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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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第22話 別れ

(南川拓海視点)


「はぁ……はぁ……」


 息が切れる。


 階段を上がるたび足が重くなる。


 くそ。


 何で俺が、こんなに走らなきゃいけねえんだよ。


 後ろを振り返る。


 誰もいない。


 でも下の方から足音が聞こえた気がして、また足を動かした。


 目の前の扉を押し開ける。


 風が顔に当たった。


「……はぁ」


 屋上だった。


 いつの間に、ここまで来たんだ。


 扉から離れて両手を膝につく。


 息を吸うと喉の奥が痛い。


 顔も熱かった。


 走ったせいだけじゃない。


『ダサすぎだろ』


 あいつの声が頭に浮かんだ。


 普段は俺に合わせて笑ってるくせに。


 こんなときだけ偉そうにしやがって。


「ここまで……逃げてくれば一旦、大丈夫だろう」


 何とか声に出す。


 ゆっくり顔を上げる。


 誰もいない。


 ベンチにもフェンスの近くにも。


 ようやく息を吐けた。


 教室じゃ、次から次へと口を挟まれた。


 あれじゃ何を言ったって無駄だ。


 少し時間を置けばいい。


 みんなも落ち着くだろうし美幸だって――。


「はぁ、はぁ……いた!」


 肩が跳ねた。


 振り向くと開いた扉のところに美幸が立っていた。


 片手を扉につき肩で息をしている。


 髪も少し乱れていた。


 追いかけてきたのかよ。


「……美幸」


 名前を呼ぶと美幸が顔を上げる。


 目が合った。


 さっきみたいに問い詰めてこなかった。


 ただ、こっちを見ている。


 俺は体を起こした。


 大丈夫だ。


 今は二人しかいない。


 海もいないし、余計なことを言ってくるクラスのやつらもいない。


 ちゃんと話せば何とかなる。


「お前、そんなに走らなくても……」


「逃げたの、拓海でしょ」


「いや逃げたっていうかさ」


 何となく笑おうとしたけど美幸は笑わなかった。


 やりにくいな。


「教室じゃ話せなかっただろ? みんな、勝手なことばっか言ってくるし」


「……」


「だから、ここで話そうぜ。ちょうど誰もいねえし」


 美幸が扉から手を離した。


 重たい音を立てて扉が閉まる。


 俺は美幸に近づこうとする。


「あたしたち、別れましょ」


 足が止まった。


「……え?」


 何だって?


 美幸は、まっすぐ俺を見ていた。


 聞き間違いかと思った。


 だけど、他に何て言ったんだ。


 今、別れるって。


「え……今なんて言った?」


「別れましょって言ったの」


「いや、ちょっと待てよ」


 勝手に手が動いた。


 胸の前に上げて下ろして。


 落ち着かない。


 制服の裾を掴みかけて、また離す。


 別れる?


 何を言ってるんだ。


 俺たち、付き合ってるんだぞ。


 つい一昨日も一緒に帰ったじゃねえか。


 昨日だって、ちょっと言い合いになっただけで。


「お前、まだ怒ってるんだろ?」


「……」


「だからさ、そういうのは落ち着いてから考えようぜ。な?」


 美幸の顔を見る。


 頷かない。


 何でだよ。


 そこは、うんって言えばいいだろ。


「落ち着けよ。ちゃんと話し合おうぜ」


 なるべく優しく言った。


 美幸は一度だけ目を伏せた。


「あたし、教室で何回も聞いたよね」


「それは……」


「誰なのかも、いつからなのかも。拓海、何も答えなかったじゃん」


「だから、あそこじゃ言えなかったんだって」


「じゃあ、あの写真は何だったの?」


 言葉が詰まる。


 あれは。


 何て言えばいい。


 知り合いって言っても、さっきは通じなかった。


 向こうから抱きついてきたのは本当だ。


 俺からしたわけじゃない。


 だけど、それを言ったら、また抱き返してたって言われる。


「……あの子とは、別に」


「別に、何?」


「その……お前が思ってるような感じじゃなくて」


 美幸が小さく息を吐いた。


 その音に腹の奥がざわつく。


 呆れたみたいな顔をするなよ。


 まだ話してる途中だろ。


「昨日も、あたしが相談したら怒ったよね」


「それ、今関係あるのか?」


「あるよ」


 すぐに返ってきた。


「困ったらあたしのせいにして、聞かれたら逃げて。今も、ちゃんと答えてくれないじゃん」


「逃げてねえって。こうして話してるだろ!」


 声が大きくなった。


 美幸の眉が少し動く。


 まずい。


 俺は慌てて息を吐いた。


「……悪い。怒鳴るつもりじゃなかった」


 美幸は黙っていた。


 俺はもう一度、近づこうとした。


 今度は美幸が半歩下がった。


 何だよ、それ。


 俺に触られるのも嫌ってことか?


「そんなに避けなくてもいいだろ」


「今は近づかないで」


 短い返事だった。


 伸ばしかけた手を止める。


 ウソだろ。


 何で、そこまで。


 たった一枚、写真を見られただけじゃねえか。


 あの子のことさえ知らなければ今まで通りだったはずだ。


 美幸といて別の日にはあの子と会って。


 どっちも可愛いし、どっちも俺のことが好きで。


 それで、うまくやれてたのに。


 ここで別れたら、二人の可愛い女と付き合うウハウハな生活が崩れるじゃねえか。


 そんなの困る。


 絶対に困る。


「美幸。俺、お前のこと嫌いになったわけじゃねえから」


 美幸が俺を見る。


「ちゃんと好きだし。そこは変わってねえよ」


「……じゃあ、あの子は?」


 また、それか。


 俺は唇を舐めた。


 何か言わないと。


 美幸が納得するようなことを。


「今、その子の話をしてるんじゃなくて、俺たちの話を――」


「もういい」


 遮られた。


 美幸が首を横に振る。


 俺の顔を見ながら、ゆっくりと。


「よくねえだろ。待てって。まだ話、終わってないから」


「ごめんなさい。もう無理なの。さようなら」


 美幸が踵を返した。


 え。


 そのまま帰るのか?


 俺、まだ別れるなんて言ってないぞ。


 勝手に決めるなよ。


「お、おい。ちょっと待てよ」


 右手を伸ばした。


 美幸の肩に。


 だけど指先は全く届かなかった。


 美幸は止まらない。


 扉の取っ手に手を掛ける。


「美幸!」


 少し大きく呼んだ。


 いつもなら、これで振り返った。


 何、って言って。


 機嫌が悪くても、俺の顔くらいは見た。


 なのに、今日は見ない。


 扉を開けて、その向こうへ入っていく。


「おい、聞こえてんだろ!」


 返事はなかった。


 扉が閉まる。


 最後まで一度も振り返らなかった。


「……何だよ」


 伸ばしていた右手が宙に残る。


 俺は扉を見たまま、しばらく動けなかった。


 そのうち戻ってくる。


 言いすぎた、とか。


 やっぱり話を聞く、とか。


 そう言って、また開くんじゃないか。


 でも何も起きなかった。


 風が制服の裾を揺らす。


 美幸の足音すら、もう聞こえない。


 俺はゆっくり右手を下ろした。


 追いかけた方がいいのか。


 でも追いついて何を言えばいい。


 また、あの子は誰って聞かれたら。


 好きだって言っても美幸は止まらなかった。


 俺が呼んでも。


「……くそ」


 海が余計なことをしなければ。


 あんな写真、撮らなければ。


 教室に貼らなければ。


 まだ誰にも知られずに済んだのに。


 教室。


 そこまで考えて足が動かなくなった。


 戻ったら、またあいつらがいる。


 何も答えずに逃げた俺を、どんな顔で見るんだ。


 美幸まで先に戻っていたら。


 別れたって、みんなに言っていたら。


 カバンも教室に置いたままだ。


 取りに行かなきゃいけない。


 でも今あの扉を開ける自分が想像できなかった。


 ドサッ。


 両膝が床についた。


 痛い。


 でも立ち上がれない。


 俺は床に目を落とした。


 何だよ。


 何なんだよ、これ。


 一昨日は、ここで笑っていた。


 謙也が何も言えなくなるのを美幸と一緒に見て楽しんだ。


 あのとき隣にいた美幸は、もういない。


「……なんで」


 ぽつりと声が出た。


 両手を頭に持っていく。


 指によって髪がぐしゃぐしゃになる。


 もうどうでもよかった。


 誰も見ていない。


 誰も、戻ってこない。


 俺は頭を抱えたまま顔を上げた。


「なんでこうなるんだよ~〜」


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