出張はどこも大変
とりあえず宿に戻り明日からの調査に入ることになった。
二人はこの地域の名物茶を淹れて飲んでいた。
木の実を蜂蜜で固めたお菓子がお茶うけとして用意していた。ベレッタが。
「お前、手早いな」
目ざとく商店を見繕って買い求めたという。
「これ、経費に含めるつもりじゃないだろうな」
「これくらいならいいでしょう」
ベレッタはけろっとした顔でお茶菓子をかじっていた。
「それにこのお金はもう前払いでもらっていますし」
「前払い?」
「そちらの上司のほら、いつも机にかじりついているおじさん、ふわふわの髭が生えていて」
「ハワード上官か?」
そのふわふわの髭という単語に思い当たる人間がいた。
「ええ、こちらに行くならぜひ買ってきてくれって」
それを聞いてジャンニは思わず頭を抱えた。
「何考えているんだあの人は」
かの上司も十年ほど前は探索者として国中を回っていた。そのため地方の名産品にはそれなりに詳しい。
「私の分も買っていいって言ってくれて、運送料金や旅費を考えればただのようなものだって言ってましたよ」
ジャンニは軽く頭痛を覚えた。上司の公私混同な行動をどう考えればいいのかとしばらく頭を悩ませていた。
「仲がいいですねえ」
じっとりとした顔でいつの間にかデニスがやってきていた。
「あれ、自分の宿は?」
「ああ、ここに泊まっていますよ」
デニスの言葉に一気に血の気が引いた。確かにここは上から推薦された宿だ。もしかして出張する公務員御用達の宿なんだろうか。
「ええ、私も上からのお達しでこの宿にしたんですよ、貴方と違ってあまり出張など行ったこともないので別の宿を探すのも難しそうですしね」
これは自分が宿を変えるべきだろうか。
「そちらのお仕事はどうでしたか」
何を考えているか極力顔に出さないようにしながら尋ねた。
「どうしたも何も、まあ、地方の収集家というものはまあ何年もかけてコツコツと集めてきたという資料はいわゆる玉石混合ってやつだ。本人には宝でも他の人間にはというか普遍的な価値のあるものを見つけるのは極めて困難とだけ言っておこうか」
二部屋書物で埋まっていたそうだ。その中から図書館が求める稀覯本を見つけるにはあとどれだけかかるか、あるいは本当にその稀覯本は存在するのかという問題もある。
デニスは深いため息をついた。
「さっき風呂に入ってきましたよ、そうでないととても宿には入れない」
奥にしまわれた本はおそらく数年は引っ張り出されていなかったのだろう。そのためものすごい埃に埋まっていたらしい。
「それはまた」
楽な仕事なんかないんだなあとジャンニはしみじみと思った。




