↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/27

第十七話 絶体絶命の演出と、あっけない全滅

橋の架かった洞窟の手前に、先回りした。


目の前には、大きな穴が広がっていた。底は見えない。落ちたら、ひとたまりもないだろう。その穴には、向こう岸まで橋が架かっている。


俺は、橋のたもとの岩陰に身をひそめた。


ほどなくして、梅太郎たちが、橋の前で足を止めた。


「ツギハドコニイクンダ?」


未来人が、いつもの調子で尋ねた。


「それは、俺が聞きたい」


梅太郎が、即座に返した。


岩陰で、俺もうなずいた。


未来から来たらしい、宇宙服姿の男。仲間にはなったものの、今のところ、活躍の場はほぼない。


何なんだ、こいつは。


俺が設定をいじって、活躍させることもできるのだろうが、容量は限界だ。余計なことは、しないでおこう。


梅太郎たちは、橋を渡り始めた。


まるで某RPGのように、きれいに一列に並んで、進んでいく。先頭に梅太郎。その後ろに、シャフト、未来人、スライム大統領。


……まあ、RPGですから。


全員、落ちることなく、無事に渡り切った。


そして、その先にある洞窟へ入っていった。


俺は、編集画面を開いた。移動先は、洞窟の中。対象は【自分】。


タッタッタッ。


洞窟の中は、四方を壁に囲まれた空間だった。


奥には、出口らしきものが一つだけある。宝箱もなければ、分かれ道もない。妙に広いだけの部屋だ。


壁際の、大きな岩のくぼみに身を隠していると、梅太郎たちが入ってきた。


四人が、奥へ進もうとした、そのとき。


――BGMが、消えた。


「……ん? 何だ?」


スライム大統領が、周囲を見渡す。


すると。


シュンッ。


シュンッ。


シュンッ。


一瞬にして、敵らしき兵士たちが現れた。


四方の壁際に、梅太郎たちを取り囲むように、次々と配置されていく。


「くっ、急に囲まれたぞ!」


シャフトが、焦った声を上げた。


その直後。


甲高い笑い声が、響き渡った。


「ナーハッハッハッハ!」


「ナーハッハッハッハ!」


同時に、絶体絶命を思わせるBGMが流れ始めた。


そして、奥から、一人の男が姿を現した。


黒いマント。長い白髪。全身から漂う、邪悪な気配。


いかにも悪そうな、ジジイだった。


「何だ、貴様は!」


梅太郎が、言い放った。


「ナーハッハッハッハ! ナーハッハッハッハ! 覚悟しろ、梅太郎ども! ここで排除してやるわ!」


「……こいつ、多分ラスボスっぽいな」


岩陰で、一瞬で悟った。


この登場の仕方。この笑い声。このBGM。どう考えても、ただの雑魚ではない。


「構え!!」


ジジイが、号令をかけた。


カチャッ。


敵兵士たちが、一斉に銃を構える。


「撃て!!!」


その瞬間。


――BGMが、切り替わった。


緊迫感のある曲から、妙に気の抜ける曲へ。


「……何でだよ」


俺がツッコむより先に、画面の西側の上空から、何かが現れた。


ゆっくりと。一歩ずつ。そして、回転しながら。


「待たせたべ! 梅太郎!」


「兵士!?」


梅太郎が、叫んだ。


そう、兵士だった。


どうやって来たんだ。いや、そもそも、洞窟の玉座に座って、統治していたはずでは?


疑問が浮かぶ間もなく、兵士が叫んだ。


「回転ケック(キック)!!!」


バシンッ!!


ドゴゴゴゴゴ……。


ドカン!!


敵兵士の一人が、東へ、凄まじい勢いで吹っ飛んだ。もう一人の兵士を巻き込み、そのまま壁を突き破って、消えていく。


「……兵士、めちゃくちゃ強いじゃないか」


ん、よく見ると敵の兵士が壁を突き破ったところ、穴じゃなくて、黒いキャラクターグラフィックだ。


小真は気づいた。きっと、穴を表現したかったのだろうと。しかし、ケックとは、何語なんだ?これは、流石にツッコミたくなってしまった。


兵士は、その勢いのまま、次々と敵を倒していく。


ヒュッ!


バシンッ!


ヒュッ!


バシンッ!


ヒュッ!


バシンッ!


すごい。このままいけば、敵兵士を全員倒してしまいそうだ。


しかし、ふと思った。


こいつの名前は、ずっと「兵士」なのだ。これだけ活躍しているのに、名前を呼ぶたびに「兵士」では、何とも締まらない。


そういえば、メモには、マーフィーという名前があった。


……マーフィーと呼んでもいいのだろうか。


いや。


ここまで一緒に冒険してきた「兵士」に、今さら別の名前をつけるのも、違う気がする。


俺は、呼び方を変えないことにした。


そんなことを考えているうちに、兵士は、数人の敵を撃破していた。


そして。


バシッ!


「はへ?」


兵士が、あっさり倒れた。


「……え?」


岩陰で、画面を見つめた。


いや、待て。


さっきまでの勢いは、何だったんだ。登場時の演出からして、もう少し粘ると思うだろう。


しかし、兵士は、それ以上動かなかった。


再び、ジジイの高笑いが響く。


「ナーハッハッハッハ! ナーハッハッハッハ! 撃て!!!」


パンパンパン!


パンパンパン!


白い煙のエフェクトが、画面を覆った。


そして、未来人が叫ぶ。


「Ты не думаешь, что у меня мало времени?」


「未来じぃーーーーん!!!」


バコン!!


未来人の宇宙服のような装備が、爆散した。


「今、何て言ったんだ!」


梅太郎が、思わず叫んだ。


ロシア語……だよな。小真は気になった。

意味が、分からない。こんなときに、検索サイトがあれば。……編集画面に、検索機能なんてないか。


パンパンパン!


パンパンパン!


再び、白い煙のエフェクト。


「天下の統一を見ることなく


 この日を迎えることになるとは……」


「スライム大統しょおおおお!!!」


バコン!!


スライム大統領が、飛び散るように爆散した。


「何で、そのセリフなんだよ!」


思わず、小真は声を上げそうになった。


どこかで聞き覚えがある。確か、レトロゲームの本で読んだことがあるような……。


武将がたくさん登場するゲームで、寿命を迎えた大名が、こんな感じの台詞を言っていた気がする。制作者、当時、そのゲームにハマっていたのだろうか。


いや、そんなことを考えている場合ではない。


梅太郎たちが、次々と倒されている。


パンパンパン!


パンパンパン!


白い煙が、画面を覆う。


「梅太郎ぉぉぉぉぉ!!!」


シャフトが、叫んだ。


そして、シャフトの姿が、消えた。


最後に残った梅太郎も、画面から、姿を消していく。


ゆっくりと。


ゆっくりと。


画面が、ブラックアウトした。


……。


……全滅。


まさかの、全滅である。


少し、驚いた。


いや、驚いたのは、全滅そのものではない。ここまでの演出だ。敵の登場。兵士の奇襲。仲間たちの最期。そして、ゆっくりと消えていく画面。


これまで見てきた中で、間違いなく、一番気合いの入ったイベントだった。


「……なかなか、いい演出じゃないか」


編集画面を開いた。


これほど作り込まれたイベントだ。何かメモが残っているかもしれない。


イベント設定の奥に、古いメモがあった。


【メモ更新日:25年前】


『ここは一番容量を使ったシーン。


スイッチやエフェクトをすべて使って、やれることだけのことはやった。


途中、うまく動かないときがあり、全然進まなかった。


でも、できたときの感動と、くだらなさへの笑いが最高だった。』


「……そうか」


画面を、見つめた。


制作者も、成長していっているんだな。


最初の頃のメモには、授業中に思いついたことや、好きなゲームの演出を再現したいという気持ちが書かれていた。思いついたものを、そのまま形にする。それだけだった。


でも、今のイベントは違う。


スイッチを組み合わせ、エフェクトを使い、容量の限界まで工夫している。うまく動かなくても、何度も試して、完成させたのだろう。


……二十五年前に。


小さく、笑った。


そして、少しだけ、寂しくなった。


最近は、直すべきところが、どんどん減っている。


以前なら、イベントの不具合を見つけるたびに、俺の出番だと思っていた。しかし、今は違う。ちゃんと動くイベントが増えた。設定を直す必要も、なくなってきた。俺は、ただ、梅太郎たちの冒険を眺めていることが多くなった。


それは、喜ばしいことのはずだ。


なのに、寂しい気持ちもある。


……何なんだろうな、この感情は。


さて。


全滅した梅太郎たちは、どこへ行ったのだろう。


画面が切り替わるのを、待った。


そして、表示された場所を見て、首をかしげた。


【現在地:地獄】


「……地獄?」


天国には、行けなかったのか。


編集画面を開き直して、移動先の欄に、その名前を入れた。対象は【自分】。


タッタッタッ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。