本気で忘れたかった
どこか刺激的な香辛料の香りが食堂を包んでいた。
黄土色のスープに平たく焼いたパンがこの食堂唯一のメニューのようだ。
スープにパンを浸しながら食べる周りに合わせてジャンニもちぎったパンをスープにつけた。
そのままスープを飲んでいたら吹いていたかもしれない。刺激的な香りのスープは味もだいぶ刺激的だった。
「香辛料って、温かい土地でないと育たないそうですから、ここはたぶんだいぶ安いんでしょうね」
周囲で食事をしているこの土地の人間の噂話に耳を傾けている。
内容はいたって平和だ。
この土地の人間でないのは商人だろう。
香辛料、穀物、果物、この土地はすべてが安価なため北の地方の商人が買い付けに来る。
そして逆に商人たちがもってくる北の土地の物を買うらしい。
北の土地の硬い木材を買うことが多い。この辺りの木材は成長が早い分強度が足りないようだ。小さい建物を作るならともかく。それなりに立派な建物を作ろうとすればどうしても北の丈夫な木材が必要になる。
北の木材を用いた建物は高級建築としてこの土地の富裕階級に御愛顧いただいているというわけだ。
畑を耕す巨大な牛が普通の顔をして道を歩いていた。この辺りは家畜として馬より牛を多く飼っていた。
「あのでかい牛は食べでがありそう」
ベレッタが不届きなことを口走る。
しかしこの土地の牛は労働用だ。畑の開墾や荷運びなどに活用される。そして、そうした牛は食べても美味しくないことをジャンニは知っていた。
脂肪というものがほとんどないのだ。そして、この土地では牛は高齢になるまで使い倒すので食べ時はとうに過ぎている。
「この場所で食べるなら魚らしいぞ」
良港があるので魚がよく取れる。温かい場所の魚はうまみにかけるというが。それを新鮮さで補うのだ。
この土地の酸味のある果物で和えた生魚は他では食べられない珍味だと探索者仲間に聞いたとジャンニが教えてやればベレッタは口元をぬぐう。
「絶体それを食べる。止めても無駄だ」
目が座っていた。もちろんジャンニに止める気はない。他では食べられないがこの土地ではありふれた料理なので魚料理を食べさせる食堂ならどこにでも置いているらしい。だが店ごとに味が違う。使う魚と果物の差で味が変わるのだ。どれがよいというのではなく好みの問題という奴らしい。
「元気になったな、それなら、竜を探索するのも大丈夫だな」
「忘れていたかった」
ベレッタがとたんに落ち込んだ。
「どうして思い出させたんですか」
「それが仕事だからだ」
ジャンニは恨みがましいベレッタにそう言った。




