016
「おかえりなさいませ。ローワン様。」
店の扉を開くと、目の前に掃除道具を手に持ったナンが立っている。
「ただいま。なんかあった?」
どこか、慌てているようにも見えるナンに、少し違和感を感じた。
視線は焦点が合っていないし、何処か泳いでいる。
純粋に、何かあったのだと察した。
「えっと……ローワン様、このメモが何なのか、分かりますか?」
ナンが服のポケットに手を突っ込み、一枚の古びた紙を取り出した。
ナンは、ローワンにその紙を渡す。
「メモ…………?」
見れば見るほど、保管状態は最悪だと分かる一枚の古びた紙。
だが、その紙には文字が書いてあった。
ナンには全くわからなかった文字だ。
「分からないです……かね……。私には読めなくて……」
ローワンはナンの言葉に応えなかった。
その代わり、一枚の古びた紙を眺めている。
「ナン、このメモは預かって良いかな。あと、今日は部屋に戻って好きに過ごして良いよ。」
ローワンは、ナンに向かって言う。
一枚の古びた紙を手に持ったまま。
「勿論です。では、失礼します。」
ナンはお辞儀をして、置いていた掃除道具を手に取り、奥へと歩いて行った。
その後姿を見ながら、ローワンは呟く。
「……本当に……大事なことを思い出したよ……」
ローワンは店の玄関で、暫く突っ立っていた。
◇◆◇
ファマンが魔帝国のどこかの木の上で座り、遠くにある城を眺めている。
今日は絵本を手に持って。
誰かに読み聞かせをするように。
「昔々、あるところに……仲良しな四人の子どもたちが居ました。」
「子どもたちはとても仲良しで、毎日一緒に遊んでいます。」
「子どもたちには、お兄ちゃんと呼ぶ、歳上の友達がいました。」
「子どもたちはみんな、この時間がどこまでも続けば良いのに……。と思えるほど、毎日がとても楽しくて輝いて見えました。」
「ある日、そのお兄ちゃんと呼ぶ、歳上の友達が無実の罪で囚われるまでは。」
「子どもたちは、大人たちに、お兄ちゃんはそんなことやってない。と言います。」
「毎日、毎日言いました。でも、大人たちは聞き耳を立ててはくれませんでした。」
「そして、遂に、お兄ちゃんと呼んでいた友達は、追放されてしまいました。」
「年月が経って、子どもたちは大人になりました。」
「少し、風貌を変えた子どももいました。でも、四人は来る日も来る日も友だちを探し続けました。」
「だけど、見つかることはありませんでした。」
「大人になった子どもたちは、今も、ずっと、その友達を探し続けています。」




