透明な魚
すぐに大粒の雨が降ってきた。
「雨が船の中にたまったりしないのか?」
デニスがそう言うがそういう時のために船には排水設備というものが付いている。
「大丈夫だろう」
外ではおそらく漁師兄弟が何やら頑張っているようだ。素人がいたら迷惑だろうとそのまま建物の中にいた。
「海の上って、天気変わりやすいって聞いたことありましたね」
「前に船旅をした時か?」
そう訊き返す。
そしてふとデニスを見るとあまり感情的になっている様子がない。
「どうかしたのか?」
デニスは無言で首を振る。
さすがにこの非常時なら色ボケている余裕もないのかもしれない。
そう納得してジャンニはそっと建物の扉から外の様子をうかがう。
先ほどの島が徐々に近づいてくるのを見た。
「あれ、どうして」
その島は先ほど近づいてはならないと言われていなかったか?
そういう疑問が顔に出ていたらしい。
振り返った漁師はジャンニにそう話しかけた。
「普段は近づくことを許されていませんが。領主様がそちらの方々を連れて来いというお達しなのでね」
ジャンニの唇は引きつった。まさかのこの辺りの一番のお偉方が絡んでいた。
これは衛兵が来た時点で考えておくべきことだったと後悔した。
「あの、どうして領主様が?」
ベレッタも困惑顔だ。この辺りで珍しい魚の生態を調べに来ただけだ。それが領主と何の関係があるのかとこちらも思考が追い付いていない。
「俺は別に領主なんて人に睨まれるようなことはしていないぞ」
デニスがそう騒いだが向こうは全く気にした様子がない。
「多分、とんでもない誤解が生じている気がするんだが」
ジャンニのその呟きは黙殺され島にそのままたどり着いてしまった。
島は無人島だと思われたが。縞の表面に横穴が掘られそこから雨風がしのげそうな空間が造られていた。
横穴からは暖かい空気が流れてきている。
「何らかの熱源があるんだが。温泉が湧いている程度のことであってほしいな」
そんなことはあるはずもなかった。
漂ってくるその匂いは。
「スープを煮ているんですか?」
ベレッタが鼻をひくつかせながら言う。その匂いはけっこうな量のスープを煮こんでいると思われた。
横穴を掘り広げた場所に厨房があり数人が忙しそうに働いていた。
そのさらに向こうにあったものは何やら結晶が露出した岩肌だった。
「もしかして、水晶鉱脈?」
ジャンニは仕事に来る前にその地方の様子を調べておく。産業や気候地形などだ。そのどれにも水晶鉱脈があるなんて話は聞いていない。
「まさか、隠蔽鉱脈?」
水晶は魔導具の材料として大変重宝されている。そのため水晶鉱脈が見つかれば国に報告しなければならないはずだ。それをしていないということは違法鉱脈ということになる。
「そうですな、最後に見せて差し上げます。ここがあなたの探していた透明な魚ですよ」
そう老齢の男が言った。
この男が領主なのかその腹心なのかは知らないがどうやらここで三人を始末する気なのだろう。
どうやら透明な魚とは実際の魚ではなく違法採掘された水晶のことなのだろう。領地ぐるみの違法鉱山。というか島。
三人の顔が真っ白になった。




