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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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第35話 二人への今後のお願い

「いらっしゃい」


 次の日の朝。


 玄関のドアを開けて俺は二人を迎えた。


「謙也さん、おはようございます」


「謙也君、おはよう〜」


 白い髪と金色の髪。


 見慣れてきた美優ちゃんと海ちゃんの笑顔に俺も口元を緩める。


「うん。おはよう」


 前よりは、ちゃんと言えるようになった。


 二人の顔を見て。


 変に声が裏返ることもなく。


 まあ挨拶だけで喜んでいるのもどうかと思うけど。


 今日は、そのあとが大事だった。


「入って。まだ時間あるから」


「はい。お邪魔します」


「お邪魔しま〜す」


 美優ちゃんに続いて、海ちゃんが玄関に入ってくる。


 後ろ手にドアを閉めてくれた。


 二人がローファーを脱ぐ。


 美優ちゃんは脱いだ靴を揃えてから、海ちゃんは肩のカバンを持ち直してから、玄関を上がった。


 いつもなら、ここでリビングへ向かう。


 でも今日は。


「ストップ」


 俺は二人の前で両腕を広げた。


 美優ちゃんの足が止まる。


 海ちゃんも俺の手と顔を交互に見た。


「な、何ですか?」


「は、入っちゃダメなの?」


 海ちゃんの声から、さっきの明るさが少し消える。


 美優ちゃんも不安そうに眉を寄せる。


 ごめんね。


 追い返したいわけじゃないんだ。


 俺はすぐに両腕を下ろす。


「違うよ。ちょっと話がある」


「お話……ですか?」


「うん。すごい大事なね」


 そう言うと、二人が静かになった。


 美優ちゃんの手が、カバンの持ち手をぎゅっと握る。


 海ちゃんも、いつものように冗談を言ってはこなかった。


 俺、そんなに怖い顔してる?


 なるべく普通に話そうと思っていたんだけど。


「怒ってるわけじゃないから」


 先に、それだけ伝えた。


 二人が少しだけ顔を上げる。


 俺は一度、息を吐いた。


 昨日、家に帰ってからも考えていた。


 海ちゃんの部屋では楽しかった。


 二人と話して。


 近すぎて困って。


 それでも帰るときには少し寂しくなっていた。


 でも、そのあとの廊下。


 拓海の部屋の前に立っていた時間は、どうしても同じ気持ちではいられなかった。


「もう美幸や拓海を攻撃しなくていいよ」


 美優ちゃんが瞬きをした。


 海ちゃんの口元も動く。


 何か言おうとしたのかもしれない。


 俺は二人の顔を見たまま続けた。


「俺のためだって分かってる。二人が怒ってくれたの嬉しかったし」


「……はい」


 美優ちゃんの声が小さかった。


「でも美幸も拓海も落ちるところまで落ちたと思うから。もういいよ」


 海ちゃんが視線を下げる。


 俺の言葉を、どう受け取ったんだろう。


 許してあげてって言っているように聞こえたかな。


 それは、まだ違う。


 あの日のことを思い出せば今でも胸が苦しくなる。


 美幸と拓海の顔を見て何もなかったころみたいに笑える気もしない。


「それに、美優ちゃんも海ちゃんも、これ以上頑張る必要はないから」


「謙也さん……」


「もう十分、助けてもらったよ」


 学校の前で俺の足が止まったときも。


 教室に入るのが怖かったときも。


 気がつけば、すぐ隣に二人がいた。


 朝、迎えに来てくれる。


 休み時間には顔を見せてくれる。


 放課後も一緒に過ごしてくれる。


 俺がうまく話せなくても待っていてくれた。


「二人と普通に話してる方が俺は楽しいから」


 言ってから少し照れた。


 でも目は逸らさない。


「……それに、もう美優ちゃんや海ちゃんが人を傷つけるところを見たくないよ」


 二人が動かなくなった。


 俺は手を軽く握る。


 ここが一番言いたかった。


 怒っている顔も俺を守ろうとしてくれていることも分かっていた。


 それでも。


 美優ちゃんが笑っている方がいい。


 海ちゃんが楽しそうに話している方がいい。


 誰かを責めている声より俺の名前を呼んでくれる声を聞きたい。


 いつの間にか、そんなふうに思うようになっていた。


「二人のこと大事だから」


 口から出たあとで顔が熱くなる。


 言った。


 今、言ってしまった。


 でも引っ込めるのも違う。


「だから……そういうことをするために頑張らなくていいよ」


 玄関が静かになった。


 美優ちゃんも海ちゃんも、口を半分開けて俺を見ている。


 瞬きまで少なくなっていた。


 ……あれ。


 言いすぎちゃったかな。


 何だか二人とも固まってるんだけど。


「えっと、嫌いになったとかじゃなくて」


 慌てて付け足す。


 美優ちゃんの肩が動いた。


 海ちゃんも、俺に向かって一歩踏み出す。


「謙也さん!」


「謙也君!」


 声が重なった。


 美優ちゃんの手からカバンが滑り落ちた。


 海ちゃんのカバンも肩からずり落ち、床にどさっと落ちる。


「は、はいっ!?」


 俺の返事だけが裏返った。


 近い。


 さっきまで少し距離があったのに二人とももう目の前だった。


「分かりました! もうしません!」


 美優ちゃんが大きく頷く。


「謙也君の言うとおりにするよ」


 海ちゃんも続く。


「あ、うん。ありがとう」


「もう叩いたり、追い詰めたりしません。謙也さんが嫌な気持ちになるなら」


「うちも。クズ兄……お兄ちゃんのことも、わざわざからかいに行かない」


 途中で言い直した海ちゃんを見て少し肩の力が抜けた。


 伝わったんだ。


 よかった。


 もっと気まずくなるかと思っていた。


 俺だけが勝手なことを言っているように聞こえないか、ずっと気になっていたから。


「ありがとう。聞いてくれて」


 俺は感謝の気持ちを伝える。


「謙也さん、素敵です……」


 美優ちゃんが頬に両手を添える。


「え?」


「うちだったら、そんなふうに考えられないよ」


 海ちゃんまで俺を見つめる。


 頬が赤かった。


 美優ちゃんも同じだ。


 しかも目が。


 何というか。


 ハートになってる。


 そんな目だった。


「二人とも?」


「自分がひどいことをされたのに、私たちのことまで心配してくれるんですね」


 美優ちゃんの声が、いつもより甘い。


「うちたちが頑張らなくていいように、ちゃんと言ってくれたんだ」


「いや俺も楽しく過ごしたいだけで……」


「それでもです!」


 美優ちゃんがまた一歩近づいた。


 海ちゃんも反対側から。


 俺は思わず片足を引く。


「はぁ……」


 美優ちゃんが息を吐いた。


 海ちゃんも胸元に手を当てる。


「何か、すごい……」


「はい……すごいです……」


 何が?


 俺は二人を見る。


 息が少し速い。


 頬も、さっきより赤くなっている。


 具合が悪いのかと思ったけど。


 そういう顔じゃない。


 むしろ、すごく嬉しそうだ。


「ちょっと、落ち着いて?」


「落ち着きたいです」


「うちも、そのつもりなんだけど」


 言いながら二人とも近づいてくる。


 落ち着こうとしている人の動きじゃない。


「謙也さんに大事って……」


 美優ちゃんが俺を見上げた。


「私達のこと、大事って言ってくれましたよね?」


「言ったけど」


「もう一回、聞いてもいいですか?」


「聞こえてたよね?」


「聞こえてました。でも、もう一回……」


 美優ちゃんが胸の前で手を握る。


 海ちゃんも隣でうなずいている。


「うちも聞きたい」


「同じ話を何回もするの?」


「嬉しいことは何回聞いてもいいじゃん」


 その言葉。


 昨日の廊下でも聞いた気がする。


 俺は二人から少しだけ目を逸らした。


 耳まで熱い。


 大事な話をしようと思っていた。


 ちゃんと伝えて。


 二人に無理をしなくていいって言って。


 それで、いつもどおり学校へ行くつもりだった。


 何でこんなことになってるんだ。


「……大事だよ。二人とも」


 小さく言った。


 途端に、美優ちゃんが息を吸う。


 海ちゃんの手が俺の袖を掴んだ。


「謙也さん……!」


「謙也君、かっこいい……」


 また声が重なった。


 俺は二人の顔を交互に見る。


 しんどそうというより、明らかに興奮している。


 目も、頬も、声まで。


 もしかして。


 これ、俺のせい?


「……話、ちゃんと伝わってる?」


「はい! もうしません!」


「約束する!」


 返事はすぐだった。


 そこは安心した。


 安心したけど。


「じゃあ、とりあえず少し離れようか」


 二人が顔を見合わせる。


 それから、また俺を見た。


「それも、謙也さんのお願いですか?」


「うん」


「……じゃあ、ちょっとだけ」


 美優ちゃんが半歩下がる。


 海ちゃんも同じくらい。


 さっきよりは離れた。


 本当に、ちょっとだけ。


 俺は二人の足元を見てから、顔を上げた。


 どちらも、まだ俺を見つめている。


 ……今日も、学校に着く前から色々と大変そうだな。


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