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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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第3話 姉への怒り

「本当に、もう大丈夫ですか?」


 校門を出たところで、美優ちゃんが俺に尋ねる。


「うん。さっきよりは、だいぶ」


「さっきよりは、ですよね?」


「……まあ」


「それ大丈夫とは言わないと思います」


 美優ちゃんは納得していないようだった。


 俺の顔を見て、目元へ視線を移して、それからまた目を合わせてくる。


 そんなに確認しなくても。


 そう言いかけて、やめた。


 さっきまであんなに落ち込んでた奴が大丈夫だと言っても、そりゃ信じられないよな。


 俺でも疑う。


「……ちゃんと歩けるよ」


「歩けるかどうかだけを聞いているんじゃありません」


「そうだよね」


 美優ちゃんが小さく息を吐いた。


 怒らせてしまっただろうか。


 顔を見ると目が合った。


「つらくなったら言ってくださいね」


「うん」


 美優ちゃんはそれ以上聞いてこなかった。


「帰ろうか」


「はい」


 俺たちは並んで歩き始めた。


 肩にかけた学生カバンが歩くたびに脇腹へ当たる。


 いつもと同じ重さのはずなのに今日は妙に重かった。


 住宅街へ入ると学校帰りの生徒も少なくなっていく。


 どこかの家から聞こえてくるテレビの音。


 夕飯でも作っているのか、甘辛い匂いまで漂ってきた。


 向かいから来た自転車を避けるために端へ寄ると、美優ちゃんとの距離が少し近くなった。


「…………」


「…………」


 会話はない。


 だけど不思議と気まずくはなかった。


 美優ちゃんが隣にいてくれる。


 それだけで不思議と安心した。


 歩き慣れた道を二人で進む。


 電柱の脇を通って、いつもの角を曲がる。


「あ……ここだ」


「はい」


 自宅の前で足を止める。


「今日はありがとう。助かったよ」


 美優ちゃんが俺を見る。


「屋上でも、その……話を聞いてくれて」


「はい」


「ここまで一緒に帰ってくれて本当にありがとう」


 抱きしめてくれたことは、うまく口にできなかった。


 思い出すと恥ずかしい。


 俺、どのくらい美優ちゃんにくっついていたんだろう。


 途中から全然分からなくなっていた。


「一緒に帰れてよかったです」


「……うん。俺も」


 言ってから頬が熱くなった。


 でも本当だった。


 一人だったら、まだ屋上にいたかもしれない。


 帰れたとしても、何度も立ち止まって、二人に言われたことを思い出していた気がする。


 美優ちゃんがいてくれてよかった。


 それは、ちゃんと伝えたかった。


「……明日の朝」


「ん?」


「迎えに来てもいいですか?」


「美優ちゃんが?」


「はい。一緒に学校へ行きましょう」


 思わず美優ちゃんの顔を見た。


 冗談を言っている顔じゃなかった。


「そこまでしてもらわなくても」


「私がしたいんです」


「本当にいいの?」


「私がしたいんです」


 同じ言葉が返ってきた。


 さっきより、ほんの少しだけ強かった。


 断れる雰囲気じゃなかった。


 いや断りたくなかった。


 明日の朝、一人で制服に着替えて。


 学校へ行ったら美幸がいて、拓海がいて。


 そんなことを考えたら、さっきまで少し楽になっていた胸が、また重たくなった。


 美優ちゃんが迎えに来てくれて一緒に登校できるなら……。


「じゃあ、お願いしようかな」


「はい!」


 美優ちゃんの表情が一気に明るくなる。


 その変わり方に少し驚いた。


 さっきまでは、どこかずっと心配そうな顔をしていたから。


 こんなふうに笑うところを今日は初めて見た気がした。


「いつも何時くらいに出ていますか?」


「七時四十五分ぐらいかな」


 俺が普段の時間を伝えると美優ちゃんはすぐにうなずいた。


「分かりました。その時間に行きますね」


「急がなくていいからね」


「謙也さんこそ、絶対に待っていてくださいね?」


「寝坊したらごめん」


「その時はドアを何度も叩きまくります」


「それは困るかも」


「だったら起きてください」


「頑張ります」


「約束ですよ」


「うん」


 思わず少し笑ってしまった。


 美優ちゃんが俺の顔をじっと見る。


「……どうしたの?」


「いえ」


 首を横に振って美優ちゃんも笑う。


「明日、楽しみにしています」


「学校に行くだけだよ?」


「謙也さんと一緒に、です」


「……そっか」


「それじゃあ、また明日」


 美優ちゃんが小さく手を上げる。


「うん。また明日」


 俺も軽く手を振った。


 美優ちゃんは名残惜しそうに一度手を下ろしかけて、もう一度振ってくれた。


 それから背を向けて住宅街を歩き始める。


 肩にかけたカバンが小さく揺れていた。


 俺は家の前に立ったまま、その背中を見送った。


 途中で美優ちゃんが振り返る。


 まだ俺がいることに気づくと、また手を上げた。


 俺も上げる。


 今度こそ美優ちゃんが前を向いた。


「……アラームの数を増やしておくか」


 ドアを叩かれるのは困る。


 でも、それ以上に。


 迎えに来てくれる美優ちゃんを、外で待たせたくなかった。


 その姿が角を曲がって見えなくなるまで見届けてから俺は自宅に入るのだった。



☆☆☆



(北條美優視点)


「……本当に許せない」


 角を曲がった途端、言葉が漏れた。


 さっきまで上げていた手を下ろす。


 もう謙也さんには見えない。


 私は帰り道を進む。


 謙也さんの前では我慢した。


 でも、もう我慢しなくていい。


「ほんと、ふざけないでよ……」


 肩にかけていたカバンの持ち手を強く握る。


 指が痛い。


 それでも力を緩める気にはなれなかった。


 謙也さんの顔が頭から離れない。


 大丈夫だと言いながら私と目を合わせられなかった。


 泣くのを堪えるみたいに、ずっと顔を伏せていた。


 私に話すことさえ、ためらっていた。


 聞いたら嫌な気分になると思うって。


 自分があんなに傷ついているのに私が傷つくことを心配していた。  


 私の大好きな謙也さんに、あんな顔をさせたあいつが凄く憎い。


「……なにが勘違いよ」


 好きですと言われて信じて。


 それで、どうして謙也さんが自分をバカだと言わなきゃいけないの。


 そんなこと、あるわけないじゃん。


 バカなのは笑った方だ。


 あんなに嬉しそうにしてくれる人の気持ちを平気で踏みにじった方だ。


 息を吐く。


 爪が食い込んでいた手を開いても、すぐにまた握ってしまった。


 好きだった。


 ずっと。


 本人にはまだ言えていない。


 恥ずかしくて、いつもなんでもないふりをしていた。


 謙也さんに会えたら嬉しい。


 名前を呼んでもらえたら、それだけで機嫌がよくなる。


 そんな自分を知られるのが恥ずかしかった。


 でも気持ちがなくなった日は一度もない。


 小さい頃、私が話しかけると、謙也さんはちゃんとこっちを向いてくれた。


 お姉ちゃんに用があって来た日でも。


 急いでいる日でも。


『美優ちゃん、どうしたの?』


 お姉ちゃんと喧嘩したときも、そうだった。


『美優ちゃんの話も聞こうよ』


 お姉ちゃんだけを見て、私に謝れと言ったことなんてなかった。


 私が悪いときは、ちゃんと言ってくれた。


 でも泣いてうまく話せなくても待ってくれた。


 だから好きになった。


 優しくしてくれるから、もっと一緒にいたくなった。


 謙也さんが家へ来ると分かれば、玄関の音が気になって仕方なかった。


 それなのに。


「……知ってたくせに」


 お姉ちゃんだって謙也さんがどういう人か知っていた。


 私より長く一緒にいたんだから。


 その優しさを分かって利用した。


 あのクズ姉は。


 嘘告して、それだけじゃなく、彼氏と一緒になってバカにして。


「……最悪」


 お姉ちゃんなら謙也さんを裏切ったりしないと思っていた。


 少なくとも気持ちを踏みにじったりはしないだろうと。


 謙也さんがお姉ちゃんを好きなことは分かっていた。


 名前を呼ぶときの声。


 お姉ちゃんが来たとき、そちらに向いた時の謙也さんの表情。


 見たくなくても気づいてしまった。


 だから私は自分の気持ちを押し殺していた。


 諦めなきゃって。


 お姉ちゃんと一緒にいる方が謙也さんは幸せなんだって自分に言い聞かせていた。


 うまく笑えるかは分からなかった。


 それでも謙也さんが嬉しそうならおめでとうと言えるようになりたかった。


 なのに。


 なのに。


「……マジきもい」


 彼氏がいたんだ。


 別の人と付き合っていたんだ。


 それなら謙也さんにそう言えばよかったじゃん。


 わざわざ屋上に呼び出す必要なんてないじゃん。


 謙也さんが勇気を出そうとしたところを、カップル二人で笑う必要なんて、どこにもない。


 もう、お姉ちゃんなんて呼びたくない。


 クズ。


 いや雑巾で十分。


 少なくとも今は、あの人を大切な姉だなんて思えない。


 思い出すのは震えていた謙也さんの声だった。


『ただ美幸が好きだっただけなのに』


 唇を噛む。


 私なら。


 私だったら、そんな気持ちを向けてもらえたら、それだけで泣くくらい嬉しいのに。


 大事にしたかった。


 誰にも笑わせたくなかった。


 なのに私が大切にしたかった気持ちを、あの二人は笑った。その中の一人が姉、いや雑巾だなんて。


「……徹底的にやってあげる」


 家へ続く道を曲がる。


 さっき謙也さんに向けた笑顔は、もう作れなかった。


 明日は迎えに行く。


 絶対に。


 あの二人がいる学校に謙也さんを一人で行かせたりしない。


 顔を見て、隣を歩いて。


 つらそうなら今度も私がそばにいる。


 でも、それだけで終わらせるつもりはない。


 謙也さんが傷ついて泣いていたことを、なかったことになんてさせない。


 自分たちだけ楽しかったで済ませるつもりなら、大間違いだ。


 覚悟しなよ?


 お姉ちゃんだからって関係ないから。


 そっちがやったんだからね?


 私の大好きで大切な謙也さんを傷つけたんだからね?


 今さら冗談だったなんて笑って済ませられると思わないでよ。


 容赦はしないから。

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