003
ラファエルは部屋にある大きなソファーに腰を下ろす。
小さく息を吐いて考え事をしていると、コンコンコンと扉をノックする音がした。
ラファエルは扉には目を向けずに、「誰だ?」とだけ言った。
扉の奥からすぐに言葉が返ってくる。
「鴉の第一長官インサイトの――です。報告に伺いました。」
ラファエルは扉に目を向けて「入れ」と言った。
◇◆◇
中華区大通りから少し離れた路地裏に、喫茶店があった。
一見すると何もないように見えるその場所には認識阻害の魔法がかけてある。
限られた者しか知らず、入れない店。
それは店と呼べるのかすら怪しい場所だった。
店内は、天井から提灯が吊るされ、椅子と机は勿論、麻雀一式などが置いてあった。
落ち着いた雰囲気のお洒落な店だ。
ジャスミン茶を片手に、牌をカシャカシャ混ぜている青年がいた。
中華風の着物を着ていて、文字が象られた耳飾りをつけている。
髪は長く、三つ編みで結われていた。
彼は、半分開いた扉に手をかけている少年に言った。
「アザルト、何の用〜?」
「名前、、、なんだっけ?」
男の牌を混ぜる手がピタリと止まる。青年は心外だという顔をする。そして、愉快そうに目を細めた。
「ひどいなぁ...アザルト。これでも僕と君は数十億年以上の仲じゃないか。同期なのに。ねぇ?」
愉快な声で顔は笑っているのはずだが、店の雰囲気がガラっと変わった。
「同期……そうだっけ?名前名前…店長…だ!店長〜!」
アザルトは、ぱぁ……!!!と顔を輝かせ、正解に辿り着いたように手を叩く。
その様子に、青年は牌を混ぜる手を止め、大袈裟に肩をすくめた。
それに合わせて、店の雰囲気は元に戻る。
「店長、じゃないよ。せめて名前で呼んでほしいなぁ……ローワンだよ。漢字はこの耳飾りを見てもらったら分かるかな。」
ローワンは心底困ったような、でもどこか楽しそうな溜息をつきながら右手で牌を抑え、空いている手で左耳につけていた耳飾りに触れた。
その耳飾りには、『六萬』と象られていた。
「ろーわん……ろーわん……あ、ローワン!思い出した!そうだったね!」
アザルトは笑顔で笑っている。目は笑っていないが。
そんなアザルトを見て、先程までずっと笑顔でほんわかな雰囲気をしていた青年__ローワンは、牌を揃える。
牌を揃え終わると、ローワンは雰囲気をガラッと変え、アザルトに向き合った。
「名前を忘れたのは嘘でしょ?それは建前、本題は?」
ローワンの鋭い視線に、アザルトの作り物のような笑顔がスッと消える。
アザルトは椅子に座り、ローワンをじっと見ている。
その瞳には、先程までの無邪気さとは正反対な冷徹が宿っていた。
「全ての情報を司る『萬』の君に頼み事があって。」
「僕は確定された情報……よりも不確定要素のある占いのほうが向いているんだけど。」
ローワンは卓の上の『六萬』の牌を指で弾いた。
カランッと音を立てて『六萬』の牌は裏を向く。
裏には黒い剣が二本描かれていた。




