厄介ごとがやってきた
船を出す漁師といろいろと打合せをしてからジャンニはまた宿に戻った。
漁師の話では透明な魚など見たことがないという。
目撃談はあるのに網にも釣り針にも引っかからない魚。
「どうしたんですか?」
買ってきたお菓子をもぐもぐしながらベレッタが聞いた。
「いや、やっぱり魚じゃないのかもしれないな」
ジャンニがぽつりと呟いた。
「魚じゃないならなんなんですか?」
「もしかしたら細長い水母かもしれない。だとすれば釣り針にかからない理由になるし。身体がもろいから網に触れたらそのまま切れてしまうのかもしれない」
「ああ、なるほど、で、水母って美味しいんですか?」
ベレッタの発言にジャンニが無表情になる。
「土地によっては食べることもある、ただものすごく水分が多いので天日干しにしたり塩に漬けたりして水を抜かないと食べでがないらしい」
「時間がかかる?」
ジャンニが自分の胴体ほどの幅に手を広げる。
「これくらいの大きさの水母が水分を抜くとこれくらいになる」
そう言って握り拳を作った。
「そんなに減っちゃうんですか?」
そんな平和な時間は唐突に終わった。
ぼろぼろになったデニスがいきなり飛び込んできたのだ。
「どうしたんだ?」
明らかに殴られた後のあるデニスにさすがにただならぬものを感じてジャンニが手を伸ばす。
ジャンニは一応治癒魔法を心得ていた。
デニスはちょっと落ち込んでいた。探していた稀覯本は全く見つからない。そしてある程度価値のある本は遺族のために取り分けておいてやり、鑑定書も書いてやった。
そのことにはまあ感謝してもらい。また明日も埃だらけの本と格闘する。
顔だけは洗わせてもらったが。また浴場に行かなければと歩いているといきなり取り囲まれた。
その顔に見覚えはない。
デニスは顔だけは少々いかついが体格はかなり貧弱だ。その貧弱な体格をごまかすためあえてゆったりとした服を着ている。
腹立たしいことに明らかにあのジャンニのほうが筋肉質な体格をしている。
「なんだよお前ら」
自分の弱さをごまかすためにあえて威圧的な物言いをする癖がついていた。顔が多少厳ついのでこれではったりが利く場合もたまにある。
残念ながら今回は利かなかったが。
いきなり殴り倒されてそのまま無様に地面を転がった。
口の中を切ったのか苦い味がした。
デニスはとっさに懐に入れていた護身用の武器を手に取った。
高価かもしれない書物を運ぶため常に懐に携帯しているよう義務付けられているそれをとっさに使ったのだ。
デニスは地面に伏せて空気を吸わないようにした。
軽く握って放せば麻酔剤を含む空気を発する魔道具。それが完全に風に散ったのを確認して立ち上がる。
そしてデニスは慌てて宿に戻った。




