005
魔帝国王城の一室。
室内では、ラファエルの前にアザルトが立っていた。先程までいたはずの鴉の姿はない。
アザルトが来る数十分前に報告を終え、転移した。
ラファエルは扉付近にいるアザルトに目を向ける。
ラファエルは静かに口を開いた。
「アザルト、ローワンはなんと言っていた。」
「__止まっていた歯車が動き出した」
アザルトの言葉にラファエルは大きく目を見開いた。
鴉の第一長官の報告を聞いたときから予想していたことではある。
だが、いざ突きつけられれば動揺を隠せない。遥か昔__何十億年も前の知り合いがついに動き出したのだ。
ラファエルは思考を巡らせるように黙り込んだあと、アザルトを視界に捉えた。
「アザルト、__と__、そして__を呼んできてくれ。」
アザルトはラファエルに「了解しました。」と言うと、礼をして部屋から出ていく。
その姿が見えなくなるまでラファエルは扉の方を見ていた。
◇◆◇
アザルトは、一人静かな城の廊下を歩いていた。
コツ、コツと靴の音だけが響いていく。
向かった先は、のどかな花畑の庭園だった。
花々は黄金の光によって温かく照らされている。
庭園を歩いていくと、一つのガゼボが見えた。
ガゼボでは一人の女性が紅茶を飲んでいる。
美しい長い銀髪に青の瞳、レースの黒いロングドレスの女性だ。
アザルトはその女性に近づくと、姿勢を正して話しかけた。
「リーリア様、ラファエル様がお呼びです。」
その女性はカップを置くと、アザルトの方を見た。
リーリア・クラール・サンサリエ。
魔界の二人いる最高神の一人でラファエルの妻だ。
「ラファが?……貴方が呼びに来るのは珍しいわね。いつもなら自分から来るのに。」
リーリアはふふ、と悪戯っぽく微笑んだ。
だが、その瞳には微笑みなどない。アザルトを静かに鋭く貫いていた。
アザルトは無言を貫いた。下手なことを言ってはいけないとわかっているから。
「そう。私はラファの所に行きますね。アザルト、ラファは__と__も呼んでいるのでしょう?」
「……そう、ですね。」
アザルトは少し歯切れが悪くなっていた。
リーリアに全てを見透かされているような感覚を味わったからだ。
久しぶりだった。その感覚は遥か昔、アザルトが神になる前に1度味わったことがある。
「失礼するわ。」
リーリアは優雅に椅子から立ち上がると、アザルトが歩いてきた道に姿を消した。
アザルトはリーリアの姿が見えなくなると、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、そんな仕草をすぐに消す。
そして今度は、城の地下へと続く螺旋階段へと向かった。




