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その造型は魂にも似て 作者:道化屋

第二章 想いの強度

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2-5 焼きたての香りに包まれながら

「なーんか、色々訊かれてたね」

 腹の虫を刺激する香ばしい匂いに鼻をくすぐられていると、隣のリーフィが呟いた。

「研究員らしいからな。気になるんだろうさ」

 昼時になり、少し人が増えたアジト前の通り。手には紙で作られた袋が二つ。パン屋で適当にモノを見繕い、アジトへと引き返す途中だ。

「うーん」

 袋の中を覗き込みながらリーフィが唸る。

「ポテトフライおまけしてもらっちゃったけど、どうしよっか。ただでさえ買い過ぎたのに」
「副団長に全部――って、そういや意外に小食だっけ、あの人」

 見た目の割りに食わないんだよな。三人前くらいペロリといっちまいそうな印象があるんだが。

「じゃ、いざとなればコジロウが処理するってことで」
「勝手に人を当てにすんなよ」
「たくさん食べないと大きくなれないよ――あ、ごめん」

 言葉の剣で一突きにされた痛みに顔を歪めるとと、リーフィが即座に謝ってきた。

「クソッ、俺はまだ諦めちゃいねーぞ。まだまだ伸びる筈だ」
「まあまあ、別にそのままでもいいじゃない。可愛くて」
「決闘の次は喧嘩売ってんのか」
「だからごめんってば。ほら、あれ。お母さんが子供につい言っちゃうのと同じ」
「牢屋に引っ越したきり戻ってこない母親の顔なんざ、ろくに覚えてねえよ」
「重い返しがきたあ……」

 リーフィが口を引きつらせた。

「お前こそ、もっと食え。パン二個でよく夜まで持つな?」
「うっわ!」

 リーフィが目を釣り上げた。

「自制している女子に無責任な誘惑。万死に値する!」
「うわやめろ落ちる落とす!」

 ぐりぐりと脇腹を弄られ、思わず袋を取り落としそうになる。副団長の分のパンは俺が持っている。つまり両手が塞がっている。反撃できない。クソ、くすぐられても耐え切る鍛錬方法ってないのか?

「あ、コジロウ。後ろ」

 どいたどいた――後ろからの声に、慌てて道の端へと寄った。馬車だ。御者が道行く人々に叫び散らしながら走っていく。荒っぽい手綱の握り方だ。車輪の巻き上げる砂埃が入らないように袋の口を閉じ直す。

「フン」
「なによう、いきなり鼻で笑ったりして」
「いや、創作家(クリエイター)に使い走りさせるのは、あの筋肉女くらいのモンだろうってな」
「そだね。最近新聞にも良く書かれてるしね」
「……ん? おい待て、話が繋がってないぞ?」
「ちゃんと繋がってるってば」

 リーフィが首を振る。

「目に余る創作家(クリエイター)共の横暴! 選民思想に凝り固まった思い上がり共に鉄槌を――なんてさ」
「ああ、そういうことか」

 頷き返す。

「最近、創作家(クリエイター)は偉いんだってに笠に着る奴ら、多いらしいな」
「ウチもあいつらがやらかしてるから、ヨソ様のこと言えないんだけどね」
「ああ、俺が潜りこんでる間に、リヒトが揉めごと起こしたんだって?」

 そういや会議で団長が怒ってたっけ。詳しいことは知らないが。

「そそ。例の酒場でコジロウの報告を待ってた時に、リヒトが隣のテーブルの女の子を口説き始めちゃって。彼氏らしき人が傍にいるのにだよ? 静観を決め込んでたクライセンも、髪型をけなされたせいで火がついちゃって、もう滅っ茶苦茶」
「お前はどうしたんだ」

 訊くと、うっかり酢を舐めてしまったような顔を見せた。

「なんだよ。別にいいだろ」
「……んんん、面倒は嫌だからこっそり抜け出そうと思ったんだけど、相手の女の子に勘違いされちゃって」
「勘違い? 相手の女の子って、リヒトが手を出した?」
「そうそう。あんたあの人のなんなの! って。多分あいつが私の肩に馴れ馴れしく腕回したりしてたせいなんだけど」
「おい待て、ちょっと待て」

 混乱してきた。

「つまり、それ、嫉妬されたってことだよな」
「そういうこと、なのかな。クライセンにも同じこと言ってたし」
「変だろ、それ」

 頭を振る。間違って小説を数頁すっ飛ばしたような感覚。

「だってその女の子、男連れだったんだろ? リヒトとはその酒場が初対面だったんだろ? 何で奴と仲良さそうに見えたからって、嫉妬されなきゃいけなんだよ」
「ちょっとの間で骨抜きにされちゃったみたいよ?」
「……すげーな。信じられねえわ」

 町で偶然見かける度に連れてる女が違う気がしていたが、俺の記憶力の問題じゃなかったわけだ。

「羨ましい?」

 にやりと笑いながら、リーフィがねちっこい視線を寄越した。

「女の子をとっかえひっかえ。男なら一度は体験してみたいよね?」
「んなわけあるか。大体俺には」
「――俺には?」
「やらなきゃいけないことが山積みなんだよ。創作家(クリエイター)として一人前になるまで、余計なことに構ってられるか」
「うっわー」

 リーフィが吐き出すような仕草を見せた。

「その道に生涯を捧げる職人さんって結婚しない人が多いらしいけど、絶対コジロウもそのタイプよね」
「本望だな」
「でも結局、ほとんどの人が結婚くらいしておけば良かったって後悔するらしいよ?」
「ん、そういうもんなのか? どんな堅物でも、歳を食うとやっぱり寂しく」
「ウソだけど」
「ウソかよ!」
「あはははは!」

 どん、と地団駄を踏んで見せるとリーフィが走り出す。待てこら、と俺も足を踏み出そうとしたところで。

「ねえ、コジロウ」

 すぐに立ち止まったリーフィがこちらを振り返った。

「あの子、ウチに用なのかな?」
「あーん?」

 リーフィの背中から顔を出す。『霧雨の陣』と描かれた看板の前に、ちっさいガキが座り込んできょろきょろと辺りを見回している。

「依頼? それにしちゃ随分と」

 小汚いガキだ。創作家(クリエイター)ギルドに頼みごとが出来るほど金を持っているようには到底――、

「「あ」」

 視線が交わり、声が重なった。

「あれ? コジロウの知り合い?」
「違うって言いたいところだが、俺目当てだろうな……」

 欠けた前歯がはっきり見えるほどの大きな笑みを見て、思わず天を仰ぐ。
 当のソイツは軽快な足取りでリーフィを躱すと、俺の前へとやってきた。そして、事もあろうに胸を反らせながらこう宣言しやがったのだ。

「おいらさ、創作家(クリエイター)になることにした!」

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