逃亡します
ジャンニはまず一番強そうな熊を狙った。
魔法を打ち込めば岩がちょっとだけ欠けることがある。
たぶん、熊にも通じるはず。掌に集めた魔法を撃ち出す。
淡い光が集約し熊の肩が吹っ飛んだ。
ぶらりと皮一枚でつながった前足を気にした様子もない。
「あれ、もしかして最初から生きていないんじゃないか」
血が滴る。その流れ方を見ながらジャンニが呟いた。
「そうですか」
「あれだけ大きな傷だと鼓動に合わせて血が噴き出すはずだ。心臓が動いていない」
「じゃあ、これも死んでますか?」
そう言ってベレッタは鹿の方にその剣を向けた。
ジャンニにはその動きを目で追うこともできなかった。一歩踏み出したように見えたがその先にすでにベレッタは動いていた。
鹿の頭がゆっくりとずれて落ちていくのが見えた。
血が滴る。首を切り落とせば頸動脈から大量出血するはずだが、血はゆっくりと流れ落ちるだけだった。
「やっぱり死んでいるな」
血から、微かな腐臭を感じた。
斬れた首から白い骨がのぞいていた。
その首から這い出して来るものがあった。ずるずると骨の髄に当たる部分からまるで滴るようなものが。
それは薄暗い中でも淡い燐光を放っているようだった。
「あれ、何です?」
ベレッタが思わず尋ねた。
「知らん」
ジャンニも初めて見る現象に顎が外れそうになっている。
「あんた、それでも専門家ですか?」
「だが、知らんもんは知らんからしょうがないだろう。もしかしたら今まで確認されていなかった新種を発見したかもしれない」
ジャンニは鹿の首から這い出し地面をうねうねしている何かをしばらく見つめていた。
そして懐から水晶を取り出す。それを使った何度か標本を作るのをベレッタは見ていた。
ジャンニはそれを使ってそのうねうねした何かを取り込む。
「よく見た吸盤みたいな足があるな」
そう言って水晶に閉じ込めたそれを観察していた。
鳥肌を立てながらベレッタは熊に向き直る。
「本当の熊より、ちょっと動きが遅いですね」
そう言いながら熊の首を切り落とした。
同じように何やら白いものが這い出して来る。
そして兎と狐も同じ処置をした。
「なんで二匹で行動してたんでしょうね」
ベレッタは四体の死骸を見下しながらそう言った。
「もしかしたら番なのかもしれない」
「番ですか」
番な何をするかというと子作りだ。そして向かってきたのは。
「熊にとりつくなら、人間にもつくことできそうですね」
「たぶんな」
二人の肌は鳥肌に浸食された。
「緊急で迎えに来てもらう」
空間転移魔法の使える魔法使いに救助要請を出した。ほどなく魔法使いが来たため事情を話し、一刻も早くここを離れたいと依頼した。
頼まれた魔法使いは半信半疑ながら、死んだ動物の遺骸を確認して、二人と荷物を転移させた。




