第45話:条約失効のカウントダウン
深夜零時。六本木『ザ・クラウンタワー東京』の最上階、地上二百メートルのプレジデンシャル・スイート。
眼下に広がる東京の摩天楼は、宝石箱をぶちまけたような無数の光の海となって広がっていた。しかし、黒檀の巨大なラウンドテーブルを囲む男たちの空間は、まるで外気から切り離された深海の沈没船のように、重苦しく息の詰まる静寂に支配されていた。
室内の照明は極限まで落とされ、壁一面の特大マルチディスプレイから放たれる青白い電子光だけが、四人の男たちの彫刻のような横顔を冷たく照らし出している。
いつもなら、この部屋には怒号が飛び交っていた。
限定カヌレの買収を巡ってペーパーナイフとスタンガンが交錯し、二次元の銀髪騎士を巡って口座凍結プログラムと筋弛緩剤の注射針が火花を散らしていた。
だが――今夜は違った。
誰一人として声を荒らげる者はいなかった。
誰一人として机を叩く者も、互いの胸ぐらを掴み合う者もいなかった。
そこに漂っていたのは、狂人たちが初めて直面した、底知れぬ「静かな絶望」だった。
カウンターの奥で、無言のままクリスタルグラスをネル生地のクロスで磨いていたチーフバーテンダー――九重圭は、背筋を伝い落ちる冷や汗を拭うことすらできずにいた。
(……痛くない)
九重は、自らの左脇腹にそっと手を当てた。
いつもなら、男たちの殺気が臨界点に達するたびに、胃酸が逆流して激しい激痛が走っていた。特大ボトルの液体胃腸薬をラッパ飲みし、「店内で凶器を出すな」と叫ぶのが常だった。
しかし、今夜のこの部屋を満たしているものは、他者への攻撃衝動ではない。
自分たちが心血を注ぎ、誇りとプライドと持てるすべてのリソースを注ぎ込んで築き上げてきた『完璧な無菌室』が、内側から音を立てて崩れ去ろうとしていることに対する、逃げ場のない喪失感。
破滅の足音が、すぐ耳元まで迫っていた。
◇
「……これが、本日の昼休み、本社ビル屋上庭園で記録された全音声ログのテキストだ」
沈黙を破ったのは、成瀬郁の掠れた声だった。
成瀬は、リクライニングチェアの上で膝を抱え、小さく丸まっていた。いつもなら軽快にタイピングを響かせているはずの指先は、だぶだぶのパーカーの袖の中に隠され、カタカタと微かに震えている。
成瀬が指先でトラックパッドを撫でると、正面のスクリーンに、昼休みに槇原紬と関茉莉花が交わした会話の全記録が、冷酷なフォントでスクロールされた。
『みんな……優しすぎるんです。私の周囲にいる人たちが、あまりにも都合よく、親切で……なんだか、見えない分厚い壁に、ずっと守られているような気がして……』
『誰かが、裏で何かをしてるんですよね……? 私、自分が知らないうちに、何かものすごく不自然な「檻」の中に閉じ込められてるんじゃないかって……そう思ったら、急に怖くなっちゃって……』
『あんたの周りの男たち……あれは、あんたが息をする空気すらコントロールしようとしてる目よ』
『もし息苦しさを感じてるなら、ちゃんと自分の目で確かめなさい』
『……はい。私、ちゃんと自分の目で確かめます』
一行、一行が、鋭利な刃となって男たちの胸を抉り抜いていく。
「紬さんの警戒度……ならびに周囲への不信指数は、過去最高値の九十二パーセントに達している」
成瀬は顔を埋めたまま、絞り出すように言った。
「午後の勤務中、紬さんは明らかに普段と違っていた。……オフィスの防犯カメラのレンズの向きを、何度も、何度も不自然そうに見上げていたんだ。僕が遠隔でカメラの首振りを制御しようとした瞬間、紬さんがビクッと肩を跳ねさせて、視線を鋭く走らせた。……もう、駄目だよ」
成瀬の声に、涙の湿り気が混ざる。
「これ以上の監視カメラの自動追尾も、社内端末のバックドアアクセスも、限界だ。……紬さんは、もう『親切な偶然』として受け流してくれない。僕たちが画面の向こうで指一本動かすだけで、紬さんは『誰かに見られている』という強烈な悪寒を感じ取ってしまうんだ。……これ以上やったら、紬さん自身に、僕がハッキングしていることを突き止められる」
「精神医学的、ならびに心身医学的見地からも、成瀬くんの意見を全面的に支持せざるを得ません」
静かに言葉を継いだのは、保科貴文だった。
保科は白衣を着ていなかった。濃紺のタートルネックセーターに身を包み、銀縁眼鏡を外してデスクの上に置いている。眼鏡を外したその素顔は、いつもの柔和な微笑みを完全に喪失し、酷く青ざめ、やつれ果てていた。
保科は自らのスマートフォンの画面をタップし、紬のバイタルグラフをスクリーンの一角に投影した。
「見てください。……以前の紬ちゃんのバイタルは、副交感神経が優位で、心拍も体温も、完璧なリラックス状態のサインを示していました。しかし、昨夜から今日にかけてのデータは、持続的な交感神経の過緊張……典型的な『不可視の脅威に対する防衛反応』を示しています」
保科は冷え切った指先で、額を押さえた。
「紬ちゃんの睡眠ステージは浅くなり、安静時心拍数は平時より十五パーセント上昇しています。何より……彼女が感じているのは、安心感などではない。『息苦しさ』です。見えない壁に四方を囲まれ、誰かに観察されているという無意識のストレスが、彼女の自律神経を蝕み始めている」
保科の唇が、苦痛に歪んだ。
「僕たちが彼女のために用意したはずの『無菌室』が……今や、彼女の精神を窒息させる『毒ガス室』へと変質してしまった。……これ以上、彼女を欺き、隠蔽工作を継続することは、医学的に見て、彼女の心を完全に破壊する行為に他なりません」
二人の専門家から突きつけられた、逃れようのない現実。
その時――
ガタッ、と。
重厚な革張りの椅子を引いて、立ち上がった男がいた。
梶原敦志だった。
◇
梶原は、仕立ての良い黒のスーツを着ていた。しかし、その左手首には、分厚い白い滅菌ガーゼと医療用テープが痛々しいほど何重にも巻き付けられていた。
三日前の豪雨の夜。エレベーターの暗闇の中で、怯える紬を前にして理性を繋ぎ止めるため、自らの奥歯で力任せに噛み破ったあの傷痕だった。
梶原はラウンドテーブルの中央へと進み出ると、三人の男たちの前に、自らの両手を静かに差し出した。
「……俺だ」
梶原の地底から響くような重低音が、静寂を震わせた。
「あの夜。停電したカゴの中で、俺が私情を挟み、あの人に上着を掛けたことが……全ての引き金になった。……あの人が『不自然な守護』の存在に気付く決定打を与えたのは、紛れもなく俺の失態だ」
梶原の瞳には、一切の弁解の色はなかった。
ただ、軍隊の法廷で銃殺刑を宣告されるのを待つ兵士のような、絶対的な覚悟だけが宿っていた。
「【不可侵条約・第2条】:被警護者に不信感を与え、条約の存在を露見させる危機を招いた者は、即座に全権を剥奪され、排除される。……規定通り、俺を処分しろ」
梶原は懐から、401号室の合鍵、警備会社のマスターアクセスキー、そして自らの身分証をデスクの上に無造作に放り出した。
「俺は今夜、あのマンションを引き払う。あの人の視界から永久に消え、二度と生活圏には近づかない。……成瀬、鷹見。俺を『過剰な警備を独断で行っていた不審者』として警察へ突き出せ。全ての責任を俺に被せれば、貴様ら三人の存在は偽装できる」
「梶原さん……」
成瀬が息を呑み、顔を上げた。
自らを身代わりの生贄として差し出し、他の三人と紬の平穏を守ろうとする、あまりにも不器用で、あまりにも残酷な忠誠心。
しかし――
その申し出を、一瞬で切り捨てた声があった。
「――馬鹿を言うな」
低く、冷徹で、威厳に満ちた声。
ラウンドテーブルの上座。
腕を組み、彫像のように目を閉じていた鷹見征司が、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
その切れ長の瞳には、青い炎のような光が宿っていた。
「誰の責任でもない。……貴様が自首して消えたところで、何が変わるというのだ」
鷹見は立ち上がり、デスクの上に散らばった梶原の鍵を手に取ると、乱暴に梶原の胸ポケットへと押し戻した。
「彼女が抱いた違和感は、エレベーターの上着だけではない。カヌレ、傘、神隠し、伊豆の旅館、風邪の看病……我々四人がこれまで積み重ねてきた、すべての過剰な干渉の総和だ」
鷹見は窓際へと歩み寄り、冷たいガラスに片手を突いた。
二百メートル下の東京の街を見下ろす、その背中。
「彼女は、馬鹿ではないのだ」
鷹見の声が、静かに熱を帯びていく。
「真面目で、努力家で、人の悪意を疑わない無垢な心を持っているが……彼女は決して、思考を放棄した愚か者ではない。……一人の自立した女性として、編集者として、日々を必死に生きている人間なのだ」
鷹見は自嘲するように口元を歪めた。
「その彼女が、自らの周囲で起きている異変に気付かないはずがなかった。……我々は、彼女の笑顔を守るという美名のもとに、彼女を『世界の中心にいる無知な神』として祭り上げ、都合の良い箱庭の中に閉じ込めようとしていただけなのだ」
「鷹見さん……」保科が呟く。
「認めるのだ、諸君」
鷹見は振り返り、三人の怪物を冷徹に見据えた。
「不可侵条約による水面下の隠蔽工作は――【もはや、完全に限界を迎えた】」
ドクン、と。
部屋にいる全員の心臓が、同時に重い音を立てた。
条約の失効。
それは、これまで四人を辛うじて繋ぎ止めていた、唯一のルールが消滅することを意味していた。
◇
カラン、コロン。
静まり返ったスイートルームに、氷の涼やかな音が響いた。
カウンターの奥から、歩み出てきたのは九重圭だった。
手元のシルバートレイには、四つのグラス。
しかし、今夜グラスの中に注がれていたのは、華やかなカクテルでも、気休めの炭酸水でもなかった。
琥珀色の最高級スコッチウイスキー。加水も氷も一切加えない、度数六十度の原酒のストレート。
九重は、四人の男たちの前に、無言でグラスを一つずつ置いた。
そして、手元に残っていた空のグラスを静かにトレイへと戻し、深々と一礼した。
その顔には、いつもの胃痛に怯える情けないバーテンダーの表情は微塵もなかった。
幾多の修羅場を見守り、男たちの狂気の軌跡を誰よりも間近で記録し続けてきた、唯一の書記官としての、厳粛な眼差し。
「……皆様」
九重は静かに口を開いた。
「条約書記人として、確認させていただきます。……不可侵条約がその役目を終え、これ以上の偽装が不可能であるとするならば」
九重は四人の顔を、一人ひとり真っ直ぐに見つめた。
「……では、どうなさるおつもりですか?」
重い問いかけ。
隠蔽をやめるということは、二つの道しかない。
一つは、紬の前から四人全員が完全に姿を消し、彼女の日常から永遠に退場すること。
もう一つは――彼女の前に姿を現し、自分たちが水面下で行ってきたすべての狂気と暗躍を白日の下に晒すこと。
だが、後者を選べばどうなるか。
盗聴、監視、人事への不当介入、暴行、監禁未遂。
彼女が最も嫌う「強引な支配」と「理不尽な悪意」そのものを、他ならぬ自分たちが率先して行っていたという真実。
それを知った瞬間、紬は間違いなく絶叫し、恐怖し、四人を「唾棄すべき怪物」として永久に拒絶するだろう。
嫌われたら死ぬ。
その絶対的な恐怖の前に、男たちは息を呑み、唇を噛み締めていた。
静寂の中、ウイスキーの放つピートの芳醇なスモーキーフレーバーだけが、部屋を満たしていく。
やがて――
鷹見征司が、デスクの上のグラスを取り上げた。
琥珀色の液体を一息に喉へと流し込む。喉元を焼く灼熱のアルコール。しかし、鷹見の表情は一ミリも動かなかった。
「……隠せないのなら」
空になったグラスを机にトンと置いた鷹見の瞳に、冷たい月光が宿った。
「隠せないのなら、真実を受け止めさせるしかない」
「鷹見さん!?」成瀬が目を見開く。「紬さんに……全部話すっていうの!? そんなことしたら、僕たち……二度と紬さんに会えなくなっちゃうよ!!」
「拒絶されるのが怖いか、成瀬」
鷹見は冷然と成瀬を見下ろした。
「軽蔑されるのが怖いか、保科。……警察に突き出されるのが怖いか、梶原」
三人は、言葉を失って息を詰まらせた。
「怖いのは、私とて同じだ」
鷹見の右手が、自らの胸元を強く握りしめた。
「彼女に嫌われ、冷たい目で見下ろされるくらいなら、今すぐこの場で舌を噛み切って死んだ方がどれほど救われるか分からん。……だがな」
鷹見の眼差しが、刃のように鋭く研ぎ澄まされた。
「彼女をこれ以上、嘘の檻に閉じ込め、窒息させることなど……断じて愛ではない。……彼女が自分の足で立ち、自分の目で世界を見ようとしているのなら、我々はその裁きを、正面から受ける義務がある」
男たちの背筋が、ピクリと震えた。
そうだ。
逃げることなど許されない。自分たちが彼女に注ぎ込んできた狂気のすべてを、彼女自身の審判に委ねる覚悟を持つこと――それこそが、彼女を愛した男たちに残された最後の矜持だった。
「……だが」
鷹見の声のトーンが、スッと一段下がった。
絶対零度。
すべての感情を削ぎ落とした、死神の宣告のような冷たさ。
「だが、その前に――だ」
「……その前に?」
保科が眉をひそめる。
「我々が彼女の前に膝を折り、断罪を受けるのは構わん。だが……彼女を裁きの場へ立たせる前に、片付けておかねばならぬ【最大の害毒】が存在する」
鷹見が右手を軽く振った。
「成瀬。……例のアラートを展開しろ」
「え……?」
成瀬がハッとして、自らのノートパソコンへと視線を落とした。
その瞬間――
ピロリロリロリロリロリッ……!!
成瀬のコンソールが、これまでにない異常な周波数の、けたたましい緊急警報音を撒き散らし始めた。
◇
パッ、と部屋の巨大スクリーンの画面が強制的に切り替わった。
先ほどまでの紬の音声ログが掻き消され、画面一面に表示されたのは――警察庁ならびに法務省矯正局のデータベースから抽出された、禍々しい公的文書のリアルタイムストリームだった。
画面中央に、赤黒い太字の警告ウィンドウが叩きつけられる。
【国家矯正管理データベース・緊急照合完了】
【対象識別コード:PHANTOM】
【氏名:三島 孝平/ 28歳】
【罪状:住居侵入、ストーカー規制法違反、暴力行為等処罰法違反】
【服役先:府中刑務所(受刑番号:304号)】
【ステータス:本日午前八時三十分・刑期満了に伴い【釈放(出所)】完了】
静寂。
室内の温度が、一瞬で凍結した。
画面の下部には、出所したばかりの男――三島孝平の顔写真が、大写しになっていた。
青白い肌、落ち窪んだ眼窩。そして、その瞳の奥に宿る、何年もの服役生活によってドス黒く熟成された、異常極まりない執念と逆恨みの光。
三島孝平。
大学時代、槇原紬の生真面目さと優しさにつけ込み、執拗な付きまといと待ち伏せを繰り返し、自宅アパートの鍵をピッキングして侵入しようとした現場で逮捕された、元ストーカー。
紬に人間不信寸前のトラウマを植え付け、彼女が今なお暗闇や閉所を恐れる原因を作った、彼女の人生における【最初の悪夢】。
「……出所したか」
保科貴文が、静かに立ち上がった。
机の上に置かれていた眼鏡を手に取り、ゆっくりと自らの顔へとかける。
カチリ、とフレームが収まった瞬間――保科の瞳の奥から、先ほどまでの迷いと絶望が完全に消滅していた。
残されていたのは、脳神経外科医が癌細胞を焼き切る時の、冷酷無比な殺意。
「カルテに眠る、大学時代の紬ちゃんの心理トラウマデータ……。彼女があの男のせいで、何日も食事が喉を通らず、怯えて震えていた記憶は、僕の脳裏に克明に焼き付いていますよ」
保科の手が、白衣の胸ポケットの高級万年筆を、ミシミシと音を立てて握りしめた。
「成瀬くん。この男の出所後の足取りは」
「……全部、掴んでる」
成瀬が、顔を上げた。
パーカーのフードを乱暴に跳ね除けた成瀬の瞳には、かつてないほど獰猛な、電脳の悪魔の輝きが宿っていた。
「府中刑務所の正門を出た瞬間から、街頭監視カメラ、Suicaの利用履歴、立ち寄ったネットカフェの端末IP……すべてをリアルタイムでトラッキングしてる。……こいつ、出所して真っ先にネットカフェに入って、紬さんの過去のSNSや大学の同窓会名簿を検索しまくってるよ」
成瀬の唇が、三日月型に歪んだ。
「まだ……懲りてないんだ。自分の人生が狂ったのは紬さんのせいだって……復讐する気満々で、紬さんの現在の居場所を血眼になって探してる」
「……話にならんな」
部屋の最奥から、重厚な金属音が響いた。
梶原敦志が、デューティーベルトの留め金をカチリと締め直していた。
左手首の包帯の上から、黒いタクティカルグローブを力強く引き締める。その全身から立ち上る覇気は、すでに一頭の凶暴なヒグマを素手で解体できるレベルに達していた。
「あの人に、あの男の顔を一目たりとも見せるわけにはいかない。……あの人の視界に入る前に、息の根を止める」
四人の怪物の視線が、再び一つに束ねられた。
迷いは、消え去っていた。
自らの罪を紬に告白し、裁きを受けるのは、その後でいい。
だが――愛する彼女が、かつて自分を地獄に突き落とした本物の悪意によって、再び傷つけられ、涙を流すことなど――この命を百回捨ててでも、絶対に許さない。
「千冬」
鷹見征司が、冷酷に命じた。
部屋の隅に控えていた佐伯千冬が、手帳を開いて静かに一歩前へ進み出る。
「【不可侵条約・最終特別プロトコル】を発令する。……ターゲット名、三島孝平。作戦目標は――【紬に一切の恐怖と不安を抱かせることなく、対象を社会・法・物理の三次元から完全に消滅させること】だ」
「かしこまりました、副社長」
千冬は眼鏡を押し上げ、淀みなく応じた。
「法務部、情報システム部、提携医療機関、民間警備部隊……全リソースの戦闘配置を完了いたします」
鷹見はラウンドテーブルに両手をつき、スクリーンに映る三島の顔写真を、絶対零度の瞳で見据えた。
「行くぞ、諸君。……我々の作った無菌室が崩壊するその前に、彼女の過去の悪夢を、我が手で完全に葬り去るのだ!!」
「「「了解!!!!」」」
三人の怪物の獰猛な咆哮が、スイートルームを揺るがした。
少女の日常に芽生えた小さな疑問。
そして、刑期の終わりとともに放たれた、過去の復讐者。




