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第二十六話 終わらない、最終決戦

ちゃらららんちゃんちゃんちゃんゃららーん。


気の抜けるようなBGMが、居間に流れてきた。


「……なんだ、この曲」


箪笥の陰で、画面を見つめていると、天井から、何かがゆっくりと降りてきた。


くるくる、くるくる。


回転しながら、ゆっくり、ゆっくりと。


「……兵士だ」


「どうやって現れたんだ」


梅太郎が、天井を見上げた。


兵士は、回転しながら、畳の上へ着地した。


「英雄ナカシマ、ここはわてに任せるっぺ。下がっているズラー」


「ハッ!」


ナカシマは、素直に後ろへ下がった。


「簡単に言うことを聞くな、ナカシマ」


シャフトが、ぼそりと突っ込んだ。


「茶番は終わりだ!!!」


くないきゃうの声が、居間中に響き渡る。


「よし、いくっぺ、梅太郎、シャフト、スライム大統領!」


「……もはや、兵士が主人公である」


箪笥の陰で、苦笑した。


そして、戦闘が始まった。


「ナーハッハッハッハ!」


【くないきゃうの先制攻撃!】


火力いっぱいの全体魔法が、二発放たれた。


【梅太郎は倒れてしまった。】


【シャフトは倒れてしまった。】


【スライム大統領に0のダメージ。】


【兵士は倒れてしまった。】


「……は?」


口を開けたまま、固まった。


「一ターンだぞ」


パーティーが全滅するまで、一ターン。


ここまで苦労して冒険してきた仲間たちが、あっという間に畳の上に転がっていた。いや、転がっているというか、もう画面上には、何もできる者がいない。


……と思ったら。


【スライム大統領の攻撃!】


【くないきゃうに5のダメージ。】


「五!?」


思わず、声が出た。


【くないきゃうの強力な魔法が、二回放たれた!】


【スライム大統領に0のダメージ。】


「スライム大統領、まだいたのか……」


【スライム大統領の氷系の魔法!】


【くないきゃうには効かない。】


「ナーハッハッハッハ! くらわんわ! 全回復じゃ!!」


【くないきゃうは全回復した。】


「……これ、終わらないんじゃないか」


嫌な予感がした。


相手は、全体魔法を連発する。こちらの攻撃は、五ダメージ。しかも、氷魔法は効かず、敵は全回復する。


「ナーハッハッハッハ! これで終わりだ!!!」


【くないきゃうの攻撃!】


今度は、急に物理攻撃だった。


バコン!!!


【スライム大統領は倒れてしまった。】


【GAME OVER】


「……強すぎるだろ」


画面が、暗転した。


そして、ゲームが再開された。


ちゃらららんちゃんちゃんちゃんゃららーん。


「……あっ」


思い出した。


そういえば、兵士が登場する直前に、セーブしてしまった。


「これ、死に戻りの物語みたいになってしまったな……」


苦笑した。


しかし、笑っている場合ではない。


天井から、また、兵士が降りてくる。梅太郎たちが戦う。一ターンで全滅する。ゲームオーバー。そして、また最初に戻る。


これが、延々と繰り返されるのだ。


「さすがに、この無限ループはきついだろ」


「また、この曲か……」


梅太郎が、天井を見上げて、つぶやいた。


どうやら、梅太郎たちには、かすかに、繰り返しの記憶があるらしい。


「編集画面を開けば、なんとかなるか……?」


編集画面を開き、該当するイベントを選択した。


【ロックされています。】


「……え?」


【パスワードを入力してください。】


「……は?」


画面の向こうでは、くないきゃうが、高笑いしていた。


「ナーハッハッハッハ! トドメだ!!」


バコン!!


【スライム大統領は倒れてしまった。】


……。


ちゃらららんちゃんちゃんちゃんゃららーん。


「……やばい。無限ループだ」


ほかの編集画面も、試した。


モンスター設定。


【ロックされています。】


主人公設定。


【ロックされています。】


魔法・技設定。


【ロックされています。】


マップ設定。


こちらは、開ける。


「おっ、いけるか?」


そう思ったのも束の間。


【このマップはロックされています。】


「マップごとに、ロックがかかってるのかよ!」


バコン!!


【スライム大統領は倒れてしまった。】


……。


バコン!!


【スライム大統領は倒れてしまった。】


……。


「詰んでないか?」


額に、汗がにじんだ。


「やばい、これ、抜け出せなくて、一生を終えるやつか!」


異世界に来てから、いろいろなことがあった。


意味不明なイベントを修正し、謎の敵を倒し、仲間たちと冒険してきた。それが、最後の最後で、これである。


「強制終了とか、ないのか? テストプレイってあるでしょ!」


編集画面を開こうとする。


【ロックされています。】


【パスワードを入力してください。】


「……」


焦り始めた。


画面の中では、無限に兵士が現れる。


梅太郎が倒れる。


シャフトが倒れる。


兵士が倒れる。


そして、スライム大統領も倒れる。


再開。


また、兵士が現れる。


「くそっ!」


もう一度、すべての設定を、上から順番になぞって確認した。


主人公設定。モンスター設定。魔法設定。マップ設定。イベント設定。


どこを見ても、ロックされている。


「パスワード……」


唇を、かんだ。


とりあえず、よくあるパスワードを入力してみる。


【違います。】


「じゃあ、これ!」


【違います。あと一回でロックされます。】


「えー、まずい!」


あと一回間違えれば、完全にロックされてしまう。


入力欄を、見つめた。


どこかに、ヒントがあるはずだ。このゲームを作った誰かが、どこかに手がかりを残しているはず。そうでなければ、こんなものを、どうやって解除するというのか。


背中を、変な汗が、ずっと流れていた。


たまに、スライム大統領が妙に耐えるのも、今となっては、鬱陶しい。


「頼むから、さっさと倒れてくれ……いや、倒れたらゲームオーバーなんだけど!」


自分で言っていて、もう、何が正しいのか、分からなくなってきた。


探した。


ひたすら、探した。


イベントのメモ。設定の説明。マップの端。それらしい場所は、すべて確認した。


……ない。


何も、見つからない。


「……もう、いいか」


ふっと、力が抜けた。


夜な夜な、サーバールームで、ウイルス対応をしていた日々を思い出す。


あの頃は、いつ終わるとも分からない障害対応に、追われていた。眠る間も惜しんで、ひたすら画面と向き合っていた。それが、もう、ずっと昔のことのように感じられた。


「まあ……特に、楽しいっていう人生じゃなかったしな」


ぼんやりと、画面を眺めた。


ここで終わるのも、いいのかな。


そんな考えが、頭をよぎった。


もう、何もする気が起きなかった。


画面の中では、相変わらず、戦闘が繰り返されている。


ちゃらららんちゃんちゃんちゃんゃららーん。


兵士が、現れる。


バコン!!


【スライム大統領は倒れてしまった。】


箪笥の陰に座り込んで、ぼーっと、画面を見ていた。


そのとき。


ふと、一つの表示が、目に入った。


【メモ更新日:数秒前】


「……ん?」


目を凝らした。


さっきまで、こんな表示はなかったはずだ。


メモを開く。


そこには、短い一文が、書かれていた。


【パスワード help】


「……え?」


しばらく、その文字を見つめた。


help。


助けて。


「……これか?」


半信半疑のまま、パスワードの入力欄に、文字を打ち込む。


help


決定。


――すると。


画面が、まばゆい光に包まれた。


俺の視界も、白く染まっていく。


「うわっ……!」


光は、画面の向こうから、こちら側まで、広がってくるようだった。


そして――


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