報告書
夜風が気持ちいい。仕事はサクサク終わってあとは報告書を書くだけだった。
ジャンニは宿のテーブルに報告書の用紙を広げて書いていた。
「結局、どうして森だけあれが現れたんですか?」
この辺りでは珍しくないという蝶だという。街中にも表れてもおかしくない。
「ああ、あの蝶な。元々果物の葉を食い荒らす種類なんだよ。だからあの蝶が寄ってこないように畑のあたりに蝶の嫌う臭いを出す草を大量に生やしてあるんだよ」
「ああ、それで」
そのため森の中の野生の果物の葉にたかっていたのだろう。それに街中に現れても駆除対象だ。見つけ次第潰される。
「それで、森の上空にだけ現れるわけなんですかね」
「ああ」
そして、ジャンニの前にはあの虹色の蝶の標本があった。
「それにしても偉く色が違いますね」
きらきらと輝く蝶と、くすんだ緑色の蝶。確かにかなり違う。
「雄は雌と出会ってすぐに死んでしまうんだ。だからいくらでも派手でもいい。というか派手で目立つようになっているんだろうな、そして雌は卵を産むまでしばらく生きていなけりゃならないから目立たない色になったんだろう」
「本当に違いますね」
「いや、むしろ雄と雌が全く同じ姿をしている動物のほうが珍しいぞ」
「そうですか」
「俺たち人間だって、一目で男か女かわかるだろう」
「たまにわかりにくい人もいますけどね」
夜の店とかそういう場所にたまに生息している。ジャンニはあまり行ったことはない。まったくないとは言わないが仕事が忙しくて行けない。
ベレッタは宿の外の屋台で買ってきた何やら粉を練ったものを食べている。
噛み破った生地の隙間から肉と野菜を混ぜた物が入っているようだ。
テーブルの上にジャンニが食べる予定のものも積んであるが報告書を書き終えるまで残っているだろうか。
ベレッタは無造作にテーブルに置いてあるものを口に入れる。
「美味いか?」
「美味しいですよ」
そう言ってまた一つベレッタが手に取った。
「早く書き終えてくださいね」
もぐもぐと咀嚼しながらそう言った。ジャンニはペンを動かす手を速めた。
蝶の生態に関する物事を急いで書き記す。さすがに夕飯抜きは困る。
後日。ジャンニの同僚たちがあるレポートを提出した。
国の西方向に生息している褐色の竜は西方に生息する竜と同種と思われていたがこの度新種と判明したと。
褐色の竜は他の竜と産卵場所などが少々違うのだという。そのあたりを根拠として他の竜とは別種と判断した。
そのレポートの写しを手にベレッタが満面の笑顔でジャンニの部屋にやってきた。
寝室以外は資料と標本に埋め尽くされたジャンニの部屋でレポートと先日の約束について滾々と説得された。
そして空になった財布とともに街角でうなだれるジャンニの姿があったという。




