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不倫された上に「コストカット」と自社からリストラされたおっさんエンジニア、中1に戻って未来の知識で大富豪になる  作者: 猫又ノ猫助
第2章高校編

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第三十七話:暴走するバグ

「――ええ、間違いありません、城崎さん。今すぐあの進学校のガキ……佐藤蓮の周辺を突っついて、生きた心地を無くさせてやってください。父親の佐藤誠を拉致するか、事故に見せかけて大怪我でも負わせれば、いくら生意気な高校生でも泣きついてシステムを全部差し出しますわ」


 六本木の高級クラブのVIPルーム。高橋美咲の口から吐き出されたドロドロとした狂気の犯罪教唆は、藤堂のお抱えクラッカーが広げていたノートパソコンの傍らに置かれた「一台の携帯電話」を介して、完全な証拠として吸い上げられていた。


 ◇◇◇


 ――同じ時刻。渋谷の総ガラス張りデザイナーズオフィス。


「……若頭。城崎のところの脳足りんどもが、本当に動き始めました。ターゲットは佐藤代表の父、および白雪華様です。城崎の組織の二名が、黒塗りのセダンで代表の父親が勤務する会社周辺へと向かっています」


 静まり返る会議室で、経済ヤクザ・乾の片腕である実戦部隊の男が低い声で報告した。


 乾はデスクの上で組んだ指先にギリ……と力を込め、冷酷極まりない極道の目をモニターへと向けた。


「馬鹿女め。かつて自分が実家を破滅に導いたのと同じ『暴走』を二度繰り返すか。救いようのないゴミだな」


「いかがいたしますか、若頭。城崎の若い衆がボスの父親に接触する前に、こちらでハジきますか?」


「バカ言え。ボスの命令セットを忘れたか」


 乾は冷や汗を拭いながら、手元のキーボードを叩いてボスの佐藤蓮から共有されている画面を展開した。


「ボスからの最優先オーダーは二つ。一つは『藤堂や美咲には、完全に勝っているという偽の全能感(錯覚)を覚えさせたままにしておけ』。そしてもう一つは――『ボスの家族や、白雪嬢に一ミリでも実害を及ぼすような物理的なノイズは、音もなくデリートしろ』、だ」


 乾は立ち上がり、サッと顎で部下に指示を出した。


「城崎のヒットマンどもがボスの父親の視界に入る前に、裏のルートで完璧に迎撃・遮断しろ。組織の精鋭を全員配置する。ボスの日常に、下品な血の汚れを見せるんじゃねえぞ」


「はっ! 直ちに戦闘班を動かします!」


 ◇◇◇


 冬の冷たい風が吹き抜ける、大手電機メーカーのオフィス街。


 佐藤蓮の父親である誠は、「ふぅ」と息を吐きながら、いつものように真面目な顔で退社時間を迎え、駅へと向かって歩いていた。息子の蓮が裏で国家規模の資本を動かし、自分を守るためにヤクザの防壁を張り巡らせていることなど、実直な父親は一ミリも気づいていない。


 そんな誠の背後から、不気味に速度を落として接近する一台の黒塗りのセダン。


 スモークガラスの奥で、城崎の組織のヒットマンがドスの利いた声で笑う。


「おい、あれが佐藤のガキの親父やな? 路地裏に入った瞬間に一気に引きずり込んで、車に乗せ――」


 ドゴォォォン!!


 突如として、交差点の死角から猛スピードで突っ込んできた大型の高級SUVが、ヒットマンたちのセダンの側面に容赦なく激突した。凄まじい金属音が響き渡り、セダンの車体はベキベキにひしゃげて街路樹へと叩きつけられる。


「ぶ、ぶはっ……!? な、なんやこれ、事故か……っ!?」


 エアバッグが炸裂し、血塗れになりながらフロントガラスを叩き割って脱出しようとするヒットマン。だが、その視界を遮るように、激突してきたSUVから、黒いトレンチコートに身を包んだ体格のいい男たちが音もなく一斉に降りてきた。


「がっ……あがっ……!?」


 ヒットマンが声を上げる前に、乾の部下の一人がその口を強固なスタンガンで塞ぎ、電流を流し込む。一瞬で白目を剥いて失神するヒットマン。彼らは周囲の通行人に気づかれるよりも早く、手慣れた動作で血塗れのヤクザ二人をSUVの後部座席へと放り込んだ。


「こちら戦闘班。排除完了。これより処理に入ります」


 SUVは瞬く間に加速し、ひしゃげたセダンだけを残して、何事もなかったかのように夜の闇へと消え去っていった。


 数メートル先を歩いていた誠は、「なにごとだ!?」と大きな衝突音に驚いて振り返ったが、そこには無人の大破した車があるだけだった。


「わあ、酷い事故だな……。早く警察に通報しないと」


 誠はただの不運な交通事故だと思い込み、慌てて携帯電話を取り出す。自分のすぐ後ろで、文字通り命がけの裏社会の死闘が行われていたことなど、最後まで知る由もなかった。


 ◇◇◇


 六本木の高級クラブ、VIPルーム。


 美咲はブランドものの携帯電話を握りしめ、城崎の若い衆からの「成功報告」を今か今かと待ちわびていた。


「ねえ、城崎さん。まだ連絡は来ないの? もう佐藤の父親の退社時間でしょう?」


「焦るなや嬢ちゃん。うちの若い衆はプロや、今頃きっちりガキの親をハコ(車)に詰めて――」


 その時、城崎の携帯が震えた。城崎はニヤリと笑って通話ボタンを押す。


「おう、どうや。上手く回収できたか?」


『――あ、アニキ! 大変ですわ! 向かわせてた二人が、現場の手前の交差点で大型車に突っ込まれて、そのまま警察に現行犯で連れて行かれましたわ! ボコボコにされて、拉致の道具も全部警察に押さえられて……えらいことになってますわ!』


「なんやとぅ……っ!? 事故やと!?」


 城崎がガタッと立ち上がり、煙草を灰皿に揉み消した。


 実際は、乾の組織が「警察への事前通報」と大旦那が「事故の偽装」を同時に行い、城崎のヒットマンたちの身柄を裏社会のルールで処分した上で、彼らの犯罪道具だけを警察に放流したのだ。


 藤堂たちには、それが単なる「不運な大事故による失敗」としてしか届かない。


「嘘……嘘でしょ!? 失敗したの!? たかが高校生の親一人捕まえるのに、何やってるのよ!」


 美咲は狂ったように叫び、ネイルが施された爪を噛んだ。


「チッ、使えん奴らめ! しゃあない藤堂、システムの買収率の方はどうなっとるんや!」


「え、ええ……! 画面を見てください! ハッキングによる【RS-HS】の支配率は、現在『九八%』を超えています! あと数日で一〇〇%、完全に乗っ取りが完了します」


 藤堂は赤く点滅する「偽の進行インジケーター」を城崎に見せつけた。実際は、吸い上げられた五十億の資金が蓮の罠の最深部にロックされ、破滅へのタイマーがミリ秒単位で刻まれているだけの画面だ。


「ふ、ふん……そうよ、結果的にシステムさえ奪えば私たちの勝ちなんだから……! 佐藤蓮、白雪華……あんたたちがどれだけ運が良くても、年が明ければすべて終わりよ……!」


 美咲は激しい焦燥感を誤魔化すように、冷え切ったシャンパンを一気に煽った。

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