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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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第31話 謝罪

「少し行ってきます」


 美優ちゃんが言った。


 俺は隣に顔を向ける。


「え?」


 返事をするより早く美優ちゃんが俺の席を離れる。


 白い髪が揺れる。


 机の間を抜けていく足に迷いはなかった。


 向かっているのは美幸の席だった。


 俺は椅子に座ったまま、その背中を目で追った。


 美幸は相変わらず動かない。


 机の上に置いた両手を見つめている。


 前髪が顔にかかっていて、どこを見ているのかも分かりにくかった。


 美優ちゃんが、その机の横で立ち止まる。


「どう? 落ちに落ちた気分は?」


 聞こえた声に俺の肩が少し強張った。


 さっきまで、ドラマの続きを楽しみにしていた声とは違った。


 美幸のすぐ隣にいた女子が顔を上げる。


 少し離れた席の男子も二人に目を向けた。


「……」


 美幸は答えなかった。


 顔も上げない。


 ただ机の上に置いた指が少し動いた。


 聞こえてはいるんだと思う。


「昨日、あれだけパパとママに言われたよね」


 美優ちゃんが続ける。


 俺の横で海ちゃんが黙っていた。


 机についていた手を離して美優ちゃんと美幸を見ている。


「それで今日は何もしないの?」


 美幸の唇が動いた。


 でも声にはならなかった。


 俺は膝の上で手を組む。


 何だか落ち着かなかった。


 俺のことを話している。


 だけど俺がここから何を言えばいいのか分からない。


 もういいよ、とは思っていない。


 だからって、もっと言ってくれとも思えなかった。


「黙ってたら謙也さんの方から話しかけてくれると思ってる?」


 美優ちゃんが美幸の顔を覗く。


 美幸は、わずかに首を横に振った。


「じゃあ、どうするつもりなの」


「……」


 また返事がない。


 美優ちゃんの手が机の上へ上がった。


「ここまで落ちて、まだ謙也さんに謝らないの!」


 バンッ。


 教室に音が響いた。


 思わず背筋が伸びる。


 近くの女子がびくっと肩を揺らした。


 前の方で話していた男子たちまで振り返る。


 美優ちゃんの手のひらが美幸の机についていた。


 美幸の肩も跳ねていた。


 顔を上げる。


 目の下の隈が、ここからでも見えた。


「……美優」


 かすれた声だった。


 美優ちゃんは、その顔を見つめた。


 何か言い返すのかと思った。


 でも、すぐには口を開かなかった。


「……やれることはやろうよ」


 さっきより、ずっと小さな声だった。


 美優ちゃんの眉が下がる。


 ほんの一瞬だけ、悲しそうな顔に見えた。


 怒っているのとも、呆れているのとも違う。


 俺がその顔を確かめようとしたときには、もう美優ちゃんは唇を結んでいた。


 美幸が机の端を掴む。


 椅子が少し後ろへ動いた。


 ぎ、と床を擦る音がした。


 立つのか。


 そう思った途端、俺の手に力が入る。


 美幸はゆっくり腰を上げた。


 机に置いていた手を離す。


 美優ちゃんは何も言わず、通れるように一歩横にずれた。


 美幸が、こちらを見た。


 目が合う。


 俺はすぐに逸らさなかった。


 来る。


 こっちへ。


 美幸は机の間を歩き始めた。


 さっき席へ向かったときと同じ重そうな足取り。


 上履きの先を見て、それから少しだけ顔を上げる。


 また俺を見る。


 声を掛けてくるのかと思ったけど、まだ何も言わない。


 近くにいた男子が椅子を引いた。


 美幸が通り過ぎる。


 教室の話し声が、だんだん小さくなっていった。


 誰かが俺を見る。


 それに気づいて余計に肩が固まった。


 俺、どうすればいいんだ。


 立った方がいいのか。


 座ったままでいいのか。


 とりあえず話を聞けばいいんだよな。


 それくらいは。


 でも何て言われるんだろう。


 前に謝りたいと言われたときのことが頭に浮かんだ。


 あのときも、うまく返事ができなかった。


 また変な声になったら嫌だな。


 そんなことを考えている間に、美幸はすぐ近くまで来ていた。


「……」


 俺の机の横で足を止める。


 海ちゃんが少しだけ後ろへ下がった。


 美幸と俺の間が空く。


 俺は椅子に座ったまま、体をそちらへ向けた。


 近くで見ると、思っていたより顔色が悪かった。


 髪も乱れている。


 だけど今は、その目がちゃんと俺を見ていた。


 俺は唇を開く。


「美幸――」


 その直後だった。


 美幸の体が急に低くなった。


「え?」


 膝が床につく。


 続いて両手。


 あまりに速くて、何が起きたのかすぐには分からなかった。


 さっきまで、あんなにゆっくり歩いていたのに。


 美幸は両手をついたまま、勢いよく頭を下げた。


 長い黒髪が前へ流れる。


 顔が見えなくなる。


 そのまま額が床についた。


「謙也……本当にごめんなさい」


 俺は息を止めた。


 美幸の頭が床についている。


 両手も、膝も。


 土下座だった。


 そう分かった瞬間、椅子の上で体が引けた。


「……っ」


 声が出なかった。


 何だよ。


 何で、そこまで。


 謝りに来たんだとは思っていた。


 でも、こんなのは考えていなかった。


 美幸は顔を上げない。


 床についた指が、ぎゅっと曲がった。


「好きだなんてウソをついて、ごめんなさい。信じてくれたのに、笑って……本当に、ごめんなさい」


 一息で言ったあと、肩が大きく動いた。


 息を吸ったらしい。


 それでも頭は下げたままだった。


 周りが静かだった。


 誰も笑わない。


 何も言わない。


 だから余計に美幸の声だけが聞こえた。


「ごめんなさい」


 また同じ言葉。


 額を床へ押しつけるみたいに、背中が丸くなる。


 もう分かったから、と言いかけた。


 でも、それを言ったら。


 許したことになるんだろうか。


 今までどおりに話せると思われるんだろうか。


 分からない。


 そんなところまで、一度に考えられない。


 俺はただ、普通に立ったまま謝ってほしかった。


 顔を見て。


 何を言うのか、聞かせてほしかった。


 こんなふうに床へ頭をつけられたら、俺が何とかしないといけないみたいじゃないか。


「謙也さん……」


 美優ちゃんの声がした。


 いつの間にか近くまで戻ってきていた。


 でも俺は顔を向けられなかった。


 美幸の手が見える。


 床についた、見慣れた手。


 その少し先に、俺の上履き。


 近すぎて、足を引いた。


 美幸の肩がかすかに動く。


 気づかれたのかもしれない。


 それでも、頭は上がらなかった。


 いざ目の前でこうされると。


 嬉しいとも、安心したとも思えなかった。


 驚いて、戸惑って。


 正直、少し引いていた。


 美幸は床に頭をつけたまま、俺の返事を待っている。


 俺は口を開いた。


 けれど何を言えばいいのか。


 最終的に一言も出てこなかった。


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