002
アザルトとファマンが廊下の壁側に立つと、丁度影だった人物の姿がハッキリと見えた。
腰くらいまである長い黒髪に紫の瞳。
シャツにズボン、ブーツといった至って普通の動きやすそうな服装の男性だ。
もっとも、その品質は桁違いではあるのだが。
アザルトとファマンは静かに立っている。
そんな二人の目の前まで来ると、その人物は立ち止まり、ファマンとアザルトの方へ顔を向けた。
「二人ともおはよう。さっき、このあたりで魔法が使われていたのだけれど......何か知らない?」
ファマンとアザルトはその人物から視線を斜め先にへと逸らす。
その様子を見ていた人物はなにか思いついたような顔をして言った。
「正直に言ったら、アップルパイをあげよう。正直に言わなかったら、二人でりんごでも育ててもらおうかな。」
その言葉にお菓子が大好きなファマンはついつい聞いてしまった。
「アップルパイ何個ですか?何個ですか?」
ファマンが耐えられずに聞いてしまったのを間近で見ていたアザルトは小さく息を吐いて言った。
「魔法は僕達が使いました。ファマンがネズミを投げてきたり、水をぶっかけてきたので...。」
キラキラとした視線を向けてくるファマンを横目に、その人物はアザルトの言葉に耳を傾けていた。
アザルトが正直に話すと、満足したように笑顔になる。ただ、その笑顔も油断ならない。
アザルトの話を聞いたその人物は今もキラキラとした視線を向けてくるファマンに視線を移す。
ファマンは自分がつい聞いてしまったこととアザルトが正直に話したことに気づき、なんとも間抜けな声で「あ......」と口にしていた。
「ファマン、アップルパイの前にりんごを育てに行こうか。自分で育てたりんごで作るアップルパイはとっても美味しいと思うよ。」
その人物はそう言うと、逃げ出そうとしたファマンを捕まえて廊下の奥へと消えていく。
アザルトはファマンに頑張れ……という視線を向けると、その場を去った。
◇◆◇
城からかなり離れた場所にファマンは立っていた。
見事に農園へと強制連行されたファマンは、言い訳をする暇もなく苗を渡された。
魔界では、一ヶ月で野菜や果物が育つ。
それが当たり前なので、農園に連れて行かれる期間は決まって一ヶ月だった。
本来なら逃げ出すことが可能なファマンでも、魔力を封印されてしまったため、それは叶わない。
農園の主にりんごの育て方について教えられる悪魔が他にいようか。
いや、いないだろう。
ファマンが強制連行されてから一ヶ月、その姿を見た者はいなかった。
一ヶ月後、なぜか清々しい顔で帰ってきたファマンにアザルトが驚いたのは別の話。
◇◆◇
ファマンを農園へと強制連行した人物は、城にある自らの部屋に帰ってきていた。
腰までの長い黒髪に紫の瞳をした男性。
名を、ラファエル・クラール・サンサリエといった。
魔界の二人いる最高神の一人で、魔帝国の皇帝だ。
無理なく投稿していきます。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。




