20.再会
そうして、2年の月日が流れた。
私は日本で大学生をしている。
教職課程を専攻する傍ら、翻訳のアルバイトも始めていた。
それに加えて、今は家庭教師ではなく塾の講師として働いている。
光司さんも頑張っているのだから、負けていられないという意識が何処かにあったように思う。
そう、彼との奇妙な関係はまだ続いていた。
光司さんは予定道理にアメリカに留学をして電話やメールでのやり取りが主になった。
周りには婚約者が海外に居て寂しくないのと散々な聞かれた。
それでも私は彼への初恋を捨てられなかったのだ。
好意を持ってくれる男性がいなかった訳じゃない。
それでも私が婚約者がいることを伝えると怯んだし、
ほんの一時感情が揺らぐ以上の情を持つ事が出来なかったのだ。
光司さんは着々と現地で事業を始める準備をしていた。
彼は日本に居るよりもずっと活き活きと過しているようで、それが嬉しい。
長い間やり取りをしているが、光司さんに女性の影は見当たらなかった。
それも私が彼を諦めきれなかった一因となっている。
それに不思議な事に距離を置いてからの方が恋人らしい遣り取りが増えた。
最初に電話口で浮気するなよと言われた時はこの人は何を言っているんだろうと思った。
光司さんもこの不確かな関係が不安なんだろうか。
それとも彼が男性としての側面を出せるぐらいには私は大人になったのかもしれない。
私はこの二年間綺麗な女性になろうと努力をしていた。
自分の為に人から振り向かれる様な女の人になりたいと思ったのだ。
それから、少しだけ光司さんの事を驚かせてやりたいと言う気持ちがあったかも知れない。
そうして私の20の誕生日に彼が帰国をして来ると言うので空港に迎えに行く事になった。
久しぶりに会うので、丁寧に化粧をしてシンプルなデザインのワンピースを着る。
空港内は混むので低いヒールの靴を選んで出かける。
目的の場所に着くまでに私は光司さんに会ったら何て言おうか考えていた。
2年の時間は大きい。
ひょっとしたら、彼にも好きな人ができて婚約を解消して欲しいと言われるかもしれない。
そう言われても冷静に対応できるよう、頭の中でシュミレーションをする。
多分、光司さんの事だ。
空港で再会したら、すぐに話を切り出して来るだろう。
カナコ、話があるんだ。
きっとそんな風に。
暗くなる考えを頭を振って止めて、周りを流れる景色に目を向けた。
そうしていると何も考えなくていいのは昔と変わらなかった。
進歩のない自分が嫌になりつつも空港は近付いて来る。
多国籍人種がごったがえす空港の中で私は光司さんをすぐに見つける事が出来た。
目が合って微笑まれて、記憶の中の表情と変わっていなくて懐かしさすら覚えた。
光司さんは私に駆け寄ってくると、低い声で言った。
「カナコ、話があるんだ。」
事前に考えていたのと同じ台詞である。
私は覚悟を決めて、分かったと言って頷いた。
「離れてみて、俺にはあんたが必要だと言う事がよくわかった。
傍にカナコがいればいいのにと何時も思っていたよ。」
「ありがとう?」
これは何の話だろう?
別れ話じゃなかったのか。
そうじゃない事は段々と分かってきた。
「将来はアメリカに一緒に付いて来て欲しい。
大学を卒業してからでいいから結婚してくれないか。」
「いいの?」
最初に感じたのは喜びで、
次に私でいいのかという不安が襲ってきた。
「他に好きな人でも出来たのか?」
「いいえ、私が好きなのは光司さんです。でも本当にそれでいいですか。」
彼は一呼吸おいて黙った。
ふと見ると、手が震えているのが分かる。
光司さんは本気でこの話を切り出したのだ。
それが分かった。
「俺は父さんと同じ事をカナコにするのがずっと怖かったよ。
母さんにみたいに傷つけるのが怖かった。
だから今まで、結婚したいとかは思った事がなかったんだ。
それでもあんたに会って少しづつ変わって行った。
カナコは不満があったら、母さんみたいに溜め込むんじゃなくてきちんと言ってくれるだろう?
そう言う人が俺には必要なんだと思う。」
彼はそう言って私の手を取った。
記憶通りに温かかくて優しい掌だった。
「これから仕事でどんどん忙しくなるし、そうすればずっと傍にいて守ってやることも出来なくなる。
ただの自分のエゴなんじゃないかってよく考えた。
中途半端な関係をずるずる続けて、今更だって言うならはっきりと断ってくれ。」
私は止めていた息を吐いて、
この提案に頷く為に必要なたった一つの質問を尋ねる。
「光司さんは私でいいんですね?」
「カナコがいい。」
こうして、私は空港の片隅で彼のプロポーズを受け入れたのだ。
本当は光司さんは夜景の見えるレストランとかで結婚を申し込もうと考えていたらしい。
それでも、私の顔を見たらどうしても伝えたくなってしまったのだと言う。
何だか、光司さんらしいと感じてしまったのが出会ってからの年数を感じさせた。
こうして、私達は本物の婚約者になった。
私と光司さんの恋愛はやっと始まるのだろう。
何だか、よく知っている友達と恋人になった様な照れくささがあった。
私が大学卒業するまで一年以上って、その間に私達の間に何が起こるか分からなかった。
順調に結婚できたとしても、それから色々な事があるだろうというのは今からでも予想できた。
ひょっとして大喧嘩の果てや価値観の違いから別れを選ぶ日が来るかもしれない。
考えたくないが浮気されたりするかもしれなくて、そう言う可能性を含めて傍に居る事を選んでしまった。
自分ではどうしようも出来ないのが恋愛感情だと、光司さんに恋に落ちた時から感じ続けている。




