二十五話 迷いながらも
その日から、俺はシエルと会う日がない。
ただでさえ、空は憂鬱なのに……。職員室なんてジメジメナメクジ見たくなってるし。何あったんだよみなさん。
「カイトー、一緒に昼ごはんたべ……。なにしたの?」
「教師やめていい? 全部から逃げていい? ルミナスさん」
「な、なにこの……陰湿な感じ!? 全てを憂鬱が爆発したみたいな机にひれ伏せて泣いてるのよ!?」
「シエルにめちゃ言われた」
ルミナスに一連の話を話してみた。
「んー、何となくカイトに似てる?」
「何がどう似てる? あんな自傷行為まで至らなかった俺より遥に違うよ」
「そうじゃなくて。カイトは感傷の時は恋愛で、燦の死で深い絶望……奪われた感じだったよね?」
「うん」
「シエルは、目の前に大切なのを奪われてる。そこはカイトと同じで怒る気持ちはわかるよね?」
「まぁわかるよ、ただ原理は違う。俺は救えなかった後悔、あの子は憎しみと怒り。自分を追い詰めるほど呪って嫌になってる」
「そこで、救いたいけれど……その優しさが苦しめる感じかしらね?」
「だろうな、嫌われても呪われても好きで居る気持ちは俺にはわかるけど。それよりも内面的に悲惨なシエルを……導く答えがなぁ」
難しい問題なのは確か、根をあげそうだ。
けど、アリアを救うまでは折れる訳にも行かない。
何か、糸口あればなぁ……出来ればルキナス出身。
頭を悩ませてると、ルナ先生が現れた。
「なにか悩んでる?」
「えぇ、実はーーー」
ルミナスがルナ先生に簡略に説明した、すると少しだけ真剣な表情浮かべた。
「ルキナス市場、私分かりますよ? ただ、千日戦争後……。私は看護として派遣されて、生存者を探して焼けた民家から一人の女の子だけ生き残ってました。多分その子がシエルで発見した時は目が虚ろで感情がなかったです」
ルナ先生が具体的に話してくれた、心理崩壊してたに違いないだろうな。
十年ぐらい前だから、シエル五、六歳児……。刺激が強すぎる。
「ルキナス市場は、各種族が集う有名でしたよ。エルフ達も気楽に立ち寄れる憩いの場でした。しかし、帝国側がある嘘を流したんです。それが千日戦争の始まりとなりました。当然統合結社は悲惨な光景を……黙って見てて見殺しにしてた。逃げ回る市民を殺されて歯を擦らせて悔しそうだったって」
ルナ先生も少しばかり落ち込んでいた、まるで居場所を取られた猫のように。
「俺は思うんですよ。統合結社がなんで帝国側に立っているのか。《A》みたいな子、絶対いると思う」
俺は少し、いや、かなり悔しい。
理由がどうあっても、なんで統合結社は帝国に抗えなかったのか。自分の様に歯痒い。
ルミナスはルナ先生を眺めながら
「それに、ルナ先生……。本当に救護だけだったの? あまりにも具体的よ」っと鋭い事を口にする。
静かに、ただ、静かに……ルナ先生は涙を流しながら「だって、私……お兄ちゃんに連れられてルキナス市場に行ったその日だよ。その当日に、無抵抗な市民を……。うぅ……ひっく……」っと泣き崩れた。
ルミナスは、優しくルナ先生を抱きしめた。
この日、外の雨は激しかった。
俺は日程を終えて静かに自室に帰る窓辺から外を眺める。雨足の強さ、水溜まりはシャワーがそそがれた様に弾いてる。
救えたものを救わない、そんなやり方……許されるのか……?
戦争なんて上が勝手に始めて制御不能になって周りの国々を巻き込む。これが俺が生きていた世界で感じていたことだ。
けど、実際目の当たりにしたら……やっぱ辛いな。
守りたくても守れない……か。
ノルスの死を思い出した、あんな理不尽があの二人に深く傷を付けたんだ。
俺に今できることはなんだ……?
そう静かに己の掌を見つめて、燦ならどうしていたんだろう?っと小さくボヤいた。
すると強い睡魔が襲う、全身に力が入らない。
まぶたがゆっくりと閉じる瞬間……誰かの足元がうっすら見えた。
しばらくして目を開くと、辺りは真っ白な世界。
ここは何処だろう?っと小さく思うと「お目覚めは如何かな?」っと女性の声が響いた。
目の前にいきなり現れた少女……誰だろうか。
「私は時を司る神、クロノス・ルルナ。君は既に私と知り合ってるはずだけどね」
クロノス……? っと言う少女に俺は頭を捻りながら思い返した。あのロリっ子クロノスを思い出した。でも、あれとこれ別人。
「先生ちょっと失礼。私はあの子だけど力は私よ」
「え? どうゆう事だよ?」
あ、やっと口が開けたし動かせた。
「ん、私がこうして現れたって事は……過去に対して強い意志を感じたからかな?」
「…まぁそうなるよな、救えなかった話だろ。今更どうのこうのは無理だろうしな」
「過去に行く事は出来る、帰ることもできるけど……未来が変わる」
「パラドックスっでやつか?」
「うん、だからおすすめ出来ない。代わりに、はいコレ」
手渡されたのは懐中時計だ。
「押せば、その場所だけ一時的に過去に戻る。時間は五分、過去に干渉しないで救えるはず」
「でも、未来が変わるんだろ?」
「変わらないけど、特定の人を導ける。ルナ先生とシエルの感傷が消せるぐらいかな」
利用価値はある、ただそれよりも……クロノスなんで神なんだろう? 知りたいことがまた増えた。
「そろそろ私と入れ替わりだからじゃあね」
「え、クロノスまて……!?」
目を覚ましたら、右手に柔らかいのが微かに感じ取る。視線を上にあげるとクロノスだった。少し眠そうなのに何処と無く変態って顔をしていた。
「私、みんなより小さいよ? 先生、えっち」
「ちがっ!? これは、なんかの間違いだ!!」
クロノスが言うには、もう一人のクロノスが催眠するとかいきなり言い出したらしくて部屋に突入したらしい。
で、なんで四つん這いだったのかは秘密らしい。
「それで、その懐中時計……」
「過去を少し変えることができるらしい」
「なら、明日一緒に行こ」
「え?」
「休日だもん、それに……いつも危ないから」
「いつから俺の親ポジになったんだよ」
「それに過去に遡るのはリスクあるから、終わったら私に返すこと」
「了解」
クロノスは帰って行った、俺は身支度をする。
わるいな、クロノス……これは俺がやらなきゃ。
それに過去の異世界を知るきっかけになるだろうしな。
旧ルキナス市場への列車は終電で時間的にギリギリ乗車したのだった。




