じる。 お母さん、とりあえず中に入ってて。シエルも」
シエルのお父さんと一対一となり、近くにある居酒屋へ連れていかれた。
「マスター、シュワシュワなアルコールを二つ」
「はいよ」
居酒屋も中々雰囲気ある、シエルの父は俺にお酒を手渡した。
「まずは、お酒から。この市場の基本ルールです」
「え? あ、はい。いただきます」
この味はあっちの世界だとビールか、すごく久々で染みるなぁ。
「さて、話したいことは何かな?」
「まず、五年後の世界から来たっていえば信じますか?」
「ふむ、内容による」
「……市場が未来では失われてます。もちろん、ご夫婦も」
「……シエルは?」
「生きてますが……」
「そうか。やはりそうなるのか」
「含みある言い方ですね」
シエルのお父さんは酒をぐびぐび飲み干してから
「えぇ、ここ近年ある程度ですが……。噂されてまして近々戦争がここで起きると。ふむ、未来では起きて私達はこの市場を守れなかった……。シエルだけを置いて」っと少し残念そうに口にした。
情報は出てたらしい、しかも市場関係者はここを守り戦うつもりでいる。それで……あんな悲惨な状態になるのか。
「君は未来から来たって事かな。なら、シエルに伝言をお願いしたい。 無論君はこの戦いを変えたいし救いたいと思ってるだろう?」
「そんなところです」
シエルの父は首を左右に振る
「ダメだ、そんなことすればあるべき歴史が崩れる。それに私達の意思は……どうなる? 帝国軍に逆賊とされて貴族がそれを捕える。虚偽を正すのは、君じゃない私達過去の存在だ」っと理解を求めるように俺に言った。
確かに間違いじゃない、わかってるつもりなんだ。
けどなんだろうな? この……虚しさは。
力になれないから、余計なのかもしれない。
シエルがそう感じていた気持ちが分かる。
「シエルは優しい子だ、きっと自分を苦しめて陥る。君がこうして現れたのが、きっとそうなんだろう。だから……親として"自分を責めないで、私達はいつも君のそばで見てる"っと伝えて欲しい。あの子は独りじゃない、支えるのは君と言う存在が必要なんだ」
もはや託す意味合いなんだろう、それだけ決意を感じ取る。
「あと君は無力じゃない、救うだけに囚われないでいなさい。変えられない物と、結果としてリスクと隣り合わせなんだよ……救うって事は」
「肝に銘じときます」
「分かればいい、シエルを君に託すことが出来る」
四分経過、サイレンが鳴り響く……市場の人々は身構え始める。シエルのお父さんは大きな斧を片手に「もう一杯はまた今度、あとは任せましたよ先生」っと告げてから居酒屋を離れた。
俺は残された時間で走る、シエルの家の前まで……。
何とか間に合うと"お母さん"っと泣き叫ぶ声、ドアを蹴飛ばして中に入ると……帝国兵がいた。
その手に握る血で染まった剣を見て、俺は「なぁ? てめぇらの血の色は何色だ?!」っと言い手を握りしめて思いっきり殴った。
帝国兵は吹き飛んだ、シエルは死にかけたお母さんを何度も何度も呼ぶ。
「シエル……貴方は。私達の……宝よ……。そこにいる方……シエルを……たのみ……ます……」
シエルのお母さんは震えた手を伸ばした、俺はその手を握り「あぁ、大切守りますから」って言うとシエルのお母さんは安らかな顔をして力が抜け落て床に手が落ちる。
「お母さん? お母さぁぁぁぁん!!」
シエルは激しく泣いた、その時……何かが弾けたように魔力が解き放たれる。
無職色なのに、目に見えない……。建物が崩れ始める。帝国兵が再び現れた瞬間……弾け飛んだ。
驚いた、これ……物理魔法だ。
ハズレ魔法って言われてるけど、この魔力は規格外だ。あの日の摩擦領域の違和感の正体か。
「うわぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
シエルの悲痛な叫びを表すように膨大な魔力で辺りにいた帝国兵と貴族兵が一気に吹き飛び押し潰した。その死の匂いにグリードが現れる、シエルはゆっくりと倒れて気絶した……そのタイミングだ。
「計画は常に動いてる、逆巻くのは運命の灯火。愛の教団……ククッ。今のワシの手先となり、皇族も、これぞ神々が消えたおかげだ」
聞き覚えが無い声だ、カチッと音が鳴ると時空へと飛んだ。流れる物語が再生されて再び俺は元いた世界にもどる。
《A》の姿はなく、ちょうど朝日が水平線から登る時間帯だった。
神々が消えたおかげ……? って何を意味してるか、ルミナスも似たこと言っていた。
神なしの異世界、そこに何が意味があるんだ? いや、考えても始まらない。いずれ知る話なんだろうな。
静かに夜が明けて、薄明るい光をただただじーっと眺めるのだった。




