遠くに行きたい
「ベレッタ、食べていいぞ」
自らの上司にの前でベレッタがもってきた食べ物を開くとベレッタの口元に持っていった。
「あの、それ私のお土産じゃ」
ほぼ真っ白になった髪をたらし、すでに初老という年になった男が食べ物を前に真っ青になっている。
たっぷりとバターを使った焼き菓子のいい匂いがした。中には乾燥果物がたっぷりと詰められている。
「部下を殺しかけておいてよくそんなことが言えますね」
ジャンニが冷たくそう言った。
ベレッタはそのままそれにかじりついた。
「ベレッタ君、まさかそんな裏切りを」
いい年をした黙っていれば落ち着いた紳士に見える上司は悲痛な叫び声をあげた。
しばらく咀嚼していたがベレッタもにっこりと笑う。
「よく考えたら私も殺されかけてましたし」
そして再び大口を開けてそれにかじりついた。
「なんで、それを持ってきたんだ」
「だって、目の前で無くなったほうがショックなんじゃないかなと思ったんですよ」
にんまりとジャンニが笑う。
「さすが、陰険さでは誰にも負けませんね」
ベレッタが拍手する。
「誰が陰険だ、俺は正当な報復をしただけだ」
ジャンニはそう言って上司をねめつけた。
「で、言い訳があるなら利いて差し上げますが」
ジャンニの言葉に上司は唇をかみしめた。
「だって、しょうがないじゃないか私にも義理ってもんがあるんだし、断りにくいところから頼まれたんだし」
「だからって人の命を差し出さないでください」
「そうですよ、そういう時は自分で命を張ってください」
二人が仮で攻められて相手は涙目だ。
「だからいざという時にはすぐに救助に向かう約束だったんだよ」
「証拠をつかむためかもしれませんが。本当にぎりぎりだったんですよ、危なくなって救難信号出しても無視されましたし」
ジャンニが畳みかける。
「で、何が望みだ?」
ジャンニは小さくため息をついた。
休暇をと望んでもそれは許されないだろう。たとえこちらの命を危険にさらしたとしてもそれを許すような慈悲などこの男にはない。
というか今涙目だが、本当に悪いと絶対思ってないだろう。
「できれば、人のいないところに行きたいです」
ジャンニは最低限の望みを語った。
「人のいないところというと」
「そうですね、山のてっぺんとかいいですよね、今人間とトラブルを起こすのにうんざりしているんです」
「なんだか、悲しいね、君」
いらないことを言った上司の首を絞めたい衝動をやっとのことでこらえた。




