表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不倫された上に「コストカット」と自社からリストラされたおっさんエンジニア、中1に戻って未来の知識で大富豪になる  作者: 猫又ノ猫助
第3章大学編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/66

第四十六話:最上層への招待状

 三月の下旬。無事に国立大学への入学手続きをすべて終えた俺と白雪さんは、春休みという短い空白の期間を迎えていた。


 そんなある日の夜、俺と白雪さん、そして『RS-HS』の共同開発者である源さんの三人は、都内の一等地にそびえ立つ、一般の人間では立ち入ることすら許されない最高級ホテルの巨大なスイートルームにいた。


 窓の外には、二〇〇〇年代の幕開けを迎えた東京の、息を呑むほどに美しい夜景が地平線の果てまで広がっている。きらめく無数の光の粒は、すべてネットワークという目に見えない糸で繋がっており、その中心に今、俺たちが立っているのだという現実を無言で突きつけてくるようだった。


「……うわぁ、すごい。佐藤くん、東京の街が、まるで光の海みたいだね」


 部屋に備え付けられた全面ガラス張りの窓に歩み寄り、白雪さんが感嘆の声を漏らした。


 今日の彼女は、普段のセーラー服姿とは一線を画する、上品なミッドナイトブルーのイブニングドレスを身に纏っていた。レースが施されたパフスリーブから伸びる白く細い腕、綺麗に整えられてアップにされた黒髪、そして興奮で少しだけ上気したサクラ色の頬。


 高校生という枠組みを飛び越え、一人の美しい女性としてのオーラを放つ彼女の姿に、俺の胸の奥が熱くなる。


「ああ、綺麗だね。でも、僕にとっては窓の外の景色より、そのドレス姿の白雪さんの方がずっと綺麗だと思うよ」


「ふぇ!?  あ、ありがとう……。佐藤くんにそう言ってもらえるように、お母さんと一緒に一生懸命選んだから……その、すごく嬉しいな……」


 白雪さんはさらに顔を真っ赤にして、照れくさそうにドレスの裾をきゅっと握りしめた。その無防備で健気な仕草は、どんなに外見が大人びても、俺の知っている大好きな彼女のままで、俺は自分のなかに暖かい気持ちが満たされていくのを感じていた。


「おいおい、蓮。大旦那が来る前からそんなに甘い空気を出してたら、俺のシャンメリーが砂糖水になっちまうぜ?」


 ソファに深く腰掛け、最高級のクリスタルグラスに注がれた炭酸飲料を喉に流し込みながら、源さんが呆れたように笑った。いつものヨレヨレのTシャツではなく、仕立てのいいスリーピースのスーツを着こなしている彼は、どこからどう見ても一流の最高技術責任者としての風格を漂わせている。


「源さんだって何だかんだで色々な女性から声をかけられているのは知ってますよ? 全部断ってるみたいですけど」


「金目当てだけの女なんて願い下げだからな。……ま、冗談はさておき、そろそろ時間だな。この国の本当のトップが、俺たちを直々に呼び出した理由、ただの合格祝いじゃねえことくらいは、お前も分かってるんだろ?」


「ええ。俺たちが今手にしている【RS-HS】の価値は、もはや一企業の利権というレベルを超えている。政財界が動くのは、当然の結果ですよね」


 俺が冷徹なトーンで応じた、その瞬間だった。


 カチャリ、と重厚なスイートルームの二重扉が静かに開いた。


 現れたのは、仕立てのいい和服を揺らし、白髪の短髪を綺麗に整えた一人の老人だった。背筋は定規が入っているかのようにまっすぐ伸びており、その鋭い眼光は、数十年間にわたり日本の政財界の頂点に君臨し、裏からすべてを統治してきた最高権力者――大旦那その人だった。


 彼の背後には、数名の黒塗りのスーツを着た無口なSPたちが、一分の隙もない動作で控えている。


「待たせたね、佐藤くん。そして、白雪さんに、源くんも。まずは大学への合格、心からお祝いを言わせてもらうよ」


 大旦那――大沢会長は地鳴りのような重厚な声で微笑み、俺たちの正面にある革張りのソファへと優雅に腰掛けた。


「大旦那、本日はこのような栄えある場を設けていただきありがとうございます」


 俺は一歩前に出て、完璧な礼儀と、決して物怖じしない冷静な態度で一礼した。白雪さんと源さんも、それに倣って静かに頭を下げる。


「うむ。相変わらず若干十八とは思えない落ち着きだ。藤堂の一件、そして六本木の不穏な動き(城崎組の排除)の手際も改めて見事だった」


「大旦那の迅速な対応があったからこそです。俺たちのシステムを守ることは、この国の未来を守ることと同義ですから」


 大旦那は満足そうに深く頷くと、卓上に置かれた最高級の日本酒のボトルをSPに注がせ、それを一口含んだ。そして、その鋭い瞳をさらに細め、本題を切り出してきた。


「さて……合格祝いはここまでだ。佐藤くん、君も察している通り新時代を迎えた今、我が国のネットワークインフラは劇的な変革を迫られている。そこでだ、私から君たち【RS-HS】のチームへ、国家予算数千億円規模の『日本全土・次世代光回線網構築計画』の全権を委託したいと考えている」


 大旦那の口から飛び出した、国家規模の超巨大プロジェクトの提案。

 そのあまりのスケールの大きさに、白雪さんが小さく息を呑み、俺のスーツの袖をきゅっと強く握りしめた。源さんもグラスを置き、真剣な目付きに変わる。


「国家全土の光回線……つまり、日本のITインフラの心臓部を、俺たちに一任するということですか」


「その通りだ。現在の日本の旧態依然とした通信利権にぶら下がっている老人どもでは、これからの二〇〇〇年代の世界のスピードには到底ついていけん。君の持つ圧倒的な技術と先見の明で、この国を世界一のIT強国へと書き換えてほしいのだ。もちろん、予算も法整備も、私がすべて裏から完璧にバックアップしてみせる」


 大旦那の言葉には、日本の絶対権力者たる圧倒的な重みがあった。前世の知識を持った俺であっても、これほどの管理者権限を国から委ねられるというのは、破格の条件だった。


「ありがたいお話です、大旦那。その話、謹んでお受けいたします。俺のシステムであれば、日本の通信速度を現在の数百倍へと一気に引き上げ、世界のどの国よりも強固な環境を構築してみせます」


「ククク、頼もしいのう。……だが、佐藤くん。光が大きくなれば、それに群がる害虫どもも増える。君たちが大学へ進学した瞬間、その数千億の利権を狙って、国内外のあらゆる勢力が動き出すはずだ。特に、日本の旧IT既得権益を握る大企業のバカ息子たちや、それと繋がる売国奴の政治家どもが、君たちに卑劣な工作を仕掛けてくるだろう」


 大旦那の言葉に、俺の脳裏には合格発表の日にキャンパスに現れた金髪の青年の冷酷な笑みが浮かんでいた。


「分かっています。それに、国内の有象無象だけではありません。海の向こうの巨大テック資本、そしてそこに潜む怪物が、すでに日本の市場を裏から侵食し始めようとしています」


「ほう、その存在をすでに掴んでいるか。さすがと言おうか。レイの背後にある外資の団体は、この国の通信主権を根こそぎ奪おうと画策している。これからは名実ともに世界を巻き込んだインフラ戦争の戦場となるだろう」


 大旦那はグラスを干すと、立ち上がり、俺の肩をがっしりと掴んだ。


「佐藤くん、白雪さん。君たちの【RS-HS】が、この国の最後の防壁だ。どのような困難が襲いかかろうとも、すべてを叩き潰し、君たちの未来が世界の頂点に君臨する様を見せてくれ」


「ええ。奴らがどれだけの資本と未知のロジックを抱えていようが、関係ありません」


 俺は白雪さんの手を優しく、けれど絶対に離さないという強い力で握り返しながら、大沢会長に向かって冷徹に微笑んでみせた。


「俺たちの未来、そして俺の最も大切なこの国には指一本触れさせない。日本のすべてを掌握し、仕掛けてくる悪党どもを一部の例外もなく、完璧に淘汰してみせます」


 最高級ホテルの最上階。新世紀の光に満ちた東京の夜景を見下ろしながら、俺たちの前に、世界を揺るがす壮大な戦いの幕が今まさに静かに開かれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ