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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第一章 捨てられ猫姫の新生活
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猫の国での生活の始まり

第一章の最終話です。

 問題は、と宰相は少しためらってから言った。


「女王は一般の貴族猫とは違います。一般の貴族猫は、ほぼ人間と同じだと思ってください。子を産み、子を愛して育て、家族を形成する。だから人間界の貴族の家門として継続させられる。

 けれど、女王は選別の日に子供との縁を切ります。そこは平民猫と同じです。一人の女王と、一人の王女。二人は家族ではありません。現にミーア嬢は、女王を母親として慕う気持ちは、お持ちではありませんよね」


 どうでしょうか? と宰相は私に聞いた。


 私は、そうだと答える。


「女王は多くの家臣にかしずかれ、全ての貴族猫を束ねるが、王女も家臣の一人なのです。そして、ミーア嬢がこの先どうなっていくのかは、全くわからないのです。今現在人間と親子関係を保っているのは、従来の王女には無い事で、学者たちが興味深々で様子を伺っています」


 宰相が、すでに注目の的です、と言う。


「ミーア嬢が結婚するとして、相手は人間、貴族猫のどちらも選べますが、貴族猫と人間との間に、子供ができたことはありません。

 だが女王は非常に力が強いので、実際の所は不明なのです。次期女王を産むために、必ず貴族猫と結婚してきたので、これも前例がないとさせていただきますね」


 ちらっと私を見て付け加えた。


「つまり、ミーア嬢は何を選ぶも自由だし、全てにおいて未知数なのですよ」


 私とお父様は同時に叫んだ。


「私の結婚? 私はまだお嫁になんか行かないわよ」


「ミーアの結婚? 娘は嫁になんかやらないぞ」


「先の話です。ただ、王女の結婚は特殊なものなので、説明しておく必要があるのです」


 手振りで二人をなだめ、いいですか、大人しく聞いておいてくださいね、と言いながら宰相は続けた。


「王女は強い子供を産むため、一番強い貴族猫と結婚します。王女が16歳になると、婚約者決定のための大会が行われ、そこで勝ち抜いた貴族猫が婚約者となります。猫の国には貧富の概念は無いので、希望者全員が対象になります」


 その話に私は疑問をぶつけた。


「嫌な人が勝ってしまったらどうなるの?」


「そういうことは、大抵ありません。若く強い猫は容姿も美しく、好ましい男猫なのです」


 でも、と私は尚も食い下がった。


「性格最悪だったりしたら嫌だわ」


「そんなことも無いでしょう。トーナメントでは立ち居振る舞いなども審査されます。礼儀知らずや、ただの乱暴者は勝ち抜けません」


 う~ん、それならいいのかな? そう思ったけど、なんとなく釈然としない。

 お父様も、う~んと唸っている。


「ミーアもそのトーナメントの勝者と結婚するのですか?」


「いいえ、先に言った通り、ミーア嬢は自由です。人間でも猫でも好きな相手と付き合えます。ただ王女の結婚がそういうものだということを、知っておいてください。貴族猫界の一般常識でもありますので」


 良かった。そんなこと、なんだか気持ちがざわざわする。

 私は王女に選ばれなくて良かった、と心底思った。


 お父様も私を抱きよせ、お前はお前のしたいように生きて欲しいよ、と言う。


 そして最後に、ブルーの毛を人間界でも貴族猫界でも、隠して欲しいと言われた。そのどちらの世界でも、ブルーの猫は物議をかもすそうだ。

 そのために、毛の色を変える魔法が必要だ。私は毛の色をグレイにする魔法を、一番初めに習うことになった。


 王女も、ブルーの毛を普段は隠している。女王になって初めて、その姿を皆の目にさらすそうだ。


 大まかな事が決まり、二人はやっと家に帰ることになった。

 帰宅時も、茶黒コンビが来た時と同じように送ってくれた。簡単に家に帰り着けたが、二人共興奮が収まらなかったので、パーシーとビリーを引き留めた。


 二人は快く誘いを受け、四人でティーテーブルを囲むことになった。


「ねえ、パーシー達はいつも何をしているの?」


「僕たちは学生だよ。人間の学校に通っているのさ。必要があれば、こうやって抜けてきているんだ。猫になればわからないしね」


「どこの学校だね?」


「バーナード学院の六年生です」


 伯爵が驚いた。


「僕の母校だ」


 三人はすっかり学校の内輪話で盛り上がり始めた。同じ教師がまだ勤めているとか、あの教師のテストはいつもこの範囲が出るとか、学生食堂のサンドイッチは、マスタードが効きすぎているとか。私にはわからない話ばかりだった。

 私がぶすっとしているのに、ビリーが気付いてくれた。ごめんごめん、つまらないよね、と言って話を戻してくれる。がさつそうなのに、なかなかいい人だ。

 

 伯爵が二人にすっかり気を許した様子で頼んだ。


「これからミーアをよろしく。この子の手助けをしてくれると嬉しい」


「お任せください。連絡役として、できることは精一杯させていただきます」


 伯爵も私も、なんとなく、これから楽しくなりそうな気がして、浮き浮きしてきた。

 これからたくさん勉強して、たくさん遊んで、大きくなって、そのうちに誰かと結婚して、子猫を二匹産むのかな? その辺りはまだ先の事だし、とにかくまずは勉強しよう。




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― 新着の感想 ―
かわいく不思議な世界観とキャラたち、とても良いです! 姉猫さんがどんな性格でどう思ってるのか気になりますが、ほのぼのということであまりハードな展開にはならないっぽいのでそこは安心か…
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