ご近所トラブル
街のはずれの小さな庭付きの家にジャンニは住んでいた。そこにはジャンニと同じようにその家に下宿する男たちが住んでいた。
ジャンニは王城に勤めているが毎日出勤するわけではなくそれにかなりの頻度で地方に出張するため家にいない時間のほうが長い。
そんなわけでそこの住人が信頼できる人間ならいてくれるだけでありがたいのだ。
一つの家に一人で暮らしていればどうしたって防犯という問題に突き当たる。隣人がいてくれるだけでその不安が半分くらいは払しょくされるのだ。
そのありがたい隣人が何故か真剣な顔をしてジャンニに向き合っていた。
「あの、今何を言った」
ジャンニはできれば聞き間違いであってくれと思いつつそう言った。
「以前訪ねてきた女性との関係を聞いている」
訪ねてきた女性。それが誰であるかは明白なのだが。そんな心当たりはベレッタしかいない。
「関係といっても同僚としか言いようがないが」
部署は違うが同じ王宮勤めなので嘘ではない。
「本当だな、本当に仕事上での付き合いしかないな」
「ないな」
はっきりとそう言ったが何故か疑いの目を向けてくる。
「あの後、何故二人で食事に行ったんだ?」
猜疑心丸出しの視線を向けてきた。しかしそのいきさつを説明するのはあまりにばかばかしかった。
単に賭けに負けただけだとそれも絶対あり得ない賭けに。
なんといっていいか。
「まあ、たまたまだ」
苦し紛れにそう言ったがあくまでこちらを追い詰めるつもりのようだ。
「そういえば、お前、頻繁に家を空けるな」
それはそうなので否定できない。
「地方出張が多い職場なんだよ」
むしろそれが仕事内容のすべてといってもいい。
「それで、お前が仕事に行っている間、彼女は当然こっちにいるんだな」
「いや、一緒に行くけど」
「なんで」
「パートナーだからな」
その言葉に青筋を立ててジャンニの首を絞めようとする男。
「仕事上のことだ。一緒に行くのも仕事」
しかし相手は信じていない。
「そんなに一緒に行動していてどうしてだ」
「どうしてだろうねえ」
まあいろいろと色っぽい方向に行きたくなくなるんだよ、主として人間性において。
ベレッタが聞いたらその場で切り捨てられそうなことを心中で呟いた。しかしその本音をここでぶちまけたらベレッタの前にこの男に殴り倒されそうな気がする。
「おーい」
この家で共に暮らしているのは四人。その一人が見かねて声をかけてきた。
その一人は常に家にいる。家に大量の書物を詰め込んでいる相手だ。ジャンニは寝台の周りは一応死守しているが彼はすでにベッドの上まで浸食されているという。
「また始まったか」
彼はしんみりとした顔でそう呟く。
「いったい何なの、あれ」
いらだちマックスの隣人を指さしてジャンニは尋ねた。
「たまにだけどね。彼は学問に身を捧げた人なんであるけれど、王都の一番大きな図書館の司書だよ」
初耳で、その事実に反省した。長期出張ばかりしているとしても隣人にあまりに無関心すぎたのではないだろうか。
「俺は、調査専門の仕事を王宮でしています」
本来なら引っ越してきた時点でしておかなければならない挨拶をいまさらしていた。
「私は古代文字の研究者だ、職場でも書類にまみれている」
「お世話になっております」
古代文献に出てくる動物の調査もたまにやってくるのでジャンニにとっては仕事を回してくる相手といっても過言ではない。
「お前ら何二人で話しているんだ、俺を無視するな」
二人が話し込み始めたのでいら立って怒鳴りだす。
「まあ、仕事に疲れると急に婚活したくなるみたいなんだ、たまたま君の女性の知り合いを見かけてまあ」
「ああ」
ジャンニも他人ごとではない。一年のうち半分以上旅の空で婚活など夢のまた夢だ。




