猫の国の会議
書記がそこまでのやり取りを書き取り、もうひとりがドアから出て、男女混じった八人の大人と、使者の二人を連れて戻った。
「最初にノーザン伯爵とミーア嬢の出会いと、養女にした理由を話していただけますか?」
お父様は出会いから今までの事をかいつまんで話し、私の宝箱を取り出した。
その中に納まる見事な彫金細工のブローチと、齧って小さくなった魚の骨を見て、誰もが感嘆の声を上げている。
「これはミーアと暮らしていた、彫金師のハリーがミーアに贈った宝物で、私が贈ったのはこの小箱だけなんです」
そう話を締めくくったお父様は、なんとなくしょげている。
確かに立派な箱だが、他の2つとは比べ物にならない。会議場に慰めるような雰囲気が広がった。
そこで宰相が質問した。
「娘さんを攫われた辛さはお察しします。だが、何故わざわざ人間ではないミーア嬢を養女に選んだのですか?」
「初めて彼女を見た時、また娘ではなかったと失望しました。ミーアは疲れ果てて悲嘆にくれていた私の手を引き、椅子に座らせ、背中をさすってくれたのです。私はあの時この子に救われました」
あの時と同じように、今の私もお父様の背を擦っている。なんとなく感慨深い。
宰相たち貴族猫は、お父様の話に納得したらしい。
次に宰相は、自分達の事情に付いて話しはじめた。
まずは女王の出産と、選定の日のしきたりから始め、今回どういう具合に失敗したかまでを説明した。
その後の捜査の様子。偶然にもパーラーで見かけ、事情を聞くため使者を送ったこと。
貴族猫としての登録を終えたことまで話し終わった。
「これで今までの互いの事情はわかりましたかな?」
「わかりました。ありがとうございます」
私も聞き入っていた。今の話だけでも、私が知らなかったことが沢山ある。
「では、今後のことに移りましょう。ミーア嬢は現在人間界で暮らしています。そのまま人間界で暮らすと考えていいでしょうか」
「はい、そうです」
二人の言葉が被ってしまい、顔を見合わせて笑いあった。
「承知しました。問題はミーア嬢の毛色です。現状で既にブルー手前で王女様より濃いのです。ブルーの猫は女王と王女のみという前提が覆されたのです。それで私は非常に困っております」
宰相は軽くため息をついた。
「だからですね、猫の国に居ると混乱の元になるのですよ。女王様は、今後の成長を見て結論を下すとおっしゃっています」
「その結論とはどんなものでしょうか。まさか......」
お父様がぎょっとしたように緊張して問いかけた。
するとその考えがわかったようで、宰相が嫌な顔をして見せる。
「何か物騒な事を考えているようですが、違いますよ。猫の国は人間のように野蛮ではありません。ミーア嬢を女王として、もう一つの国を作ることも、プランの一つとして考えています」
「え! 私が女王になるの?」
「でもミーアは、人間として生活させるつもりでいるのですよ」
「ええ、だから成長の様子を見て、それから相談してということです」
二人共、ホッとした。新しい国だの女王だのが飛び出して来るとは思ってもいなかったので、すごく焦ったのだ。
「では今後の教育と、猫の国との交流方法に移りましょう」
「まずは貴族猫の一般常識。これは早急に学んでいただかねば。人間のレディ教育より優先度が高いと思います」
私は頷いた。服の呪文がすごく便利だったので、他の呪文も覚えたい。
「レディ教育の前にそっちの勉強がしたいです。お父様、お願い」
「いいよ、君は覚えるのが早くてだいぶ進んでいるからね。全部をしばらくお休みするかい」
「あのね、ダンスとバレエだけは続けたいです」
「バレエは猫の国でも習えます。人間の王宮バレエ団に所属するバレリーナもいますので、レッスンを受けることも出来ます」
二人は「おお~っ」と声を出してしまった。
「素敵。ぜひお願いしたいです」と私は叫んだ。
踊るのは大好きだ。猫の国に通うのが楽しみになった。
そうやって一科目ずつスケジュールを決め、カリキュラム表と日程表が出来あがる。
お父様は、「私自身がバーナード学院に入学したときの、カリキュラム相談を思い出して懐かしいな」と言って顔をほころばせている。
その二人の様子を見ていた宰相が、ふうっと息を吐いた。
「お二人の様子を観察して安心しました。文句の付けようのない親子です。今日実際に見るまで、人間と捨てられ猫姫の組み合わせが、どうにも想像できなかったのです」
他の貴族猫たちも頷いている。
「驚くほど自然ですね。素敵な宝物を贈れていないとしょぼくれた様子など、まるで子煩悩な貴族猫の父親のようです。初めての試みだが、やる価値と希望がたっぷりあると判断しました」
その言葉に、お父様は嬉しそうに「ありがとう」と答えた。
「最後に、猫の国との交流に付いて取り決めを行います。ノーザン伯爵は、私達が人間に溶け込んで生活していると、推測されているそうですね。使者たちから聞きました」
そして、次のような説明をしてくれた。
「実はその通りです。貴族猫は普段は人間の姿で生活し、人間界に紛れ込んでいます。
猫の生活をせず、人間として生きる貴族猫もいまし、逆に猫の生活を好み、ほとんどを猫として過ごすものもいます。どちらを選ぶも本人次第です」
「ほお、自由なのですね」とお父様が感心している。
宰相はにこっとした。
「選べるというのはいいことです。基本人間で過ごし時々猫になってくつろぐパターンが主流です。ほとんどの者が人間としての身分を持ち、仕事もしています。人間の貴族の家門も、いくつかは貴族猫一族なのです。
そして猫の国の統治は、この宮殿で行われています。」
次回、第一章の最終話です。




