仕事放棄
三人はすっかり疲れ果てて、宿に戻った。
宿の外には軍隊が街を占拠していた。宿の主人は何やらおどおどしている。
「この場合、俺、報告書を書く必要ないよな」
ジャンニが切れ気味にそう言った。
「まあ、私らほとんど調査らしいことしていませんよねえ」
ベレッタがそう言って何か食べていた。
「お前、この期に及んで」
「食べますか、魔導部隊の方が買ってくれたものですけど」
ジャンニは真顔になる。
「そんなもんいらん」
けたたましい悲鳴が聞こえた。何事かと窓の外を見たら、やたら立派な服装をした中年男性が縄をかけられて連行されていく。
「あの辺が主犯ですかね」
窓からその様子をしばらく眺めていた。
「この辺り一帯の権力者が犯人だそうだから、しばらくこの街の人大変だね」
デニスはそう言ってため息をつく。
「本当にな」
そう言えばデニスは先ほどから普通の態度だ。
そしてベレッタに目を向けようとしない。これはいったいどういうことだろう。
ベレッタは何も気づいていなかったようで。無言でお菓子をむさぼっていた。
「結局透明な魚って何だったんですか?」
ベレッタが呟く。
「結局は」
憤懣やるかたない顔でジャンニは呻く。
「透明な魚というのは水晶の隠語だったんだろうな」
ワキワキとその手が動く。誰かの首を絞めているような動きだった。
「ここでは水晶の外国への密輸が領地ぐるみで行われていたんだろう。透明な魚という文献の年代は大体百年ぐらい前だからそれくらい前から」
「結構長丁場だなあ」
デニスがしみじみしながらそう言った。
「で、どういういきさつか知らないがそれがどこかしらでばれたんだろうな」
「それはまた、まあ、どういういきさつでばれたかは、密輸なんかやってたらどうしたって金回り関連がいろいろと食い違うとかありそうだが」
「まあ、そんなところでばれたんだろうな、総生産より金回りがいいとか」
国内で売るより外国に売ったほうが利益が出る。そう思っても普通はやらない。領地ぐるみで隠ぺい工作ができるなら勝算があると思ったのかもしれない。
「まあ、結局は油断ですかね、長くやっていると感覚がマヒしてくるでしょうし」
お菓子を飲み込んでからベレッタがまとめる。
「とりあえず、戻ったら人を囮にしてくれた上司の首を絞める」
ジャンニは座った目でそう言った。
「状況からして、絶対わかってて言ったんだ。俺に探して来いと言った透明な魚が水晶の隠語だって」
ジャンニは続ける。
「そして俺たちは調査開始、透明な魚というキーワードを誰かが口にすれば」
「そういえば、どうして俺が巻き添えを食ったんだ?」
最初に狙われたのはデニスだった。
「俺たちと行動を共にしてたからじゃないか?あと、お前が通ってた家の主がもしかしたらかかわりがあるかも」
「今となっては確かめようがないな」
「あの、さ、妙にあっさりしてないか」
先ほどから疑問に思っていることをつい聞いてみた。
「ベレッタはどうした」
「俺、無理なんだ。俺より強い女って」
ベレッタが乱闘になってこの街の衛兵を叩きのめした時、デニスの恋は終わっていたようだ。
「お前より弱いって」
厳ついのは顔だけでたまに百科事典を持つことがある以外の労働をすることがほとんどないデニスよりか弱い女性。
明らかに少数派だろう。
「まあいいか」
自分の周りにいる性別が女性なのはベレッタだけだ。その事実に落ち込みそうになるが厄介ごとは終わったのだ。




