穴
ジャンニは藁布団に座り目を閉じた。
そのまま縞ねずみの視界に同調する。
五感の一部を他の生き物に同調させるそれはジャンニがもっている数少ない魔法の力だった。
ただ体の感覚を同調させているときは自分の身体を動かすことができない。どうしてもできないわけではなく視界を別に持って行っているのでジャンニ本体は周囲のものが見えない状態だ。
そのまま座っていなければならない。
食事や排せつも誰かの助けを受けなければならない。
そのためジャンニがこの魔法を使う時ベレッタはとても嫌そうな顔をしていた。
排せつといってもジャンニのズボンを引き下ろさねばならないわけではない。さすがにそれくらいは自分でできる。ただ手を引いて厠まで連れて行かねばならないだけだ。
食事もパンと飲み物の入った容器を手に持たせてやるだけで、一匙一匙食べさせるわけではないのだが。
ジャンニの視界には村の風景が見えた。その視界は灰色の濃淡で描かれている。
これはジャンニの能力の限界なのか、それとも動物の視界はすべてこうなのかわからない。
そして、巨大な人の足をすり抜けて駆けていく。
そして村のはずれ、山の近くに向かった。
山の茂みに隠れた小さな穴に飛び込んでいく。
そのまま闇の中を進んでいった。
穴の中には地衣類がまばらに生えており、その地衣類を餌とする昆虫もそれなりにいる。縞ねずみには十分な餌だ。
闇の中を縞ねずみは進む。そしてジャンニは一度同調を解いてしまえば再び同調することができない。そのためずっと視界をつなぎっぱなしで丸二日間ずっとそうしていた。
二日目の昼にようやくジャンニは目を開いた。
「気持ち悪い」
「はい、水」
ベレッタがジャンニに水差しから水を汲んで渡す。すっかりぬるくなった水を一気に飲み干した。
「体はバキバキいうし、もう何度あきらめようと思ったか」
ジャンニはそう言ってため息をついた。
「で、どうだったんですか」
ベレッタの問いにジャンニはそれはそれは深いため息をついた。
「山の中腹にねずみしか通れそうにない小さな穴が向こう側まで貫通していたんだ。その穴を通ればねずみに限っては安全に山越えができるようだ」
「わかってみれば単純な話ですね」
「まあな。しかしねずみの足だからずいぶんと時間がかかったよ、まあ、あの穴に逃げ込めるから前足を失ったねずみも何とか生きていけたんだろうな」
ずっと魔法を使い続けだったジャンニはそのまま藁布団に身体を倒した。
「もう寝る」
ジャンニが不眠不休で魔法を使い続けていたのはわかっていたのでベレッタは驚かなかった。
「それじゃ、私はあんたが起きるまで一杯やっていますね」
「それ、経理に言いつけるからな……」
そこまで言ってジャンニは力尽きた。




