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ジャンニとベレッタは早朝に適当な弁当を宿に頼んで隣村まで向かうことにした。
ふとジャンニの足元に縞ねずみがたむろしていた。本来なら黙殺するがその縞ねずみが明らかに普通ではなかった。
前の右足がない。
おそらく獣にでも食いちぎられたのだろう。しかし飼われているわけでもない動物が四肢欠損という重傷を乗り越えて生き延びるのは極めて珍しい。
見れば明らかに傷はふさがっている。前足を食いちぎられてそれでもそこそこの時間生き延びてきたのだろう。
しばらく縞ねずみを眺めていたがじれたベレッタに腕をつかまれそのまま引きずられ
て行く。
「わかった。悪かった」
ちょっと様子のおかしい動物を見るとつい視線が行ってしまう職業病だった。
二人はそのまま隣村まで本当に一山超えることになった。
山頂部には大分樹木はまばらだ。生息域ギリギリなのだろう。元々山のあったあたりは結構な高山地帯だ。
日が暮れてからは疲れた足に鞭打って急いで歩いた。村に入る前に完全に日が暮れてしまうと命にかかわる事態になりそうだったからだ。
樹木に肉食獣の爪痕が残っているのを見つけたら余計に。
爪痕の位置からそこまで大きいものではないにしろ、人間はそれほど強い生き物ではない。腰ほどの肉食獣でも重傷を負うことは可能だ。
ジャンニ今晩は宿をとってすぐに休む。そして翌朝から活動を始める予定だった。
宿で一泊の料金を支払ってから食堂に向かうとすでにベレッタがテーブルについていた。
鬼気迫る顔でベレッタが食べ物を口に詰め込んでいた。
「何やっているんだお前」
ベレッタの前にはパンとスープと付け合わせに薄茶色のハムが薄く切られて並べられていた。
「このハム。塩があの高級塩グランドを使ってます」
かみしめるようにそう言ったベレッタの目には涙が浮かんでいた。
「そりゃそうだろ、この辺りが岩塩のグランドの生産地だぞ」
「うれしい、全然期待していなかったのにまさかグランドのハムなんてものを」
「行っとくが、お前全然気が付かなかったのか。近隣の村もここから塩を買っているんだぞ」
「え?」
昨日止まった宿もやっぱりグランドの塩を使っていたということだ。
「やはりグランドの塩は肉と合わせてこそですね」
昨日のスープに入っているのに気が付かなかったのは単に野菜スープだからだと言い張っている。
「まあ、だいぶ薄味だったけどな」
岩塩もこの辺りで使って余った分を売っているらしい。
「このハム。塩は最低限、それを山のてっぺんの冷たい風にさらして水分を取ってという実に手の込んだ作り方をしているそうなんです」
目がキラキラしている。
「通常の食費以外は自腹だからな」
ジャンニは手早く自分の分を食べ終えた。スープと雑穀パンとハム、ハムは一人分がほんのひとかけらだ。明らかに追加注文している。
ベレッタの食い意地に呆れて休むための部屋に向かった。
この部屋は寝台がなかった。藁布団が床に直置きされていた。




