熱帯気候
シャクシャクシャク歩きながらベレッタが真っ赤な果物をむさぼっている。
夢中で食べているところを見るとおそらくうまいのであろうがちゃんと仕事をしろとジャンニは怒鳴りそうになった。
「お前のその嗜好品については全額自腹だと、俺以外に王城の事務官にも言われてなかったか?」
「大丈夫です、この辺りは果物がとても安いので」
ベレッタはへらへらと笑う。
実際、店を見てみると店に出ている食べ物はかなり安い。
ここは一年中畑で作物が作れる。果物の生る木は毎日花が咲いて身を実らせる。これが北のほうなら一年の半分は畑が使えないので食料は当然高価だ。
それに見た限り保存食のようなものは見当たらない。食材を保存しておくという概念がないのだ。
「お前にとっては天国みたいな場所だろうな」
しかし、欠点がないわけではない。とてつもなく蒸し暑い。ただ歩いているだけでじっとりと汗がにじみだす。
汗で額に張り付いた髪をかきあげながらため息をつく。
本日の宿は妙に細長い建物だった。
床の下が空洞になっているのだそうだ。高床式という。湿気の多い厚い場所では重宝される建築方なのだとか。
建物の中には寝台があったが。分厚くだが織り目は広い布を木の枠に挟んであるだけだった。
背中に風が通るので寝苦しくないのだそうだ。
試しにベレッタが座ってみたが布が破れたり外れたりすることはなかった。
「思ったより寝心地は悪くなさそうですね」
「まあ、この辺りの文化なんだろうな」
宿の作りはまあまあだ。ただ窓が大きく取られている。おそらく通気性を優先した結果だろう。
基本的に二人は貴重品を常に身に着けているので、宿に置いておくのは替えの利く下着などの衣類だけだ。それに曲がりなりにも魔法の使えるジャンニは荷物に防犯用に魔方陣を仕込んでいた。
「入浴施設はあるんだろうか」
べったりと汗をかいた服をつまんでジャンニが呟く。
「あ、ここの人って、近くの川で泳いで汗を流すらしいですよ、時間帯によっては人が少ない時もあるそうです」
「何の衝立もないところで裸になって泳げと?」
「そうですね、基本的にそれしかないみたいですよ」
街育ちのジャンニは外の川で水浴びという状況に大いに困惑している。
「私は平気ですよ、それくらいできないと軍人とは言えないですし」
「軍人って、何なんだ?」
「とにかく、飯を食いがてら、情報収集だ」
そう言ってジャンニはかさばる衣類の入った袋だけを置いて立ち上がった。
「そうですね」
ベレッタもそういう。さっきからずっと食べっぱなしだったにもかかわらず涼しい顔をしているベレッタにジャンニは恐れおののいた。




