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第17話 青年は弟子に特訓をつける。

「いや師匠。これどう考えても無理だろう……」


 呆れがちにガイが言った。

 いま、ガイに頼まれて彼の特訓を見ているところだ。


 場所は以前アリアの魔法を試した草原。

 そこには岩も豊富に点在している。

 その内の一つの前に陣取り、俺たちはやり取りをしていた。


「いけるいける。大体、神威武装持ちって、みんな武器の性能に頼りすぎなんだよ。もっと地力を上げていかないと。それに、これはガイの方向性を伸ばすための訓練なんだよ?」


 目の前にある人間ほどの大きさの岩の前で俺は言った。


「でもよぉ……木刀一本で岩が割れてたまるかよ!?」


 こんなの、神威武装なら砕けて当然だ。

 俺は彼に木刀一本を持たせている。

 辺りには彼が折った木刀が散乱していた。


「だから割れるって。ガイの適正は俺と違って剛剣(ごうけん)方面なんだから、これはまだ序の口だよ」


「序の口!!??」


 人はそれぞれ適正と成るスタイルがある。

 俺は……強いて言うなら技重視。

 遥はスピード重視。

 そして、ガイは力──剛の剣を伸ばした方が良い。


「まだまだメニューはたくさんあるよ。せっかく、時間を見つけて特訓に付き合ってるのに……」


「いや師匠。言おう言おうと思ってたんだが、それじゃあ一回手本を見せてくれよ。目の前で割られりゃ、そりゃ納得するわ」


 手本か。

 そうだねー……同じような岩は点在してるし、いいか。

 それでガイの特訓に身が入るなら見せるのも(いた)し方なし。


「いいよ。じゃあそれ貸して」


「え、冗談じゃなくて本当に出来るのかよ?」


 俺はガイから何の変哲もない木刀を受け取る。


「それじゃ、見せるのは一回きりだから。ちゃんと目を()らして見てるんだよ?」


 そして俺は岩を注視し……。

 うん、狙うのはあそこだな。

 上段に木刀を構え。

 呼吸を整えタイミングを計り。


「…………フッ……!」


 迷い無く木刀を振り抜いた。

 目標の大岩は真っ二つになっていた。


「………………マジかよ、師匠」


 ガイは目を点にしていた。


「これで信じた? 為せば成る、こけの一念岩をも通す。ウチの家訓の一つだね。まあ限度ってのがあるけど」


「いやこれ限度とか超えてるだろう」


「目の前で見せたのに信じないの? 大体、俺こういう剛剣って苦手なんだけど」


「これで苦手!?」


「いちおうは一通り納めろって方針でね」


「ヤベエ……(またた)きせずに見てたってのに何がどうなってるか全然わかんねぇ」


「そこは目で盗んで……と言いたいけど、アリアが【天空米(てんくうまい)】で喜んでたから大サービス。まず、漫然(まんぜん)と岩を叩いてもダメ。岩には【目】っていう弱点みたいな箇所(かしょ)が存在するから、そこを探す注意力を(やしな)って。それ実戦でも要るから。それから、斬るときにただ叩きつけるのもダメ。その【目】に当てる瞬間、衝撃を内側に走らせるような意識で。これはある程度、経験がいるから身体で覚えてね」


 俺は果てしなくアリアに甘かった。


「なんか理屈を言われると出来そうな気になるのが逆に怖ぇ」


「ああ、ちなみに衝撃を内側に通す技術はその名の通り、【(とお)し】ってすめらぎ流では呼ばれてるから。まあ名前なんて覚えなくてもいいよ。これ覚えとくと他にも応用が効いて便利だよ。内部破壊なんか出来たりするし」


「……やっぱ、師匠に師事して良かったわ。雫なんぞ話にならん」


「雫さんは雫さんで強いよ。ともかく俺が説明するのはここまで。後は自力で頑張ってね。後でまた様子を見に来るから」


 ◯


 ガイの所にはお弁当を作っておいてきた。

 現在は夕刻前。

 様子を見つつ、本日は撤収の予定である。


「ガイ、どう? 少しは何かつかめた?」


 ガイはゼエハア息を乱しつつ地面に寝っ転がっていた。

 さすがに初日じゃ疲労感だけかな?

 俺の時はもっと……って、比べてもセンのない話か。


「ハァ、ハァ。ああ、師匠か。師匠ほどの大岩じゃないが、アレを見てくれ」


 そう言ってガイが指さした先には、小さな子どもほどの大きさの岩。

 最初とすると随分と小さいが、確かに真っ二つに割れていた。


「おお、すごいじゃない! 初日で成果を出すなんて、才能があるのかもね」


 その言葉を聞いた瞬間、ガイはガバッと起き上がった。


「本当か!? ふふふっ、これはすぐに師匠を抜けるかもしれねぇな」


 うーん。

 後で聞いた話なんだけど、

 おそらく【クラウソラス】にもバッドステータスがある。


 あれ、調子に乗りやすくなる効果もあったりするのかな。

 ガイの()かもしれないけど。

 いっぺん叩いておくか。

 ともかく、【クラウソラス】は有事(ゆうじ)の時以外は使用禁止にしよう。


「それは大きく出たねえ。よし、じゃあ一回だけ模擬戦でもしようか」


「も、模擬戦?」


「そ。皇流も剛剣を当然ながら取り入れててね。例によって苦手な上に、俺は好まないんだけど……。まあ、ガイが到達する地点の中継としての役割くらいは果たせるかもしれない」


「……木刀でか?」


「もちろん。あ、先に聞いておきたいんだけど」


「ん?」


「【クラウソラス】の回復能力ってどの程度?」


「いや……すでにその質問が怖いんだが。まあ、打撲や切り傷くらいならすぐ、骨折なら少し時間がかかる程度か」


 中々に優秀な固有技能だ。


「それなら安心か。あ、別に戦うわけじゃないし、模擬戦って言いかたは語弊(ごへい)があるかな」


「いや、啖呵たんかをきっておいてなんだが、俺は全く安心できねぇ」


「まあまあ。それじゃあ木刀を持って構えて。あ、違う違う。そういう普通に構えるんじゃないよ。俺が上段から斬りかかるから、それを受ける形で。そうそう、それでいい。後は……死ぬ気で防御してね?」


「死ぬ気!?」


「いや、本当に死なないから。それぐらいの気概(きがい)で必死に防いでってこと。気持ちの準備が整ったら声をかけて」


 それからガイは深呼吸をして気を整えていた。


「フゥー……よし、師匠。いいぜ」


「オッケー、いくね。ちゃんと下っ腹に力を込めておくんだよ?」


 木刀を上段に構えつつ、俺はガイに(うなが)した。


「おう、下っ腹だな」


「では、覚悟──キィエェエエエェェイ!!!!!!!」


 相手を気合いだけで殺す!!

 それほどの気構えで俺はガイに斬りかかった。


「!!!???」


 ガイは俺の【気】に()まれ硬直していた。

 木刀をちゃんと構えたままなのは偉い。

 この叫び声は猿叫えんきょうという。

 この猿叫に気合いを乗せ、必殺の迫力を持って相手に迫る!


 そしてガイは反応すらできず。

 防御に構えたガイ木刀を俺はぶち折り。

 その勢いはガイの肩の骨を折る所にまで達した。


「グゥッ!! イテ、イテテテテ!!」


 おお、前のように転げ回ってない。

 なんとかこらえている。


 それからしばらく待っていると。

 何とかガイが喋れる状態になった。


「どう? 俺を超えられそう?」


 意地悪な質問かもしれない。

 けど、ここで釘を刺しておかないと、いずれ本人は無謀を冒す。


「無理だ……まだ目標地点すら見えねぇ……。ありゃあ、どういう理屈の技だ?」


「ん? 理屈なんかないよ?」


「は?」


「至極、単純な話。死ぬ気で、そしてガイを殺す気で斬りにかかった。ただそれだけ。他の剛剣技ももちろんあるけど、今回それは使ってない」


「え、そんな簡単な話なのか?」


「あのね、ガイ……。単純と簡単は違うんだよ。あれ、一つ目の太刀に己の全てをかけて斬りかかるから一朝一夕(いっちょういっせき)にはいかないよ?」


「全てをかけて……? じゃあ、初太刀(しょだち)がかわされたら?」


「その質問がすでにアウト。そんな事は考えない。初太刀に相手を絶対に殺す勢いで、己の全てを()けて捨てる。そういうものなの」


 本当は初太刀を避けられても、第二の初太刀なんてのもあるけど……ここで説明すべきではないだろう。


【気】に関しても同様だ。

 まだ早い、説明しない。


「なるほど……。とにかく相手を斬るためだけに集中しきろって事か……」


「そうそう。岩の訓練もそれの前段階。ある程度、特訓が進めばそっち方面の秘剣もあるけど、それはまだまだかなぁ」


「確かに師匠の言うとおり、これは俺向けだな!! よし!! 燃えてきたぞぉ!!」


「あ、それよりも先に帰って晩ご飯の支度するから。それと、さすがにアリアの回復魔法を受けた方がいいよ」


「イテテテ、思い出したら痛みがぶり返してきた……」



 ◯


 今回のリザルト


 テイムモンスター一覧


 ・エンペラースライム


 ・エンペラーゴブリン


 ・エンペラーファントム


 ・エンペラーヘルハウンド


 ・エンペラーフェニックス


 ・エンペラーキマイラ


 ・エンペラーガーゴイル


 ・エンペラーローカスト


 ・エンペラー冬虫夏草とうちゅうかそう


(省略)


 ・遥


 ・アリア


 ・伊吹


 ・がい



 ※もちろんフィクション剣術です。某薩摩(さつま)なんかとは微塵も関係ありませんので()しからず。

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