別行動
南国の森は成長が早い。ただその緑の葉が陽光を吸収してくれるので案外涼しい。
とはいえ湿気がものすごい。ジャンニは首に下げた水筒から水を一口だけ飲んだ。
「ひいっ、虫があぁ」
ベレッタが情けない悲鳴を上げる。
「森の中なんだ、虫がいないわけないだろう」
「だって見てくださいよ、あれ」
葉っぱ一杯に細かい芋虫が大量にべったりと張り付いて蠢いている。
「よくあることだ」
うぞぞうぞぞと蠢く芋虫の大群から必死で目をそらしていた。
「本当に何で探索者の護衛なんて志願したんだ」
虫が嫌いでは務まらない仕事だ。
「いろんなところに行っていろんなものを食べまくるためです」
本当にぶれない。いっそ尊敬したく、ならないな。傾いた心をジャンニは冷静に正す。
実際早急になれてもらわなければ困る。南国の森は虫の楽園だ。葉っぱには芋虫。足元には何やら足がいっぱいある細長い生き物がざわざわと横切っていった。
あの形状のものは毒があるものとないものがある。あれはどっちかな。そんなことを考えながらジャンニはしばらくそれを観察している。
毒のあるものは肉食でないものは草食というか落ち葉や枯草なんかを食べている。
動きがのそのそしているのでおそらく後者。前者なら狩人なのでもっと動きが速い。そう判断をつけるとそのまま進みだした。
そして背後を振り返る。
「ベレッタ、お前はここで待っていろ。俺一人で進む」
そう言ってジャンニは歩きだした。
迷子にならないように適当な木に魔法で目印をつけていく。
目印は時間がたつほどに薄くなり丸一日経つと消えてしまう。
だからこそそれを選んだ。それほど長時間進むつもりはない。それに万が一迷子になった場合魔法の薄まり方でどのあたりでつけたものか見当がつけやすかったからだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「隠蔽魔法は一人のほうが使いやすい。それとお前にはこれを渡しておく」
そう言ってベレッタに六角形の水晶の塊をはめ込んだ手鏡ほどの大きさのものを渡した。
「記録用だ。何かあったらそれをかざせば画像が残る。それとこれは隠蔽魔法を刻んだネックレスだ。これをかけておけ」
ベレッタはそれを受け取ると何とも言い難い顔をした。
「大丈夫、ですよね」
「もちろんだ。それと俺が帰ってきたらネックレスは外せ、身に着けることでそれは効力を発揮する」
「わかりました」
いつになく神妙だ。ジャンニは小さく笑う。
「それじゃ行ってくる」
そう言って軽く右手を挙げてから歩き始めた。
その姿が見えなくなるのを確認してベレッタはネックレスをかけた。
姿が隠蔽されたのか自分ではわからない。それでも大きくため息をついた。ただあてどなく待ち続けるのもなかなか気苦労だが。




