悪女行動する
ジュラが王の元へ向かって行くのを見送った後、私は会場を見回した。
豪華な料理、談笑する貴族達、行き交う使用人。その中で、私は不意に足が止めた。先ほど私へワインを勧めてきた王宮のメイドが、トレーを持って歩いていた。
けれど、その上に並ぶグラスの中に、一つだけ違和感があった。一つだけ、豪華な装飾で他のグラスとちがう色をしたグラスが置かれている。
気のせいかもしれないけど、女神が言っていた。今日、この夜会で毒が見つかり、シャルロッテが犯人になる。今から怪しい動きを探す必要なんてない。
先に終わらせてしまえばいい。私はメイドへ歩み寄った。
「貴方」
声を掛けると、メイドはこちらを振り返り綺麗に礼をした。
「はい。いかが致しましたか?」
私はトレーへ視線を落とす。
「そのグラス、ジュラ……王太子殿下へお持ちする物かしら」
メイドは少し驚いたように目を瞬かせた後、頷いた。
「はい。今からお持ちしようかと思っておりました」
やっぱりそうだったのね。私は微笑んだ。
「そう。では、私が持って行くわ」
返事を待たず、私はそのグラスを手に取ると、一瞬だけ、メイドの表情が固まった気がした。そのまま会場の中央へ歩き出した。
王と妃、そしてジュラが話しているところへ近づくと、ジュラがこちらに気付き笑う。
「どうしたんだい、シャル」
私がグラスを見せると、ジュラは少し嬉しそうに目を細めた。
「私のワインを持って来てくれたんだね。ありがとう」
王妃も少し驚いた顔をした。
「珍しいこともあるものですね」
王も静かにこちらを見ている。私はジュラへグラスを差しそうとした瞬間指先から、するりと力を抜いた。
ガシャンー
高い音が響き赤い液体が床へ広がった。私は少しだけ声を上げた。
「きゃ……申し訳ございません」
周囲がざわつきジュラはすぐ私へ近寄った。
「シャル、大丈夫か」
落ちたグラスではなく、先に私の手を取り怪我がないか確認している。王妃は静かに使用人へ指示を出した。
「床を片付けなさい」
メイド達が動こうとした時、王が何かに気付いたように視線を落とした。視線の先は床ではない。割れたグラスの破片。
赤いワインが触れた内側。そこだけ、じわりと色が変わっていた。それを見た王の表情が止まる。
静かに破片へ視線を落としたまま、王は隣のジュラへ僅かに顔を寄せ、小さく耳打ちするとジュラの表情が消えた。
王は何事も無かったように立ち上がると、割れたガラスをそのままにする様に指示をした。
「少し席を外すね」
私だけに聞こえる声でジュラは耳打ちすると、ジュラは何人かの近衛とこの会場を後にした。私はその背中を見ながら、小さく息を飲んだ。
……成功した?
すると頭の中で、静かな声が聞こえた。
『未来が変わりました』
それは久々に聞く女神の声だった。




