逃亡
「強盗に遭いかけた?」
デニスの顔に治癒魔法をかけながらジャンニが呟く。
「この辺り、治安が悪いんでしょうか」
ベレッタは軽く腕組みをして考えこむ。
「でも、そんな話は聞いていないんですよねえ」
ベレッタは衛兵だ。出先の治安についてあらかじめ調べていた。ただ、行き先が治安以前の辺境の僻地が多いためあまり役に立っていなかったが。
「しかし、もしそういう連中に目をつけられたなら危ないなベレッタ。お前送り迎えしてくれるか?」
「おい、お前、ベレッタさんに送り迎えなんて」
デニスが慌てたがジャンニが続けた。
「大丈夫だ、ベレッタは衛兵隊に所属している。普通の強盗なら何とか対処できるはずだ」
「え?」
デニスはまじまじとベレッタを見た。
「まあ、その前にこっちの衛兵隊に連絡するべきだと思いますが、今逃げてきたばかりなんですよね、だったらこれからでも衛兵隊に連絡するべきだと」
ベレッタがそう言ってデニスの手を引いた。
「じゃあ、行きましょうか、護衛である私のいないときに外に出ないでくださいね」
ジャンニにそう言うとそのまま外に出ようとした。
玄関前に妙に人相の悪い男たちが待ち構えていた。
「もしかしてつけられてました?」
背後を振り返りベレッタがそう訊く。
「わからない、もう無我夢中だったし」
デニスの顔色は土気色になっていた。ジャンニがそろそろと歩いてきた。
「三人で行くか、俺も魔法で何とか切り抜けられないか」
「つうか、あんた魔法何が使えました?」
ベレッタが胡乱な顔をして尋ねた。
「目くらましぐらいはできるぞ」
強い光で目つぶしぐらいはできる。そう言われて二人は頷いた。
三人で玄関を出てジャンニの合図で目を閉じた。
ジャンニは両手を打ち合わせた瞬間太陽が至近距離ではじけたような光があふれた。
数秒経って光が消えたころを見計らって衛兵隊の詰め所に三人で走った。
背後で目を押さえた男たちがうずくまって呻いている。
三人がしばらく走っていたら、衛兵隊の詰め所は街の真ん中にある。
「でも、何でここまで付きまとわれているんですか?ちょっとしつこすぎませんか?」
ベレッタが怪訝そうに呟いた。
「わ、わかりませ、ん」
デニスはすでに息も絶え絶えだ。
ジャンニとベレッタは息も切らしていない。ふらついているデニスをジャンニとベレッタがそれぞれの腕をつかんで引っ張って走り出した。
デニスはなすすべもなく引きずられていく。
ようやく詰め所が見えてきたところで衛兵がこちらに気づいたのかこちらに寄ってきた。
「あの、実はこの人が強盗に襲われそうに」
不規則な呼吸でまともに話せないデニスに代わってベレッタがそう説明した。
「その男は家から貴重品を持ち出したという訴えが出ています」
ベレッタがの目を見開いた。
「ええと、その、仕事ですよね」
ジャンニがそう聞いた。
デニスも大きくうなずいた。
確か、稀覯本を受けとる約束をしているはずだ。
「共犯者の疑いがある」
そう言ってジャンニとベレッタの手を掴んだ。
「あの、どういうこと?」
ジャンニとベレッタも動転した状態でそのまま衛兵に連れ去られた。




