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第二十一話 イベントの街、マドリード

【場所移動:イベントの街マドリード】


移動先の欄に、その名前を入れて、保存を押した。


タッタッタッ。


視界が開けると、足元は、石畳に変わっていた。


「……マドリード?」


急に、スペインである。


さっそく、マップのメモを確認した。


【メモ更新日:25年前】


『名前をつけるのは難しい。


社会の地図の教科書でページを開いて、目を瞑って指を刺してそこの名前にした。


マドリード。響きがいいから、ここでいいや。


とりあえず、ここまで使えなかったイベントを詰めていこう。』


「結構有名だけど、多分、知らなかったんだろうな……」


マドリード。スペインの首都である。


しかし、ここでは、ただのイベント詰め込み用のマップだった。


俺は、街の入口近くの、積まれた木箱の陰に身をひそめた。


ほどなくして、南西にある小さな民家から、梅太郎、シャフト、兵士、スライム大統領が、ぞろぞろと出てきた。


「……すごい普通に出てくるな」


小声で、つぶやいた。


「いやー、やっと戻ってきたな」


シャフトが、伸びをした。


「捕まったわけでもないのに、牢獄から出てきた気分だったぜ」


「お前、牢獄で何かあったっけ?」


梅太郎が、首をかしげた。


「気分の問題だ」


そんな話をしていると、一匹の犬が、近づいてきた。


「クーン……」


犬は、何かを訴えるように鳴いた。


すると、シャフトが、刀を抜いた。


「何だ? 貴様? くたばれ!」


バシッ!


「……え?」


思わず、声が出そうになった。


犬は、その場に倒れた。


「いや、ちょっと待て」


梅太郎が、すかさず突っ込んだ。


「犬、何もしてないだろ。今のは何なんだよ」


誰も、答えなかった。


この世界では、犬に優しくするというイベントは、実装されていないらしい。


すると、背後から、一人の青年が現れた。


「……ベン?」


青年は、顔を上げた。


「ベーーーーーーーーーーン!!」



青年は、問答無用で襲いかかってきた。四人は、さっさと倒した。


「……この街、治安どうなってるんだ」


「さあな」


シャフトが、肩をすくめた。


そもそもお前のせいだろ。小真は口には出さなかった。


次に、北西に、墓地があった。


墓石には、こう刻まれていた。


【アンソニーここに眠る】


「アンソニーって、あのアンソニーか?」


梅太郎が、墓石を見つめた。


橋の向こうで、ジェーンを追って、崖から落ちていった金髪の剣士。


……あいつ、ちゃんと墓があったんだな。


墓のそばには、なぜか、ニンジンが落ちていた。


「まあ、もらっておくか」


梅太郎が、ニンジンを拾った。


何に使うのかは、分からない。だが、この世界では、拾えるものは拾っておくべきだ。


次に、街の中央にある柵の向こうに、馬がいた。


梅太郎が、近づいて、話しかけてみる。


馬は、しばらく沈黙したあと、ぽつりと言った。


「………………ニンジンくれ」


「喋った!」


梅太郎が、のけぞった。


木箱の陰で、俺も、のけぞりそうになった。


いや、これまでにも、喋るスライムやら何やらは、散々見てきた。今さら、馬が喋ったところで、驚くことではない。


……いや、やっぱり、驚く。


梅太郎が、拾ったニンジンを、馬に渡した。


「………………サンクス」


馬は、満足そうにうなずくと、走り出した。


そして、柵のグラフィックを完全に無視して、そのまま、向こう側へ駆け抜けていった。


「柵、意味ないじゃん……」


梅太郎が、遠い目でつぶやいた。


俺も、もう何も言わなかった。


中央にある民家に入ると、そこには、厳格な老人と呼ばれるジジイがいた。


俺は、窓の外の植え込みの陰から、中をのぞいた。


「お前たち、何者じゃ」


梅太郎が、話しかけた瞬間、戦闘画面に切り替わった。


「ワシも参戦するぞ!」


「誰だよ!」


梅太郎が、叫んだ。


その声に応えるように、画面に、見覚えのあるおじさんが現れた。


「あーい!」


「……あっ!」


梅太郎が、指をさした。


「あの森の、ビーフかチキンのおじさん!」


俺も、思い出した。


だいぶ序盤に登場した、謎の選択肢を突きつけてきた、あのおじさんだ。まさか、ここで再登場するとは。


「見よ! 厳格な老人コンボ!!」


二人が叫ぶと、画面いっぱいに、グラフィックが拡大された。


老人の顔。


おじさんの顔。


老人の顔。


おじさんの顔。


しかも、目まぐるしく切り替わる。


「うわっ、目がチカチカする!」


シャフトが、目を覆った。


画面が、激しく点滅した。


「……もういい。倒そう」


梅太郎が、うんざりした声で言った。


四人は、さっさと倒した。


街の中央には、もう一つ、気になる店があった。


看板には、【光プチ】と書かれている。


「光プチ? 何だそれ」


シャフトが、首をかしげた。


店に入ると、どうやら、交換屋らしい。


俺は、店の窓際の、樽の陰に身を寄せた。


店主の後ろには、見覚えのあるヘルメットが、飾られていた。


「それ、未来人の頭の装備じゃないか?」


梅太郎が、尋ねると、店主は、うなずいた。


「ええ。どこかで拾ったんですよ」


梅太郎は、地獄で集めた未来人の防具を、取り出した。


すると――。


ピカッ!


防具が、突然、まばゆい光を放ち始めた。


「お、おい! 何だ!?」


光は、どんどん強くなり、店内を白く染め上げていく。


そして、店の天井から、何かが降りてきた。


光り輝く人影。


青い髪をなびかせた、エルフだった。


「私は、英雄ナカシマ」


エルフは、堂々と名乗った。


「長いこと、未来人の中に閉じ込められていたんだな。助かった。ぜひ、お供しよう」


「……あれ、未来人は?」


梅太郎が、あたりを見回した。


「この防具の中に、ナカシマが入ってたってことは、つまり……」


「未来人が、ナカシマだったのか」


シャフトが、静かにうなずいた。


「……また、やけに現代的な名前のやつが出てきたな」


樽の陰で、あきれた。


しかも、自分で英雄と名乗っている。


もしかして、俺みたいな異世界転生者では!?


俺は、編集画面を開いて、メモを確認した。


【メモ更新日:25年前】


『テストプレイを手伝ってくれた中島くんへ、愛を込めて。


テストプレイをしてくれた友人を、英雄として迎える。』


「……転生者ではなかったか。しかしよく付き合ったな」


感心した。


二十五年前の友人も、まさか、自分が異世界の英雄として登場するとは、思っていなかっただろう。いや、本人は、テストプレイをした時点で、知っていたのかもしれない。


それにしても、愛が重い。


英雄ナカシマは、梅太郎に向き直った。


「なに? おじいさんとおばあさんの喧嘩を止める? そして、もうすでに、おばあさんは地獄?」


「そうなんだ」


「そうか……」


ナカシマは、少し考え込んだ。


「この街には、レフト兄弟というタイムマシンを作っている奴らがいるらしい。そいつらに会うといいかもしれないな」


「タイムマシン?」


梅太郎が、聞き返した。


窓の外で、俺も、その言葉に、思わず顔を上げた。


「よし、私も行こう」


これで、新たな仲間が加わった。


……と思った、その瞬間。


「プルルルル……」


どこからか、電話の音が鳴った。


兵士が、懐から、電話を取り出した。


「ん? ワシだっぺ。スケさんからだ」


カチャッ。


「なに? それは大変だ! すぐに行く!」


兵士は、電話を切ると、梅太郎たちに向き直った。


「すまないべ、梅太郎。すぐに戻らないといけないズラー。さらばだ!」


「えっ、ちょっと待っ――」


梅太郎が、手を伸ばした。


兵士は、その場で、一歩ずつ回転を始めた。


ゆっくり。


ゆっくり。


回転しながら、空の彼方へと、消えていった。


「…………」


「頼んだぞ…兵士…」


窓の外で、スライム大統領が少し寂しそうにつぶやいて、空を見上げた。


「うん。情報量が多すぎて、ツッコミが追いつけない」


そして、俺は、乾いた笑いを漏らした。


「はは……」


英雄ナカシマが仲間になり、兵士が離脱した。


未来人の頭は見つかり、タイムマシンの情報も手に入った。


犬は殴られ、アンソニーの真相はよく分からず、馬は柵を無視し、厳格な老人は、あーいおじさんとコンボを決め、英雄ナカシマが登場。


これだけのイベントが、たった一つの街に、詰め込まれている。


「……そりゃ、イベントの街だわ」


納得した。


店の外へ出てきた梅太郎が、北の方角を指さした。


「北には、洞窟があるらしい。レフト兄弟っていう人物がいるのも、そこだってさ」


「まずは、そこに行くしかないか」


シャフトが、うなずいた。


梅太郎、シャフト、スライム大統領、そして、ナカシマ。


四人は、街を出て、北へ向かった。


街の出口をくぐった瞬間、タッタッタッ、と軽い効果音が鳴った。


その音に合わせて、背中が、端から順に、黒く塗りつぶされていく。


俺も、編集画面を開いた。


移動先は、北の洞窟。対象は【自分】。


タッタッタッ。

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