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幼馴染の美少女とイケメンの親友に嘘告された俺。それを知った二人の妹たちがブチギレた  作者: 白金豪


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第19話 浮気

(南川海視点)


 まだ、ちょっと頬が緩んでいる。


 謙也君の家からの帰り道。


 うちは美優と並んで住宅街を歩いていた。


「謙也さん、最後まで手を振ってくれたね」


「うん。何回振り返っても、まだいてくれた」


「もう一回くらい振り返ればよかったかな」


「それやってたら帰れなくない?」


 うちが言うと、美優が笑った。


 その顔を見て、うちも笑ってしまう。


 今日は楽しかった。


 謙也君の家に入れたし。


 いっぱい話せたし。


 何より謙也君がちゃんと笑ってくれた。


 教室の前で立ち止まっていたときとは全然違う顔だった。


「明日も楽しみだね」


「うん」


 美優がカバンを抱え直す。


 うちも肩紐をかけ直して前を向いた。


 公園の脇を通れば家までもう少し。


 ブランコは誰も使っていない。


 その奥にあるベンチに何となく目を向けた。


「……クソ兄」


「え?」


 美優がうちを見る。


 しまった。


 思ったことが、そのまま口から出てしまった。


「いたの?」


「うん。あそこ」


 顎で示すと美優も公園に顔を向けた。


 ベンチに座っている金髪の男。


 間違いない。


 うちの兄だ。


 スマートフォンを見て、顔を上げて、またスマートフォンを見る。


 何やってんだろ。


 しかも着替えてる。


 学校の制服じゃない。


 明るい色のジャケットを羽織って細身の黒いパンツまで穿いていた。


 靴も普段その辺に出るときのやつじゃない。


 髪まで整え直したらしい。


 前髪を指で触ってからスマートフォンの画面に顔を映している。


「……何あれ」


「誰か待ってるのかな」


 美優が小さく言った。


「たぶんね」


 クソ兄は公園の入り口に顔を向けた。


 すぐに視線を戻す。


 待ち合わせっぽい。


 うちは足を止める。


「美優、ちょっと確かめたいことがあるから、公園の木の近くに隠れない?」


「別にいいけど」


 美優が不思議そうに首を傾げる。


「何か気になるの?」


「うん。ちょっとだけ」


 公園の脇の入り口から中へ入る。


 ベンチから離れたところに太い木があった。


 その周りには低い植え込みもある。


 うちは幹の陰へ回り込む。


 美優も後ろについてきた。


「ここ?」


「うん。あんまり顔を出さないでね」


「分かった」


 二人で少しだけ身をかがめる。


 枝の隙間からベンチが見えた。


 クソ兄はまだスマートフォンを触っている。


 口元が緩んでいた。


 誰とやり取りしてるんだか。


 うちは幹に片手をついた。


 さっきまで謙也君の話で盛り上がってたのに。


 何で帰り道でまで、あいつの顔を見なきゃいけないんだろ。


「……海」


「ん?」


「待ってる相手、あれじゃない?」


 美優の声に、うちは目を上げた。


 クソ兄が立ち上がっていた。


 スマートフォンをポケットへしまい、片手を大きく振る。


 やけに嬉しそうな顔だった。


「拓海く〜ん!」


 公園の反対側から声がした。


 女の子が駆けてくる。


 茶色い髪が揺れていた。


 肩には学生カバン。


 着ている制服は、うちの学校のものじゃない。


 誰?


 少なくとも、うちは見たことがなかった。


 その子はクソ兄の前まで来ても足を止めなかった。


 両腕を広げて、そのまま抱きつく。


「……は?」


 うちは慌てて自分の口を押さえた。


 クソ兄も普通に抱き返している。


 何の躊躇いもなく。


 相手の背中に両手を回して、ぎゅっと。


 え、何これ。


「デュヘヘッ。よく来てくれたな」


 変な笑い声まで聞こえてきた。


 クソ兄の顔が、だらしなく緩んでいる。


 鼻の下を伸ばす。


 うわ。


 朝、うちに睨まれて目を泳がせていたのと同じ人間とは思えない。


 隣で美優も黙っていた。


 その目がクソ兄と女の子の間を行ったり来たりしている。


 これは見逃せない。


 うちはカバンのポケットに手を入れる。


 スマートフォンを取り出す。


 黄色いケースが指に触れたところで持ち直す。


 落とすな、うち。


 今だけは絶対に。


「海?」


 美優の声に人差し指を口元に立てる。


 美優はすぐにうなずいて、少し場所を空けてくれた。


 カメラを起動する。


 木の幹の横からそっと構える。


 画面に映った。


 クソ兄と、知らない女の子。


 まだ抱き合っている。


 あと、ちょっとだけそのままでいて。


 ここ!


 指先でシャッターを押す。


 カシャッ。


 手元で小さな音がした。


 うちと美優が顔を見合わせる。


 すぐにベンチの方に視線を戻す。


 クソ兄はこっちを見ていない。


 女の子もクソ兄に抱きついたまま。


 聞こえなかったみたい。


 うちはスマートフォンを幹の陰へ引っ込めた。


 アルバムを開く。


「……撮れた?」


 美優が肩越しに覗き込んでくる。


「うん」


 写真を指で広げる。


 ぶれてない。


 クソ兄の顔も分かる。


 女の子と抱き合っているのも、ちゃんと分かる。


 撮れた。


 無事に保存できていた。


「そりゃ当然だよ! 拓海君のこと大好きだもん!」


 ベンチの方から明るい声が聞こえてくる。


 うちと美優は同時に顔を上げる。


「そうか。ありがとな」


 クソ兄が笑っていた。


 さっきから、ずっと。


 あの女と付き合ってるんじゃなかったの?


 昨日は謙也君に、それを見せつけて笑ったんでしょ。


 なのに今日は別の子?


 クズすぎない?


「待たせちゃった?」


「全然。さっき来たばかりだよ」


「ほんと?」


「ほんとだって」


 よく言う。


 何回もスマートフォン見てたくせに。


 女の子は嬉しそうに笑って、クソ兄へもう一度ぎゅっと抱きついた。


 クソ兄も、その背中を撫でる。


 うちはスマートフォンを握ったまま、じっと見ていた。


 この子、クソ兄に彼女がいるって知ってるのかな?


 知らないなら、この子まで騙してるってことになる。


 ……ほんと、何やってんの。


「行こっか」


 女の子が言った。


「そうだな」


 ようやく二人が離れる。


 でも距離はほとんど変わらなかった。


 女の子がクソ兄の腕へ抱きつく。


 クソ兄はその顔を覗き込みながら歩き始めた。


 二人で何か話して笑っている。


 こっちには一度も目を向けない。


 そのまま公園の出口を通り、並んで姿を消した。


 うちは、少し待った。


 足音が遠ざかる。


 もう戻ってこない。


 しっかり確かめる。


「海、海」


 後ろから美優に呼ばれる。


「なに?」


 振り返ると美優がうちの手元を見ていた。


「この証拠写真、どうするの?」


 スマートフォンに表示された写真を指さす。


 画面の中ではクソ兄が女の子を抱きしめていた。


 だらしない顔まで、しっかり写っている。


 うちはもう一度、その顔を見た。


「もちろん、利用するに決まってるけど」


 うちはニヤッと笑う。


 美優は、うちと目が合うと、静かにうなずいた。


 チャンスを逃すわけにはいかない。


 クソ兄を今よりもっと追い詰める、貴重な武器を手に入れたのだから。


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