第38話 絶縁の次の日
土曜日。
目が覚めて最初に時計を見た。
七時。
……早い。
学校がある日なら、そろそろ準備をしている時間だ。
でも今日は休み。
もう少し寝ていても誰にも何も言われない。
布団を引っ張り上げようとして手が止まった。
何となく目が覚めてしまっている。
昨日のことが頭に浮かんだ。
美幸に、もう関わらないでくれと伝えた。
放課後には拓海のところにも行った。
あれから一日。
二人とは、もう前みたいに話さない。
昨日まで考えていたことなのに朝になったら全部すっきりとはいかなかった。
スマートフォンに手を伸ばす。
通知はない。
俺は画面を消してベッドから起き上がる。
今日は美優ちゃんも海ちゃんも来ない。
学校がないんだから迎えに来る必要もないし。
昨日、別れるときにも、また明日とは言わなかった。
次は月曜日。
……二日、会わないのか。
そこまで考えて自分で少し驚いた。
ついこの前までは休みに誰とも会わなくても何も気にならなかったのに。
まあ、いいか。
久しぶりにゆっくりしよう。
顔を洗って朝ご飯を食べる。
部屋着のままリビングのソファに腰を下ろす。
テレビをつける。
何を見るでもなくリモコンでチャンネルを変える。
天気予報。
知らない街のパン屋。
もう一度変えると、今度は料理をしていた。
「……うまそう」
さっき食べたばかりなんだけど。
俺は背もたれに体を預ける。
隣が空いている。
反対側も。
当たり前だ。
一人で座っているんだから。
それなのに何となくソファが広く感じる。
変な感じだ。
今日は少し静かすぎる。
俺はクッションを引き寄せて膝の上に置いた。
ダラダラしていていい日だ。
早起きしたからって何かしないといけないわけじゃない。
そう思って、もう少し深く座り直したときだった。
ピンポ〜ン。
インターホンが鳴った。
「え……まさか……」
いや、まだ誰か分からない。
配達かもしれない。
お母さんが何か頼んでいたのかもしれないし。
ソファから立ち上がる。
壁のモニターの前まで行って画面を見る。
白い髪。
金色の髪。
美優ちゃんと海ちゃんだった。
しかも制服じゃない。
私服だった。
「……本当に来た」
画面の中で海ちゃんが美優ちゃんに何か話しかける。
美優ちゃんが笑った。
いつも学校へ迎えに来てくれるときと同じような顔で。
俺はテレビを消してリビングを出る。
廊下を歩く。
途中で自分の服を見る。
部屋着。
完全に家でダラダラするための格好だ。
髪、変になってないよな。
手で軽く押さえる。
うん。大丈夫そうだ。
玄関に着いてクロックスに足を通す。
鍵を開ける。
扉を開く。
「どうしたの? 今日、学校休みだよね?」
「あ! 謙也さん!!」
「謙也君、おはよう〜」
二人が、ぱっと笑った。
モニター越しに見たときより、ずっと近い。
朝の光の中で白い髪と金色の髪が揺れる。
眩しい。
何か二人の笑顔まで。
「お、おはよう」
少しだけ声がつっかえた。
毎朝の挨拶には慣れてきたと思っていたんだけど。
私服だと、また違うらしい。
美優ちゃんが俺を見上げる。
「起きてたんですね」
「うん。今日は珍しく」
「よかった。寝てたらどうしようって話してたんです」
「そのときは待とうって言ったんだよね〜」
海ちゃんが美優ちゃんを見る。
美優ちゃんも頷く。
「待つって、ここで?」
「うん」
「連絡してくれればよかったのに」
「連絡したら、会いたいって言っちゃいそうだったので」
「……え?」
美優ちゃんが口を閉じる。
海ちゃんが横で笑った。
「今、言ったじゃん」
「……言っちゃった」
美優ちゃんの頬が少し赤くなる。
俺まで何と返せばいいのか分からなくなった。
朝から、それは。
まだこっちは部屋着なんだけど。
「それで、今日は?」
俺が聞くと美優ちゃんが両手を胸の前で合わせる。
「邪魔者二人もいなくなりましたし、一緒にお出かけしませんか?」
「ね〜」
海ちゃんも俺の顔を覗き込んでくる。
二人からの誘いだった。
「お出かけ?」
「はい」
「今日、何か予定あったりする?」
「いや、ないけど……」
テレビを見て。
昼になったら何か食べて。
たぶん、そのあともソファでゴロゴロする。
予定って呼んでいいのか、それ。
「じゃあ、うちたちと遊ぼ?」
海ちゃんが笑う。
「せっかくの休みだし」
「謙也さんと学校以外のところにも行きたいです」
美優ちゃんも続けた。
俺は二人を見る。
わざわざ私服で、うちまで来てくれたんだ。
俺を誘うために。
さっきまで次に会うのは月曜日だと思っていた。
二日、会わないのかって。
それが今は目の前にいる。
「……うん。行きたい」
答えると、美優ちゃんの顔が明るくなった。
「本当ですか!」
「やった〜」
海ちゃんが小さく手を上げる。
その反応を見て俺も笑ってしまった。
「でも、ちょっと待ってね。着替えてくるから」
「うん。待ってる」
「何分でも待ちますよ」
「そんなにはかからないよ」
俺は玄関の内側に下がる。
それから、もう一度二人を見る。
「あ、入って。外で待たなくていいから」
「お邪魔します」
「お邪魔しま〜す」
美優ちゃんが先に入って海ちゃんも続く。
玄関の扉が閉まる。
さっきまで一人だった家に二人の声がする。
「謙也君、部屋着もいいね」
「え?」
「いつもと違って」
「海、分かる」
「美優ちゃんまで?」
着替える前から、もう落ち着かない。
俺はクロックスを脱いで、二人に背を向けた。
「すぐ戻るから」
「はい。楽しみにしてます」
「ゆっくりでいいよ〜」
階段に向かう。
その途中で口元が緩んでいることに気づいた。
今日はソファでダラダラするつもりだった。
それも悪くないと思っていたけど。
俺は階段を上がる足を少し速める。
何を着よう。
学校に行くときみたいに、制服を選べば終わりじゃない。
あの二人と並んで歩くんだし。
……変じゃない服、あったよな。
悩むな。
部屋のドアを開けて、すぐにクローゼットに手をかけた。




