表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/20

12.パーティー

とうとう、パーティー当日になった。

美容院に行って髪をセットしてもらったおかげで、髪型も綺麗にまとまっている。

それに買ってもらったドレスを着ると、鏡の中には少女めいた名残を僅かに残した大人の女性がいた。

光司さんとはお互いの家の中間点にある、広場で待ち合わせをしていた。

高めの黒のハイヒールを履いて、遅刻しないように早めに家から出て行った。


目印である、時計塔の下に彼はいた。

いつもはラフな格好をしている光司さんは今日は改まった服装をしていた。

髪型もオールバックにしていて、有能な青年実業家と言う雰囲気があった。

その様子は陳腐な例えだが、よく研がれた刃物を連想させた。

近寄りがたい雰囲気の彼は、私に気が付くと笑顔になった。

途端オーラの様な物が和らいで、砕けた性格が一気に全面に出る。

それが余りに分かりやすくて、微かに笑ってしまった。



「カナコ、上手に化けたな。」

「こういう時は綺麗になったんって言うんです。

そんな事を言っているとモテませんよ、光司さん。」

「はいはい。綺麗になったよ。」

あれから彼との関係をよく考えた。

それでも答えは分からなかった。

きっと時間を掛けて、見つけて行く事になるだろう。


この間のこともあってぎくしゃくした雰囲気になるんじゃないかと心配していたのだが、

普通に対応してくれて、こういう所が大人だと思わせた。


それから私達はくだらない応酬をして、会場へと向かった。


光司さんのお爺さんへの紹介は恙無く終わった。

礼儀正しい令嬢として振る舞う私をお爺さんは気に入ってくれたらしい。

今度、自分の屋敷に二人で遊びに来なさいと言ってくれた。


お爺さんは今日の主役なので私達だけの相手をしている訳にもいかない。

それじゃあ、後は楽しんで行ってくれと言って立ち去った。


「優しそうな人ね。」

「それはカナコが気に入られたからだ。善人面して敵には容赦しない。」

淡々と言う光司さんは何処か疲れたようだった。

こういった場所は本当に好きではないのだろう。


「合格でした?」

「うん?」

「私の令嬢振りは。ドレス代にはなったでしょうか?」

「ああ、花丸百点だよ。見合いの時の様子から大丈夫だと思っていたんだが、期待以上だった。」

良かったです。

そう言って私が破顔すると、

彼は一瞬眩しい物を見た顔をして目を逸らした。


光司さんの役に立てたなら本当に良かった。

それが私の素直な本心だった。


この時私達は今日一番の目的が終わって油断していたのだ。

だから咄嗟に反応が遅れたのだ。


「光司。」

振り返るとそこには宮之瀬家現当主、つまり彼のお父さんがいた。

お見合いの席で一度会っているが、きちんと向き合ったのは今回が初めてだ。


光司さんに良く似た精悍な顔も、

オーダーメイドであろう高級なスーツも、

如何にも育ちの良さを感じさせる紳士的な様子も当主として相応しい物だ。


それでも、何処か予想を裏切られた様な気持ちになった。

あれだけ若く儚い妻を持ってまで派手な女遊びを止めなかった男。

それで彼女を酷く踏みにじった人。


きっと冷たい男だと思っていたのだ。

しかし、彼の光司さんを見る眼差しには情を感じさせた。


「どうしてここに…。今日は仕事で欠席するのではないのですか。」

「身内のお祝いだからね。無理を言って出席したんだ。光司、お前は元気にやっていたか。」

「ええ、お陰さまで。今日お会い出来て私も嬉しいです。」


嘘だ。


彼は父親に会えて嬉しいなんてこれっぽっちも思っていない。

それが隣にいる私に良く伝わってきた。


光司さんはとても綺麗な作り笑顔を浮かべている。

彼と親しい人間なら仮面をかぶっている事が良く分かるだろう。

それでも彼の父親は安心したかのように、話題を移して行った。

それに光司さんは模範的な優等生の様な答えを返して行く。


お互いに笑顔で穏やかな口調で会話をしているのに、

背筋に寒気が走るのが止まらなかった。


ふと視線を見下ろすと、光司さんが手の平を力一杯握りこんでいた。

関節が白くなってしまっている。

それが心配でそっと手を重ねた。


光司さんが私を振り向いて目があった。

彼の瞳の中で私は酷く心配そうな顔をしていた。


「今日は可奈子さんも付き添ってもらったんです。」

「光司さんにはいつもお世話になっています。」

光司さんの様子を伺いながらも、私は丁重に頭を下げた。


「可奈子さん。光司が迷惑を掛けていないと良いんだが。

この子は小さい頃からあまり構ってやれなかったせいで、難しい所があるから。」

そう言って優しげに微笑んだ彼のお父さんに目眩がした。


この人は若い女性と再婚した事、

それでも女遊びを止めなかった事、

その影響で家庭を痛みつけた事、

一つでも十分なそれらが重なって、

光司さんを酷く傷つけた事を分かっていないのだ。


きっと、彼は悪い人ではないんだろう。

それでも。


「お父さん、申し訳ありません。気分が悪いから退席すると伝えておいてくれませんか。」

「大丈夫なのか。」

「ええ、ご心配には及びません。」

そう言って光司さんは私の腕を取って、

一刻も早くここから立ち去りたいと言うように足早にパーティー会場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ