第1話-6 石にする目(後)
村の陶工と若者たちが、粘土をこね、木の型に詰めて、管を作った。長さは一メートル、内径は手のひらほど。片方の端は細く、もう片方の端は太くして、隣の管と差し込んでつなげる形にする。
広場の隅に、板塀で囲った小屋が建てられた。
生乾きの粘土管を台車に載せ、小屋に押し込む。全員が板塀の外へ出て、扉を閉める。安全確認の鐘を、三回鳴らす。
それから、リディアが目隠しを外す。
初日の最初の一本。小屋から出てきたリディアは、管を両手で抱えていた。
灰色の、なめらかな石だった。継ぎ目も、気泡もない。叩くと、高く澄んだ音がした。
「割ってみてもいいですか」とリーネ。
「どうぞ」
大工が槌を振り下ろした。管は割れなかった。二度目も、三度目も。
「……これ、焼いた土管の何倍も硬いですよ」
リディアは、自分の作った管を、目隠しの下からじっと見ていた。
「石にしたものが、こんなふうに喜ばれたの、初めてです」
一日に四十本。七日で、二百八十本。
石の管は谷の斜面に沿って並べられ、継ぎ目に石灰モルタルを詰めてつながれていった。谷底には石の台座を据え、管がずれないように固定する。
途中の高い場所には、管の中に溜まった空気を逃がす小さな栓をつけた。
「空気が残ってると、水の通り道をふさいじゃうんです。ローマの技術者も、たぶんここで苦労してます」
十七日目の夕方、最後の一本が、向こう側の崖の受け水槽につながれた。
伯爵が、日没と同時に岩陰から出てきて、谷を見下ろした。
「ふむ。見事な管だ。……ところで、あの中にも、いずれ水が流れるのだな」
「はい」
「この谷は、私にとって永遠に渡れぬ谷になるわけだ」
「……手配します」
私は手帳の「伯爵の帰路」に、二本目の線を引いた。
【史実メモ】石の管
小アジア(現在のトルコ)の古代都市パタラの水道では、石の塊をくり抜いた管をつないだ逆サイフォンが使われていたことが知られています。
【この作品について】
作中でリーネが紹介する「旧文明の技術」は、実在した技術がもとになっています。魔物たちの性質は、世界各地の神話や伝承から取っています。
ただし、規模や期間、細かな仕組みは、物語に合わせて脚色しています。
「本当にあったの?」と気になったら、ぜひ調べてみてください。
たいてい、本当にあります。




