テストに備えまして
明日は退院日だ。彼女に啖呵を切ってから二日間たったと言うことになるけど、反省はしていない。あれから彼女は「ヒロインとは分かりあえない運命なのね」と発言を残し去っていった。いや、ヒロインや悪役令嬢が分かりあえないのではなくて、ただあの人と私の考えが正反対なだけで、わざわざ仲良くなる意味がない。
あの人に何を言っても無駄だ。相変わらず家族や雪野木から貸してもらえる本のお陰で丸1日暇と言うことは無いけど…。やっと家に帰れるのかと思うと嬉しくなる。
ガラリ、とドアが開いて、そういえばこの時間には彼が来る時間だなと思った。ドアの方を見るとやっぱり彼がいた。
「見舞いに来た」
もうそれは六回聞いた。
「ありがとうございます」
とりあえずお礼。
目に写るは紙の袋。さて、今日は何の本だろうか。
「突然だが、鈴野に残念なお知らせだ」
雪野木は紙の袋を私に手渡しながら言った。残念なお知らせとはどんな知らせだろう。学校を退学とか?…いや、それはないか。
「明日、テストだ」
マジですか…。前回は先生の話なんて聞かずにノートだけをとってテスト前日にそれを適当に見返し、教科書なんかもパラパラと見てテスト当日には手を抜いて平均はこれくらいだろうという点数を取ったけどそれではだめだ。約一週間でどれくらい進んだのだろうか。まあ前世の記憶と言うチートがある私にとってはそれくらいは大丈夫だろうが。
おお、いいことを思い付いた。約一週間学園に来なかった私がテストで一位を取ったら皆どう思うだろうか。
もし私が彼女以上の存在になれば誰も私の邪魔はしないのかな。今の私は、身内には甘いけど、他人には容赦しない状態なのだ。
私が本気を出そうと思ったのは、変えてくれたのは彼のお陰。本気を出したら皆に怖がられてしまうかもしれない。
けどそれも今となっては好都合だ。私には私をわかってくれる人が一人でも存在してくれればそれでいい。
「ノートって持ってますか?教科書は大丈夫です」
教科書は前に全部見て大方覚えてしまったから大丈夫だ。
「そう言うと思って、ノートを持ってきた」
そう言って彼は私にノートを差し出した。雪野木、やるな。
さすが私の友人だ。ちなみに友人は前世と今を合わせて雪野木ただ一人だ。それなりに喋る子ならいたが私のことを化け物と言って思いを確認する前に逃げてしまった。
「ありがとうございます。私の考えはお見通しですか?」
「ああ、簡単に言うと花影以上の存在になって邪魔するやつを黙らせてやろう、だろ?」
「さすがですね。正解です」
私は軽く手を叩いた。
「雪野木もとりましょうよ、一位。貴方も手を抜いていたでしょう?彼女なんて抜かすことも出来たでしょうに」
「お前もな」
「まあ、鈴野が今後一位を取るって言うなら友人の俺もそれ相応でないとな」
友人、いい響き。そしてやっぱり手を抜いていたのね…。
「ふふっそうですね」
最近よく笑うようになったと思う。身内限定だけど。
「はぁ…無防備なやつ…」
「え?」
「そう言えば俺達友人なのに名字で呼ぶなんて他人行儀じゃないか?亜莎紀って呼んでいいよな」
なんか誤魔化された気がしないでもないけど誤魔化されておこう。雪野木の言うとおりかもしれない。名字呼びは他人行儀だな。
「いいですよ。私も碧斗って呼びますね」
「…亜莎紀、敬語もやめないか?本当はそんな口調じゃないだろ?」
さっそく使うのね…。と言うかよく見抜いたな。私の口調が敬語でないと。やめないかと言われたのならやめよう。まあ、碧斗限定だと思うけど。
「分かった…けど、敬語が素じゃないってよく気づいたね。勉強ちゃちゃっと終わらせてしまおう」
「やっぱこっちのが亜莎紀にはあってるな。ああ、勉強を終わらせてしまおう。けど亜莎紀は勉強なんてしなくても分かってしまうんじゃないか?」
碧斗の中で私はどんな人格なんだろう…。さすがの私でも少し見なければ分からない所も出てきてしまう。完璧人間と言うわけではないから。あっても一つ程度だけど。やるならミスなしがいいんだ。
「そんなわけないでしょう。一つくらいミスってしまうわ。やるならミスなしを目指したいの」
「それでも凄いけどな」
冷静に突っ込まれた。彼には突っ込みの才能が有るのかもしれない。…私はボケ?いや、そんなことはどうでもいい。今は勉強の話だった。
「うっかりしてしまうかもしれないから一応見ないと。碧斗も私と一緒にちゃちゃっと終わらせてさっきもらったプリンを食べましょう?プリンのために頑張って」
「ああ、プリンは好きだ」
お兄様が雪野木君と一緒に食べてねとくれたプリンを餌に私達はすぐに勉強を終わらせた。
これで明日は困らない。
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