悪女は傍観する
ジュラが席を外したことにより、会場は静かになるどころか、逆にざわめき始めた。
けれど、静かな会場ではよく聞こえる。
「何かありましたの?」
「シャルロッテ様が何か……?」
「殿下、お怒りになったのでは」
「また何かやらかしたんじゃないか」
誰かが笑う。
「婚約解消だったりして」
小さな笑い声が広がったが、私は聞こえないふりをした。
「静まれ」
その空気を断ち切ったのは、王だった。その一言で空気が凍り、誰も口を開かなくなる。
その時だった。再び扉が開くと全員の視線が向いた。そこにいたのは、先程出て行った王とジュラ、そして白衣を纏った男だった。
年配の男性で、胸元には王宮紋章。王宮随一の薬学者である男は静かに近付き、白い手袋を嵌めると、床に残されたグラスの破片を慎重に持ち上げた。
しばらく眺めた後、口角を上げる。
「おー、これは珍しいのお」
そのただならぬ雰囲気に、周囲が息を飲むのが伝わる。男は軽く破片を持ち上げた。
「端的に言うと、毒ですな」
誰も動かなかった、いや、誰も動かなかったと言うのが正しいのかもしれない。
次の瞬間、会場が爆発した。
「ど、毒!?」
「殿下が!?」
「なんですって!?」
王は静かに頷いた。
「やはりな」
そう言いながら、静かに私に目を向けた瞬間、心臓が跳ねた。そして、王は静かに口を開いた。
「……そのグラスを持って来たのは、シャルロッテだったな」
そう王様が言うと空気が変わる。それに同調する様に誰かが叫んだ。
「お前が殿下を毒殺しようとしたのか!」
それを皮切りに、この会場はシャルロッテへの批判で埋め尽くされた。
「この悪女め!」
「前から怪しいと思っていた!」
「婚約者の立場で何ということを!」
怒号、責める声。さっきまで笑っていた人達が、今度は正義の顔で私を見て、胸が少し苦しくなる。
コンコン乾いた音が鳴り響く。王が杖を鳴らした様だった。その音で静まり返った会場を王が見渡した。
「鎮まれ」
圧のあるその言葉に誰も何も言えずにいた。一つ先払いをした王は続けて言った。
「仮にシャルロッテがジュラデュースを殺そうとしていたなら」
「わざわざ自ら持って来た上で、人前で割る必要がない」
会場がざわめく中王は更に続けた。
「そもそも、自分で毒入りのグラスを運ぶ理由も無いだろう」
私は目を見開いた。さっきわざとグラスを落としたことがバレてる。王様は気がついていたんだ。頭の中で色々考えているうちに、ジュラが私の手を握った。
ビクッと反応驚いてジュラに視線を送るが、彼は何も言わなかった。ただ、いつもより強く握られているその手に戸惑うと、大丈夫。と口だけ動かした。私は小さく息を飲むと、
「……そんなはずない」
小さいのに、静まり返ったこの会場でやけにはっきり聞こえた誰かの独り言が聞こえた。
「だって……ちゃんと、あいつが持って行く予定だったのに……」
私は声のした方を見る。ジュラも王様にも聞こえていた様で同じ方向を見ていた。
そこには――シンラの後ろにいた女性が、青ざめた顔で下を向いて立っていた。




