第18話 青年は魔界へと赴く。
人間界と魔界は隣接している。
そういう意味では天界と一緒だが、魔界の方が近い。
天界は高原な上に距離がある。
魔界は平地続きな上、それほど日数もかからないのだ。
ガーゴイルの一件の後、王宮へ魔界から書状が届いた。
ちなみにだが、今回は防衛機関の十二座席は関わっていない。
天界からの和平書状を邪魔した前科があるので、その権威は地に堕ちている。
そういうわけで、今回の書状はスンナリと陛下の元へと届いた。
内容はこうだ。
『先日のガーゴイルの討伐、見事である。魔界は力こそが全て。これも目的があるゆえだ。余は逃げも隠れもせぬ。各関所に四天王を配置しておるゆえ、貴国の精鋭を少数のみ派遣するがよい。こちらも此度は少数精鋭でお相手をしよう。もし余を含め将軍どもが敗れるようであれば、和平でも何でも従おう』
と。
最初は十二座席を派遣する予定だった。
だが陛下と統括ギルドマスターのクライヴさんが話し合った結果、俺に白羽の矢が立った。
意味が分からないと思ったら、どうも俺が序列の高い順に倒してしまったのが原因らしい。
もちろん最初、俺は断った。
『謹慎中の雫さんをソロで特攻させたらどうですか?』
と提案すると、鬼を見るような目で皆から見られた。
いつものメンバーをお供に加え、俺は渋々依頼を請けることにした。
十二座席を三人も連れて行けば組織の面目も立つらしい。
というか一般人を魔界の前線に突入させるなんてあり得ない。
帰ったら絶対に高額の報酬をふっかけよう。
話し合いの結果とはいっても、
陛下は俺の魔界行きを最後まで反対していたらしい。
さすが俺に甘いだけはある。
魔界がどれほどのものかは分からない……。
だが皇の修行場、【鬼ヶ島】以上ではないと思いたい。
移動方法は例によって空飛ぶ荷台だ。
界王様の正体はレオレオさんだったから殴れなかった。
魔王様の方はさすがに知り合いではないだろう。
容赦なく殴ろう。
場合によっては……毟る。
道中、モンスターが何回か出現した。
修行代わりだと言ってガイと戦わせてみた。
これは……楽だ。
◯
魔界領へはとっくに侵入したが、関所とはどこだろう?
と思っていたら、いかにもという雰囲気のコロッセオがあった。
神威武装の授与会場にどこか似ている。
その中央に、全身を鎧でガチガチに武装した男の姿があった。
片手剣に盾も持っているな。
素材は……スタンダードな鉄か。
「来たか、人間どもの尖兵よ。第一はこの火の関門、火将軍デニオがお相手つかまつろう」
古風な喋り方だ。
武人っぽいというか。
「ええと、デニオさん。俺たちの人数はこれだけなんですけど……全員で襲いかかってもいいですか?」
「お前は鬼か!? 一対一に決まっておろう! 武人の勝負を何と心得る!!」
「いや俺、武人じゃなくてテイマーですし……ほら、ひ弱な人間って数頼みの所があるといいますか」
「そう言われると……いや待て。それでは力を示すことにならんだろう。一対一だ。誰かを選んでかかってこい。これだけは譲れん」
「じゃあハンデとしてデニオさんの能力を少し教えて下さいよ。その名の通り火を使って戦うとか?」
「否。このデニオ、そのようなモノに頼った軟弱な戦いなどせぬ。我が二つ名は『火の如き猛将』。男ならば拳と拳、剣と剣。それが作法だろう」
よく分からないがマイルールがあるらしい。
これに見合う仲間はというと……。
俺はガイを見た。
「俺か!? いや、まあ師匠がやれっていうならモチロンやるが……。確かに俺におあつらえ向きか。じゃあ師匠、今回の縛りは?」
「そうだねえ。俺の貸し出してる刀は使っていいよ。【クラウソラス】は使用禁止。絶対条件は相手の武器か防具をどれか一つは破壊すること。一発必中で。万が一の時は助けられるようスタンバイしておくし。これでどう? 自信ない?」
わざと煽る言い方をする。
ガイには我が家所蔵の刀を貸し出している。
その銘は【同田貫】。
【クラウソラス】を使わないときの代わりの武器だ。
変な刃筋で使わなければ剛剣にも耐えられるだろう。
さすがに木刀を持たすほど俺も鬼ではない。
「よっしゃ!! ガッテンだ!! 自信? 当たって砕けろだぜ!! 見ててくれよ師匠!!」
「その意気や良し!!」
相手のデニオさんからも喝采が上がった。
この二人、似ているのかも知れない。
二人は闘技場の真ん中に歩を進め、お互いに向かい合った。
「勝負開始の合図はどうする?」
ガイが言う。
「互いの言葉で良かろう。準備が整ったら言うがいい」
「準備だと? こっちはいつでもいいぜ。つか、ここに来て準備ができてねぇなんて言ったら師匠にしばかれる」
「師匠……? 先ほど全員で襲うとか言っていたあの男か? あんな卑怯な物言いをしておいて、そんなに強いのか?」
その時、ガイの額に青筋が浮いた。
「卑怯……? ありゃあ師匠なりの冗談だぜ? しかも強いかどうかだと? 俺の師匠だぞ? 俺らなんぞ、比べるのも烏滸がましい。あんまナメたこと言ってっと殺すぞ?」
いや、アレ別に冗談ではないんだけど。
許可をくれてたら即座に全員で袋だたきだよ。
俺、武人の矜持なんてこれっぽっちも無いし。
それとガイ、そのセリフってチンピラみたいだから。
「む、すまぬ。侮辱する意図はなかった。そこまで言うなら相当なモノなのだろう。謝罪する。ところで、そろそろ開始したいのだが?」
「おう、すまねえ。ちょっと頭に血が上っちまってよ。さっきも言ったが、こっちはいつでもいいぜ」
「よし。では──尋常に」
「「勝負!!」」
その言葉とともに二人は前方へと飛び出した。
双方、引くことなど一切考えてない。
やっぱり、デニオさんにガイをぶつけて正解だったな。
これは良い刺激になる。
俺たちは外野から攻防の行方を見守る。
さすがに言葉を掛け合いながら戦う余裕はないようだ。
ガイが果敢に攻め、デニオさんは守り重視。
守りつつ隙が生じたら反撃をするスタイルか。
二人の剣戟は苛烈だ。
金属のぶつかり合う甲高い音が辺りに響き渡る。
デニオさんは籠手に盾、それから剣。
ガイは刀のみ。
さて、お互い拮抗しているように見えるけど……。
正直、アドバイスしようと思えばできる。
だがこの場ではするべきではない。
せいぜい応援くらいか。
と、思っていると。
「!! 隙あり!!」
デニオさんのカウンターがガイに決まった。
しかしそれは軽傷で、頬を薄皮一枚斬られたに過ぎない。
…………。
ガイに発破をかけておくか。
「ガイ……何チンタラやってんの? 俺、棒振りのマネごとをやれなんて言ったっけ? 俺が勝負の前に言ったこと忘れた? 何のための秘剣だと思ってんの!!!!」
俺にしては珍しく、大声を張り上げる。
だが、これでガイに俺の意図は伝わるだろう。
その声を受けてか、渦中の二人は一度間合いを取る。
仕切り直すようだ。
「……秘剣? そのようなものが……?」
「ヤッベエ……師匠にドヤされちまった。クソッ!! まだ相手と愚直に斬り結ぶ悪癖が抜け来てねぇわ……。すまん、デニオ。侮ってたわけじゃないが、お前に師匠直伝の技を見せよう。防げるものなら防いでみろ」
ガイは俺の檄を受け、自信満々に言った。
それだけ修行の成果が実を結んでいる。
それを実感してるからこその自信だ。
神威武装の性能から来る自信は、もう少し歪んでいる。
「良かろう、男の真っ向勝負だ!! 宣言しよう!! こちらはその攻撃を防御、もしくは受け流してみせる!!」
「ははは! 気持ちのいいヤツだ! なら俺も宣言する。今から行うのは上段からの一撃。ただそれだけだ」
「まさに単純明快。これぞ勝負の醍醐味。いざ、いつでも参れ」
「おう、いくぞ。フゥー…………」
ガイは集中力を高める際、呼吸を整える。
実戦の時のクセとしてはダメだから今度、矯正するかな。
「…………」
デニオさんも無言でこそあるが、瞬きすらしていない。
そして、ガイに伝授した秘剣がここに放たれる。
「オッラアアアァァァアアァアア!!!!」
「!!!!」
ガイの剣を受けたデニオさんの剣は弾かれ飛んでいった。
デニオさんは万が一の事を考えていたのだろう。
剣を受ける際、その衝撃を利用して身を反転させ。
反対の手に持った盾の防御へと切り替えていた。
ある意味、これも受け流しだ。
これだけでも妙技と呼べる。
だが。
ガイの剣はその盾すら砕きかけていた。
正確にはヒビが入っていて、もう少しで砕けるといったところか。
「さすがに勝負ありかな?」
もういいだろう。
誰の目から見ても結果は火を見るより明らかだ。
俺は横から声をかけた。
これで相手がゴネたら選手交代だ。
まあ、そんな可能性はないだろうが。
「……某の負けだ……」
あ、この人の一人称、某なのか。
どこまでも古風だな。
さて、ガイに声をかけておくか。
もちろん『良くやった』なんて激励の言葉ではない。
「ガイ、まだまだ修行が足りないね」
「ちっくしょおおぉおおおぉ!!」
頭をかきむしるガイ。
「む、なんだ? なぜヤツは勝ったのに悔しがっている……?」
デニオさんが不思議そうに尋ねた。
「俺の技が未熟だからだよ……」
うなだれつつガイは言った。
「アレで未熟だと!?」
敵だけど説明しとくか。
この人、潔いし。
「アレね、剛の秘剣【兜割り】っていうんだよ。本来はその盾を真っ二つにできるはずなんだ。さらに秘奥に達すると鎧ごと中身も斬れる。で、それが中途半端なガイは未熟、と」
「!!??」
デニオさんは絶句していた。
「師匠、今回の点数は?」
「うーん。ものっっすごく甘めに見積もって四十五点かな」
「ぐぅう」
「その、なんだ。そこの師匠はどれくらい強いんだ?」
デニオさんがガイに尋ねる。
「師匠の強さ……? 俺如きじゃ分かんねぇよ……そもそも剛剣は苦手っつってたし……」
「!!??」
再び絶句するデニオさんだった。
いやだから。
俺テイマーなんだってば。
モンスターを使役さえすれば君らなんて瞬殺だよ?
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・エンペラーキマイラ
・エンペラーガーゴイル
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹
・凱
【兜割り】
晴近がガイに教えた剛の秘剣。
極めれば兜の上から頭をかち割れる。
もちろん実際の兜割りとは無関係である。




