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【連載版】神様に願ったのは衣食住  作者: あずきまんま
第2幕:加護の幅を広げる日々と、外の世界への種まき

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第14話:異世界のおやつタイムと、母娘の談笑

籠いっぱいのミルフルを持ち帰った翌日、依頼のない静かな午後のことだった。


昨日の疲れも残らず、むしろ心地よい余韻の中で目覚めた朝だった。


籠の中で赤くつやめくミルフルを眺めながら、葵はふと思い立って、マルタに声をかけた。


「マルタさん、少しだけ厨房を借りてもいいですか? 今日はおやつを作りたくて」


「おやつかい? もちろん構わないよ。少しの間なら好きにお使い」


マルタは快く頷き、昼食の片付けが済んだばかりの厨房を空けてくれた。


ストレージから取り出したのは、市場で仕入れておいた小麦粉と卵、それに砂糖と牛乳。


「今日は、小麦粉のパンケーキを焼きましょう。ミルフルのシロップをかけて」


「わあ、楽しみ!」


琴音が瞳を輝かせる。







調理台に材料を並べ、葵はまず卵を卵黄と卵白に分けた。


「卵黄の方には、牛乳と小麦粉を混ぜていくわね」


ボウルの中で卵黄と牛乳をよく混ぜ、そこへ小麦粉を加えてなめらかになるまで混ぜ合わせる。


「こっちの卵白は、泡立て器でしっかり泡立てるの。ふわふわに膨らませるための、大事な工程よ」


「私がやってみる!」


琴音が張り切って泡立て器を手に取った。


最初は白く濁るだけだった卵白が、根気よくかき混ぜるうちに、少しずつ艶やかな泡へと変わっていく。


「手首、疲れてきた……」


「もう少しよ。角がツンと立つくらいまで」


腕を交代しながら、二人がかりで丁寧に泡立てを続けた。


その様子を、フィニがフードから顔を出して興味深そうに眺めている。


『あたちも、お手伝いする……!』


「フィニも手伝いたいって」


琴音が伝えると、葵はくすりと笑った。


「じゃあ、風で冷やしてもらおうかしら」


『まかせて……!』


フィニが小さな羽を懸命にぱたぱたと動かすと、ふわりと涼しい風がボウルの周りに巻き起こる。


けれど泡立てには特に影響もなく、卵白はフィニの起こす風にほんの少し揺れるだけだった。


「フィニ、それ、あんまり関係ないかも……」


琴音がくすくす笑いながらそう伝えると、フィニは不満げに頬を膨らませた。


『えー、涼しくて気持ちいいのに……!』


その言葉に、葵と琴音は顔を見合わせて笑ってしまった。


気を取り直した琴音が、再び泡立て器を握り直す。


「よし、頑張るぞ……!」


腕をぶんぶんと回し続けること、しばらく。


白かった卵白が、次第につのが立つほどのしっかりとした泡へと変わっていった。


「見て、お母さん! こんなに泡立った!」


得意げに掲げたボウルの中身を、葵は覗き込んで目を細めた。


「上手にできたわね。よく頑張ったわ」


しっかりとツヤのある泡になったところで、卵黄の生地に卵白の泡を少しずつ加えていく。


「泡を潰さないように、下から掬うように混ぜるのがコツよ」


ゴムベラでさっくりと混ぜ合わせると、ふんわりとした生地が出来上がった。


熱したフライパンに薄く油を引き、生地を丸く落とし入れる。


「弱火でじっくり焼くの。焦らないのが美味しく焼くコツよ」


表面にふつふつと小さな泡が浮かんでくるまで、じっと待つ。


数分後、そっと裏返して蓋をすると、香ばしい甘い匂いが厨房いっぱいに広がった。


「わあ、ふっくら膨らんでる……!」


生地がこんもりと丸く膨らんでいく様子に、琴音が思わず声を弾ませる。


『いいにおい……!』


匂いに誘われたフィニが、鼻先をひくひくとさせながらフライパンに近づいていく。


その間に、琴音は摘み取ってきたミルフルを鍋に入れ、少量の砂糖と一緒に火にかけていた。


木べらでゆっくりと潰しながら煮詰めていくと、果肉がとろりと崩れ、鮮やかな赤色の果汁がじわじわと滲み出てくる。


「種は取り除いておいた方がいいわね」


葵の助言を受け、琴音は網でこしながら鍋に戻す。


一口味見をして、甘さが足りなければ砂糖を少し足す。


火にかけて数分、とろみがつくまで煮詰めたところで火を止めると、甘酸っぱい香りの赤いシロップが出来上がった。


「わあ、綺麗な色……!」


「これをたっぷりかけましょう」


こんがりと焼き上がったパンケーキを皿に重ね、その上からミルフルのシロップをとろりと回しかけた。







完成したパンケーキを前に、三人はテーブルを囲んだ。


「いただきます」


一口頬張った琴音が、目を丸くする。


「ふわふわ……! それに、ミルフルの甘酸っぱさがちょうどいい!」


葵も一口食べてみると、口の中でほろりと崩れるような柔らかさと、ミルフルの爽やかな酸味が広がった。


「本当に美味しいわ。前世で作っていたホットケーキより、ずっと軽い食感ね」


『あたちも食べたい……!』


「フィニも食べたいって」


琴音が小さく切り分けた一切れを差し出すと、フィニは両手で抱えるようにして頬張った。


『おいひぃ……!』


頬いっぱいに頬張るフィニの姿に、二人は思わず笑ってしまう。


その時、厨房の方からマルタがひょいと顔を覗かせた。


「良い匂いがすると思ったら……何やら美味しそうなもの、作ってたんだね」


「マルタさんもいかがですか?」


「おや、いいのかい? じゃあ一切れだけ」


差し出された一切れを頬張ったマルタは、目を丸くした。


「ふわふわだねぇ……! こんな軽い食感、初めてだよ」


満足そうに笑うマルタの様子に、葵と琴音も嬉しくなって顔を見合わせた。


三人でパンケーキを食べ進めるうち、琴音がふと箸ならぬフォークを止めた。


「前世の学校の友達にも、これ食べさせてあげたかったな」


ぽつりとこぼれた言葉に、葵は琴音の頭にそっと手を伸ばした。


「そうね。きっとみんな、驚いて喜んでくれたと思うわ」


優しく撫でられた琴音は、少し照れくさそうにはにかみながらも、葵にそっと寄り添った。


「お母さんも、前世で誰かにご飯を食べさせてあげたいって思うこと、あった?」


ふいに尋ねられ、葵は少し考えるように視線を宙に泳がせた。


「そうね……職場の人たちに、お弁当を分けてあげたことがあったわ。喜んでもらえると、単純に嬉しくてね」


「そういうところ、今と変わらないね」


くすぐったそうに笑う琴音に、葵もつられて笑みをこぼす。


窓の外では、午後の穏やかな光が通りを照らしている。


「また今度、違う組み合わせでも作ってみましょうか」


「うん! 今度はミルフル、もっと採りに行こうね」


お腹がいっぱいになったフィニは、いつの間にか琴音の肩でうとうとと舟を漕ぎ始めていた。


『もう一枚……たべ……る……』


寝ぼけたつぶやきに、葵と琴音は顔を見合わせて、そっと笑いを噛み殺した。


甘い香りの残る厨房で、三人の穏やかな時間はゆっくりと過ぎていった。


お読みいただきありがとうございました!


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