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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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25/40

第25話 訪問者は——

(北條美幸視点)


 ピンポ〜ン。


 リビングでぼんやりしていたらインターホンが鳴った。


 あたしはソファに座ったまま顔を上げる。


 テレビはついている。


 でも、さっきから何をやっているのか、ほとんど頭に入ってこなかった。


 美優は、まだ帰っていない。


 パパもママも。


 家の中にいるのは、あたしだけだった。


「……美優かな」


 鍵を忘れたとか。


 それなら玄関を開けたときくらい話せるかもしれない。


 スマートフォンをテーブルに置いた。


 ……美優、まだかな。


 あたし、拓海と別れたよ。


 もう、あいつと一緒に謙也を笑ったりしない。


 そう言ったら少しくらい話を聞いてくれるだろうか。


 せめて無視しないでほしい。


「は〜い」


 返事をして立ち上がった。


 インターホンの画面は見なかった。


 そのまま廊下を歩いて玄関に向かう。


 置いてあったクロックスに足を通し、鍵を開けた。


「美優? 鍵、忘れ――」


「ちょっと! どういうこと!」


 扉を開けた途端、声が飛んできた。


 びくっと肩が跳ねる。

 

 目の前にいた女性が、あたしに顔を近づけてくる。

 

 長い黒髪。

 

 きっちりしたスーツ。

 

 よく知っている顔だった。

 

 でも、こんな顔は知らない。


「お、おばさん?」


 謙也のお母さんだった。


 どうして、ここに?


 普段、仕事で家を留守にしていることが多いはずなのに。


 帰ってきてたの?


「あなたに、おばさんなんて呼ばれたくないわ!」


 息が止まった。


 ドアノブを握る指に力が入る。


 おばさんは、全然笑っていなかった。


 眉がきつく寄っている。


 額には筋が浮かんでいて、あたしを見つめる目も鋭い。


 何。


 何で、そんなに怒ってるの。


「あ、あの……」


 半歩、後ろに下がった。


 おばさんが、その分だけ近づく。


 玄関の明かりが顔に当たって、表情がますますはっきり見えた。


「どうしたんですか! 何かあったんですか!」


「どうしたんですか、じゃないわよ!」


 声が玄関に響いた。


 あたしは口を閉じる。


「あなた、うちの可愛い息子の謙也に嘘告して、ひどく傷つけたらしいじゃない。美優ちゃんから聞いたわよ。幼馴染なのに正気?」


 胸の奥が、ひゅっと縮んだ。


 知られた。


 おばさんにも。


 あたしは視線を横に動かした。


 おばさんの肩越しに、白い髪が見える。


 美優だった。


 門の内側で、こっちを見ている。


 その隣には拓海の妹もいた。

 

 少し後ろに謙也まで。

 

 何で。

 

 みんなで来たの?


「……美優」


 妹の名前が漏れた。


 美優は返事をしなかった。


 おばさんが、あたしの目の前に視線を戻させるように言う。


「今、私が聞いてるの」


「は、はい……」


「好きでもないのに呼び出して、好きだって言ったの?」


「それは……」


「信じた謙也を彼氏と笑ったらしいじゃない」


 喉が詰まった。


 違うと言えばいい。


 でも何が違うの。


 呼び出したのは、あたしだ。


 好きだって言ったのも。


 謙也が戸惑って嬉しそうにした顔を見たのも。


 そのあと拓海と笑ったのも。


「ずっと一緒にいた謙也に、どうしてそんなことができるの?」


 おばさんの声が低くなった。


 大きな声より、そっちの方が怖かった。


「謙也がどんな顔をしたか、あなたは目の前で見てたのよね?」


「……はい」


「それでも笑えたの?」


 あたしはドアノブから手を離した。


 手のひらが汗ばんでいた。


 どこへ置けばいいか分からなくて、胸の前で指を重ねる。


「その、あたしも……」


「あなたも、何?」


 言葉が続かない。


 謝ろうとした。


 昨日、謙也に話しかけた。


 だけど、それを言ったら。

 

 謝ろうとしたから何だって聞かれる気がした。

 

 結局まだ謝れていない。

 

 美優に止められたから。

 

 そう言おうとして妹の顔が目に入った。

 

 冷たい目だった。

 

 今そんなことを言ったら何て返されるだろう。

 

 あたしは視線を落とした。


「黙ってないで答えなさいよ!」


「……えっと」


 声が小さくなる。


 顔を上げられない。


 玄関の床ばかり見てしまう。


 クロックスの先が、ほんの少し内側を向いていた。


 こんなところで、何を見てるんだろう。


 ちゃんと話さなきゃ。


 何か言わなきゃ。

 

 なのに頭の中がぐちゃぐちゃで言葉が一つもまとまらない。


「あなたじゃ話にならない」


 おばさんが言った。


 あたしの肩が、また動く。


「お母さんに電話するわね」


「え……」


 電話?


 ママに?


 おばさんはスーツのポケットからスマートフォンを取り出した。


 迷っている様子なんて少しもなかった。


「まったく。昔から、あなたのことはあまり好きじゃなかったのよね」


 胸が、ずきっとした。


 あたしは顔を上げた。


 おばさんは画面を見ていた。


 昔から?


 うちに来たとき、普通に話してくれたじゃない。

 

 謙也の家に遊びに行ったときも。

 

 お菓子を出して笑ってくれてたじゃない。

 

 あれの全部が……。


「美優ちゃん、いいかしら?」


 声が変わった。


 あたしが聞き慣れている優しい声だった。


 美優がおばさんに近づく。


「はい! もちろんです!」


 返事はすぐだった。


 止めないんだ。


 お姉ちゃんが困るから、とか。


 一度、家族で話すから、とか。


 そんなことは一つも言ってくれない。


「ママ、まだ仕事中だと思いますけど。出られなかったら私からも連絡しておきます」


「ありがとね。助かるわ」


 おばさんが美優の頭を撫でる。


 美優は嬉しそうに目を細める。


 まずい。


 急に怖くなった。


 学校だけじゃ済まなくなる。


 ママに知られたら。


 パパにまで話が伝わったら。


 帰ってきて何て言われるの?


 パパやママまで。


 友達や美優みたいな目で、あたしを見るようになったら。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 声が裏返った。


「お、親にだけは……」


 美優が、あたしを見た。


 何か言いたそうに唇が動く。


 でも、その前におばさんが顔を上げた。


「なに? 文句ある?」


 冷たい声だった。


 あたしは息を呑む。


 おばさんの目が、まっすぐこっちを向いていた。


 眉も、口元も、少しも緩んでいない。


 何か言ったら、その言葉ごと押し返されそうだった。


「い、いえ……」


「ご両親に知られたくないことを謙也にはしたってことね」


 言い返せなかった。


 胸の前で重ねた指を、ぎゅっと握る。


 爪が手のひらに当たった。


 痛い。


 でも力を抜けなかった。


「……ありません」

 

 ようやく、それだけ言った。

 

 おばさんはあたしから目を離し、スマートフォンへ視線を戻した。

 

 画面に指が触れる。

 

 止めたい。

 

 まだ待ってほしい。

 

 そう思ったのに今度は声すら出なかった。

 

 あたしは玄関に立ったまま、おばさんが電話をかけるのを見ていることしかできなかった。


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