第16話 青年は侵入する。
「こちら『エンペラー』。『ふわふわビッチ』、どうぞ」
「こちら『ふわふわビッチ』。ってハルくん! もう一回言うけど、そのコードネームはあんまりじゃないかな!?」
遥が通信アイテム越しに怒鳴った。
いま、俺たちはとある施設に侵入捜査している。
王宮発ギルド経由の依頼だ。
魔族がモンスターを研究し、
よからぬ計画を立てているとの情報を掴んだのだ。
以前のガーゴイルとも関係があるのかもしれない。
現在、俺たちは三手に別れている。
その内訳は……。
俺、アリア。
遥、伊吹。
そしてガイ。
それぞれが耳元に通信アイテムを付けている。
これは王宮からの貸与品だ。
本当はガイの方にもあと一人欲しかったのだが。
まあしょうがない。
あ、アリアは必然的に俺と同行です。
潜入調査という事で調子に乗って、
俺たちはコードネームを決めていた。
俺はいつも呼ばれている『エンペラー』。
遥は『ふわふわビッチ』。
アリアは『白米クレイジー』。
伊吹は『エセお嬢』。
ガイは『最強筋肉』だ。
なぜか遥だけが妙に嫌がった。
きっと照れているのだろう。
本人は『ふわふわ清楚』を希望していたが即却下された。
この施設は一見するとただの建屋だ。
だが地下に続く隠し通路があり、そこから道が三つ叉に分かれていた。
侵入した瞬間から腐臭のようなものが漂っている。
恐らくビンゴだ。
「わかったよ、遥に伊吹。そちらの異常は?」
「うん、こっちはモンスターが何体か出てきたんだけど……どれも腐りかけだったり見たこともないチグハグな形のやつばっかり。他、特に目立ったものはないかな」
「ワタクシも、雷が効くから苦戦はしないのですけど……」
「ガイの方は?」
「おう師匠。俺の方も似たような感じだ。俺の【クラウソラス】が良く効きやがる。見たところアンデッドでもなさそうだが……」
アンデッドでもないのに【クラウソラス】が特攻のモンスター……?
すぐには思い付かないな。
「アリア、疲れてない?」
同行のアリアにも声をかける。
「はい、私は全然。といいますか、ここ狭いので魔法が使いにくくて……」
アリアの魔法は派手なものが多い。
いざという時、こういう場所には向かないんだよね。
つくづく俺が一緒で良かった。
と、その時。
こちらの方にも一匹だけ出現した。
……明らかに大きいな。
この道が本命なのかもしれない。
「アリア、魔法の出力を絞ってアイツに攻撃して。そうだね……一本道の通路で味方もいないし、向こうにむけて【エンペラー波動砲】でいいから」
「はい! 【オーロラグリッター!!】」
アリアはどうしても【エンペラー波動砲】を使いたくないらしい。
だが、俺が指示せずともその威力は強力だ。
さすがは俺のアリア。
遥の言うとおり、チグハグで繋ぎ合わせたようなモンスターは粉々に吹き飛んだ。
さらに進むと大きな扉があった。
他の組にも確認をしてみる。
「こちら晴近。遥たちとガイはどう? こっちは大きな扉があったよ」
「私の方は……倉庫だね。資材みたいなのが置いてあるだけ」
「俺の方は居住区画っぽいな。ハズレだ」
「よし、じゃあこっちの扉を開けるか。アリア、魔法を撃つスタンバイだけしておいて。何があるかわからないから」
そう言って、扉に手をかける。
幸いにも鍵はかかっていなかった。
開けた扉の先には……。
眼鏡をかけた褐色肌の男と、切り刻まれたモンスターの残骸がそこら中にあった。
……魔族が関わっていると聞いたが、人間族?
白衣を着た褐色の男は言う。
「おんやあ? お客様とは久々な。どちら様ですかねえ? しかし、もう嗅ぎつかれたのですか。ところでどうです? この実験内容。私はね、それぞれのモンスターの長所をかけあわせて最強の魔獣を造ろうとしているのですよ!」
聞いてないのにベラベラ喋るのは助かるけど。
閉鎖空間にいるから人恋しかったりするのかな。
「いや、すごいねコレ。反吐が出る。俺、テイマーなんだけどさ。こういう……犠牲を出しまくってモンスターを強化するスタイルって大嫌いなんだよね」
「テイマーですかぁ。モンスターを扱うという意味では同類ですね! そういう割にはアナタ、モンスターを所持していないようですが?」
「俺は召喚できるテイマーなんで。一々連れ歩くのって、このアリアや一部の仲間だけだよ」
「……人間をテイム? そんな事が可能なのですかぁ? 興味深い! 是非とも方法を教えていただきたい!」
「そうだね。質問に答えた上で、俺との勝負に勝ったら余す所なく教えてあげるよ」
「そんな事でよろしいのですかぁ? ではまずは自己紹介を。私はアレックス。生命の探求者です」
「魔族が関わってるって噂だったけど、アンタ人間なんだね?」
「私は半魔なのですよぉ。魔族と人間のハーフ。ハーフは生まれた瞬間にどちらかの特徴を受け継ぎましてね。私は母からの人間因子が強かったようでしてぇ」
「ハーフか。それって魔族だけじゃなく、天族も同様にいるの?」
「極まれにいますねぇ」
「そっか。それは良い事を聞けた、ありがとう」
「? なんで急にお礼を? 意味が分からないのですがぁ?」
「いや、今まで失念してたんだけど、他種族でも交われるって話を聞けたからね。そのお礼だよ」
「よく分かりませんがどういたしましてぇ」
「じゃあ本題。この研究の意味は?」
「私の探究心が第一。後は魔王様の『より強い戦力を欲する』という方針からですねぇ」
……レオレオさんの言うとおり、魔族は過剰に戦力を欲しがってるな。
ともあれ、ここでこれ以上の情報は得られないかな。
「わかったよ、ありがとう。じゃ、始めようか? 最高傑作のキメラを出してきていいよ。俺も同様にキマイラを出す。それで勝負しよう」
「おお! アナタもキメラをお持ちなのですね! いやぁ、まさか他のキメラと優劣を競う機会がやってくるとはぁ。魔王様には『非人道的すぎるわタワケ』のお言葉とともに見放されてますから、こういった機会はもう訪れないかと思ってましたぁ」
「いいから早く出しなよ。俺の召喚って一瞬で呼べるから、あんまり準備に手間取ってると先に攻撃するよ?」
「それはそれは。お気遣いいただきましてぇ。では私の最高傑作を呼びましょう! おいで! 『アシュリー!』」
その時、奥の空間からまさに複合モンスターといえる存在が姿を現した。
その身体はライオンの頭、蛇の尾、ヤギの胴から成っている。
さらに、時おり口からチロチロと火を吐いている。
その様子は……涙を流し、とても苦しそうだ。
「なるほど、強そうだね。じゃあ俺の方も。あ、アリアは下がっててね。これ、テイマーの戦いだから。『サモン──【エンペラーキマイラ】』」
俺は【エンペラーキマイラ】を呼び出した。
途端、辺りは暗闇に包まれる。
このモンスターは正体不明の存在だ。
造形はマスターの俺しか知らない。
その正体は猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇だ。
「な、な、な。なんですかコレは!? 辺りが真っ暗に!? アナタ、それ本当にキメラですか!?」
「こいつは恥ずかしがり屋なんで。声くらいは聞こえますよ、ほら」
耳を澄ますまでもない。
この部屋全体に【エンペラーキマイラ】の鳴き声が響き渡る。
『ヒョー……ヒョー……』という恐ろしげな声だ。
こいつは古来から畏れられてきた存在だ。
……テイムする際、俺もけっこう苦労した。
「ヒイイイ!? この恐ろしげな鳴き声はなんですか!?」
「あ、あ、あ、あの晴近様。私も怖いんですけど……!」
いかん、流れ弾的な感じでアリアも怖がらせてしまった。
ごめんアリア、こいつはウッカリだね。
さっさと決着をつけるか。
「それじゃ、【エンペラーキマイラ】。今回は……雷でいいか、伊吹と被っちゃうけど。さあ、楽にしてやれ」
命令通り【エンペラーキマイラ】は一撃でアレックスのキメラを仕留めた。
絶命の瞬間、『アシュリー』はどこか穏やかな顔をしていた。
「おつかれさま、では『送還』っと。これ、俺の勝ちでいいよね?」
「はぃ……。どうひいき目に見てもアナタの勝ちです。通路に配置したキメラも全滅したようですし、もう私に攻撃手段はありません。お好きになさってくださぃ」
アレックスは観念したようだった。
こいつの処遇は……ギルドマスターのクライヴさんに一任するか。
依頼主だしね。
「あの晴近様?」
「ん、なんだい? アリア」
「どうして晴近様のモンスターって意味不明というか、恐ろしげなのが多いんですか……」
「まあまあ、そのうち慣れるさ」
「本当ですか……?」
終始、懐疑的なアリアなのであった。
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・エンペラーキマイラ(開示)
・エンペラーガーゴイル
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹
・凱
【エンペラーキマイラ】
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