表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/19

014

「どうか……どうか……助けてください……なんでもしますから……」


 何処かの人間界にアザルトは立っていた。

 アザルトの目の前には、地に頭を擦りつけ、土下座をしている人間がいる。

 人間は、必死に言葉を並べ、生きる為に思考を巡らせていた。


 人間を見るアザルトの瞳は冷たく、感情は籠もっていなかった。


「…………人間のことは、信用できないんだ…………」


 アザルトが口を開いた時には、人間の首は、はねていた。


 








 














 

 いつからだろう。人間のことを信用できない存在だと位置づけたのは。

 人間は信用できないか……ら……?

 アザルトには、その理由は分からなかった。

 

 ただ、人間の首をはねたその瞬間、アザルトの脳裏をかすめたのは、どす黒い「裏切り」の感覚だけ。

 それ以上の追憶を拒むように、アザルトはソっとその記憶に蓋をした。


 返り血を完全に消し去り、衣服を整える。

 アザルトはその場から去る時、一度だけ、人間の方を見た。


「…………」


 言葉はかけなかった。

 あるのは死体だけだ。


 だが、アザルトは死体を見ながら何処か遠くの景色を見ている。

 そこは、誰かが笑い、泣く、明るい日常で溢れていた。


 

 ◇◆◇



「あはは!待ってよ、それ私の分だってば!!」


 賑やかな笑い声と、誰かの小さな泣き声が、おだやかな魔帝国の街に響きわたる。

 その風景を見つめながら、動きやすそうな中華系の服を着た少女が買い物をしている。


「店主、この茶葉ください」

「毎度あり。」


 少女――ナンは買った茶葉を手に持っていたバスケットに入れて歩く。

 歩く。


 何十分か歩いた所で、ナンは路地裏に入った。

 路地裏をまた歩く。

 歩く。


 ナンは、ある喫茶店の前に来ると、扉を開けて入った。

 店内には誰も居ない。


 店主であるローワン様は何処かでふらついているのだろう。

 ナンは特に気にもせず厨房の奥に入っていく。


 厨房の奥には、小さな居間があった。

 居間には大量の茶葉が積み上がっていた。


 種類も様々で、いくつあるのかすら、わからない。

 ナンは買ってきた茶葉を、空いていた引き出しにしまった。


 パタンッと引き出しを閉めようとしたその時、奥の隙間に「何か」が挟まっているのに気づいた。

 

 なんだろうか。

 ナンは静かにその「何か」を隙間から引っ張り出す。


 その「何か」は、一枚の古びた紙切れだった。


 紙切れは、所々破れていて保管状態はどう見たって最悪だ。

 紙切れに書かれている文字を見ても、なんて書いてあるのか全くわからない。


 分からないのなら、知ってそうなローワン様に後で聞いてみよう……。


 ナンは、今度こそ引き出しを閉めて、店内の方へと戻る。


 だが、店内はジャスミンの香りがするだけで、誰も居ない。


 ナンはまあ、いいか。と呟くと店内の掃除を始めた。

 だが、ナンの頭の中では、以前ローワンが見せてきた牌の模様のことを考えている。

 

 占い師として、相当な技術を磨き、牌を使って占い読み解くことも出来るナンは、細部まで読み解けなかったことはなかった。


 でも、ローワン様に見せられた牌の模様は細かく読み解くことは出来なくて、たった少しの情報しか読み解けなかった。

 

 ――『遥か昔に関係し、重要なことを示している模様』


 あの時は、ローワン様にそう答えたけれど、本当にそうだったのだろうか。

 

 もし、自分の占いが、あの牌の『本当の情報』を無意識に拒絶していたのだとしたら……。 


 ナンは掃除の手を止め、ポケットに入れた古びた紙切れにそっと触れた。 


 誰もいない店内に、ジャスミンの香りが寂しげに漂う。

 魔帝国の、あまりにも明るく綺麗な日常の裏側で、静かに、けれど確実に、何かが歪み始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ