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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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第21話 罵詈雑言

「って!? ちょ、ちょっと待てよ!」


 拓海の肩からカバンが滑り落ちた。

 

 いや自分で放り出したんだ。

 

 どさっと床に落ちたのに拾おうともしない。

 

 そのまま走り出した。


「おい、危ねえって」

 

 通路に立っていた男子が体を引く。

 

 拓海は謝ろうとせずに横を抜けた。

 

 向かう先は黒板だった。

 

 海ちゃんが一歩横にずれる。

 

 美優ちゃんも、その隣に下がった。

 

 拓海は教壇に駆け上がると、くるっと振り返った。

 

 背中を黒板に向ける。

 

 両腕まで広げていた。

 

 写真が見えなくなる。

 

 正確には拓海の肩の横から少しだけはみ出していた。

 

 女の子の茶色い髪と背中に回された拓海の手。

 

 そこだけでも何の写真かは分かる。


「こ、これは違うんだ! 勘違いしないでくれ!」

 

 拓海が教室を見渡した。

 

「お前ら、変なふうに受け取るなよ? 別に、そういうのじゃねえから!」


「そういうのって?」

 

 前の席の男子が聞いた。


「だから、その……浮気とか、そういう話じゃなくて!」

 

 拓海が大きく首を振る。


「ちょっと! これはどういうこと!」

 

 美幸の声がした。

 

 拓海が横を向く。

 

 黒板のすぐ近くに立っていた美幸が拓海の肩越しに写真を指さしていた。


「み、美幸!? お、お前、見たのか!?」

 

 拓海の目が大きく開く。

 

 今、気づいたのか。

 

 写真を隠すことしか頭になかったのかもしれない。


「見たわよ! なんなのよこれ! これ明らかに浮気じゃない!」


「いや、だから違うって!」


「何が違うの!?」

 

 美幸が一歩近づく。

 

 拓海は後ろに下がろうとして黒板に背中をぶつけた。

 

 それ以上は下がれない。


「ちょ、ちょっと落ち着けよ。話し合おうぜ」


「こんな状況で落ち着いてられると思う!? ふざけるのもいい加減にして!!」

 

 美幸の声が教室の後ろまで響く。


「誰なの、その子!」


「……知り合い」


「知り合いと、あんなふうに抱き合うの?」


「向こうから来たんだよ!」


「拓海も抱き返してるじゃない!」

 

 美幸がまた写真を指さす。

 

 拓海の腕が動いた。

 

 隠し直そうとしたんだと思う。


「見えてるから! 今さら隠しても無駄よ!」


「隠してねえよ!」


「じゃあ、そこどいて!」


「……いや、それは」

 

 どかないんだ。

 

 俺は拓海の広げた腕を見た。

 

 昨日まで、あんなに偉そうだったのに。

 

 今は写真一枚を背中に隠すので精一杯になっている。


「昨日、あたしと帰ったあとに会ったんでしょ?」

 

 美幸が聞いた。

 

 拓海の口が止まる。


「着替えて、髪まで整えて。それで、その子に会いに行ったんでしょ?」


「……たまたまだって」


「その格好で?」


「出かけるくらい普通だろ!」


「出かけたことを怒ってるんじゃない!」

 

 拓海が口を閉じた。

 

 美幸の指先が震えている。

 

 写真を指さしていた手を下ろしても、震えは止まらなかった。


「あたしが昨日、どんな気持ちで帰ったか分かってる?」


「それは……」


「どうすればいいか聞いても、全部あたしのせいにして。それで、自分は別の女と会ってたの?」

 

 昨日、二人の間でも何かあったのか。

 

 俺が知らないうちに。

 

 拓海は美幸を見て、それから教室の方に顔を向けた。


「だから、ここで全部話すことじゃねえだろ。あとでちゃんと説明するからさ」


「今してよ」


「美幸」


「説明できるんでしょ? だったら今してよ!」

 

 美幸は引かなかった。

 

 拓海が何か言うたびに、その言葉を捕まえる。

 

 拓海の声は、さっきより小さくなっていた。


「……」


「……」

 

 その横で美優ちゃんと海ちゃんが黙っていた。

 

 二人とも拓海と美幸を見ている。

 

 笑ってはいなかった。

 

 かといって慌てて止めようとする様子もない。

 

 海ちゃんが兄へ向けている目は、ひどく冷たかった。

 

 美優ちゃんも同じだった。

 

 静かに二人を眺めている。

 

 俺は周りへ目を向けた。

 

 クラスメイトたちも、ほとんど動かなかった。

 

 誰かが面白がって笑うかと思った。

 

 でも聞こえてくるのは小さなため息くらいだった。


「な、なぁ、みんな、美幸を止めてくれよ!」

 

 拓海が言った。

 

 美幸から逃れるように、教室へ顔を向ける。


「話にならねえんだよ。俺、ちゃんと説明するって言ってんのにさ!」


「……何で止める必要があるの?」

 

 窓際にいた女子が言った。

 

 拓海が、そちらを見る。


 「いや、だから……」


「説明すればいいじゃん。今」

 

 拓海の唇が動いた。

 

 でも声は出てこない。

 

 今度は前の席の男子に目を向けた。

 

 そいつは椅子の背にもたれたまま拓海を見返す。

 

 助け舟など出そうとしない。


「っ……」

 

 拓海が下を向く。

 

 広げていた腕も少しずつ下がった。

 

 さっきまで、あっちへこっちへ動いていた目が床に落ちる。


「お前さ、昨日も大中のとき、ふざけただけとか言ってたよな」

 

 男子の声がした。


「今回もそれで済ませるつもり?」


「……そんなこと言ってねえだろ」


「じゃあ、何が違うんだよ」

 

 返事はなかった。

 

 女子が一人、首を横に振る。


「人のこと騙して笑って、自分の彼女まで騙してたんだ」


「最低じゃん」


「しかも怒ってる方を止めてくれって。何それ」

 

 拓海の肩が動いた。

 

 黒板から少し背中が離れる。


「お前ら、何も知らねえくせに……」


「だから聞いてるんじゃん」

 

 すぐに声が返った。


「何も説明しないで勘違いするなだけじゃ分かんないんだけど」


「写真は隠すしな」


「見られたら困るって自分で言ってるようなもんじゃん」

 

 俺のすぐ近くにいた男子まで呆れた顔をしていた。

 

 拓海はそっちを見た。

 

 けれど目が合う前に、また下を向いた。


「ダサすぎだろ」

 

 その一言が妙にはっきり聞こえた。

 

 拓海の指が、ぎゅっと丸まる。


「彼女の前でくらい、ちゃんと話せよ」


「いつもはあんなに喋るのにね」


「自分が責められると黙るんだ」

 

 誰も遠慮していなかった。

 

 拓海が口を開きかける。

 

 そのたびに別の声が上がった。


「人を笑いものにしてる場合じゃなかったね」


「もう何言われても信用できないんだけど」

 

 俺は机の端へ手を置いた。

 

 指先に力が入る。

 

 一昨日、拓海は俺を見て笑っていた。

 

 俺がうまく言葉を返せなくても、待ってなんかくれなかった。

 

 美幸と顔を見合わせて、また笑った。

 

 あのとき言いたかったことが、今さら喉の奥へ上がってくる。

 

 でも俺は何も言わなかった。


「拓海」

 

 美幸が呼んだ。

 

 さっきより低い声だった。


「いつからなの」


「……」


「その子と、いつから会ってたの?」

 

 拓海は答えない。


「ねえ。あたしと付き合う前から?」


「今、それ聞くかよ……」


「聞くに決まってるでしょ!」

 

 美幸の声がまた大きくなった。

 

 拓海が顔をしかめる。

 

 そのまま片手で額を押さえた。


「もう、やめろって……」


「何を? あたしが聞くのを?」


「一度に言うなよ! みんなして!」


「まだ何も答えてないじゃない!」


 拓海のもう片方の手も頭へ上がる。

 

 整えていた金髪が指の間でぐしゃっと乱れた。


「なんで……」

 

 小さな声だった。

 

 美幸が眉を寄せる。


「何?」


「なんで……なんでこうなるんだよ〜〜」

 

 拓海は頭を抱えたまま教室から逃げてしまう。


「あ、ちょっと!」

 

 呼び止められても止まらない。


「拓海!」

 

 美幸の声にも振り返らなかった。


「ちょ、ちょっと!? 待ちなさい!!」

 

 美幸も走り出す。

 

 拓海のあとを追った。

 

 扉の向こうへ黒い髪が消える。


「まだ話、終わってないから!」

 

 廊下から声が響いた。

 

 二人分の足音が遠ざかっていく。

 

 俺は開いたままの扉を見ていた。

 

 ほんの少し前まで、あそこで拓海が立っていた。

 

 何だ騒がしいな、なんて言っていたのに。


「……結局、説明しなかったね」

 

 誰かがぽつりと言った。

 

 俺は教室の前に顔を戻す。

 

 海ちゃんが小さく息を吐いていた。

 

 美優ちゃんも二人の消えた扉から目を離す。

 

 黒板には、まだ写真が貼られていた。

 

 今度は隠す人もいない。


 女の子を抱きしめて笑っている拓海の顔が、教室の後ろからでも、はっきり見えた。


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