一匹か二匹か
ジャンニはとりあえずということで村を散策していた。
ベレッタは置いてきた。先日のハムとこの村の地酒であるワインをがぶ飲みしていたので早朝きっちり二日酔いになっていた。
絶対酒とハムの代金はあいつの給料から天引きするよう、上に伝えておこうと決心する。
文献を読み直してみるとその生き物を見つけたのは村の片隅だという。肝心の生き物の外見や大きさなどを記した部分は虫食いで読めなくなっている。書庫の管理人の皆さんに文献を食い荒らす虫の撲滅を期待したい。
とにかくそういうわけで村を散策していたがあちらの村とさして変わるものはない。
あちらは石材とこちらは岩塩ちょっと商うものが違うくらいでそう変わるわけがない。
そして生物相も変わる者じゃない。あちらでも見かけた縞ねずみが足元を駆けてきた。
不意に足が止まる。
その縞ねずみは右前足が欠けていた。
しばらくジャンニはそのねずみを見つめていた。
四肢欠損のねずみはそういるものではない。あちらの村とこちらの村に一匹ずついる可能性は低い。
しかし、村と村を隔てる山は極めて険しい。
そのうえ肉食獣も生息している。ハンディキャップを背負ったねずみが生きて越えられるわけがない。
ジャンニはとっさにそのねずみを捕まえた。
「空間転移?」
いるはずのないねずみがここにいる。
ねずみを片手に宿に戻れば二日酔いの頭痛からうずくまっているベレッタがいた。
「なんですかそのねずみ」
こめかみをも見ながら嫌そうにジャンニがつかんでいるねずみを見た。
「宿の入口でよく止められませんでしたね」
「ちゃんとハンカチでくるんだよ」
「そのハンカチ、捨ててください」
嫌そうに眉をしかめた。
「ちょっと持ってろ、今檻を用意する」
ねずみを無理やりベレッタに預けて荷物から組み立て式の檻を手早く組み上げた。
檻にねずみを入れて蓋をした。
「手、洗いに行かせてください」
ベレッタがそのまま走り去った、手を洗いに全速力で水場に向かったようだ。
「で、それが空間転移する生き物だというんですか」
「その可能性がある」
そう言ってジャンニは自分の仮説を事細かに話す。
「あのね、いくら可能性が低くてもこの場合、前足のないねずみが二匹いたってのが一番可能性が高いと思いますよ、たとえどんなに難しくても一匹いたんならもう一匹もいたっておかしくない」
「だから、それをこれから確かめるんだ」
そう言ってジャンニは自分の右目をなぞる。
右目を撫でた指先が微かに光った。その光をねずみの左目にあてた。
「視界を同調させた。これをこのまま放す」
ジャンニの特技がこれだった。自分の感覚をほかの生き物に同調させ。その生き物が見聞きしたものをジャンニも見聞きすることができる。
「これで、確認する」




