第二十九話 事前の慣らし・前編
「ほい」
「ホイ」
「ほーい」
雪代さん達が作り上げたらしい空間の目の前で俺は世界視を起動する。流石に空気中の魔力は見えないけれど、壁や床が明らかに普通の場所ではないと訴えかけていた。
「ここは……」
「言ってた通り、一時的に魔力濃度を上げたエリア。上限ギリギリだから流石にこれ以上の魔力濃度の場所はないと思ってくれていい」
「つまり、この場所に耐えられれば大抵の場所でも活動出来る、と」
「そういうこったな」
「成程」
皇は何の躊躇いもなく一歩踏み入れる。軽く感触を確かめるように手を開閉している様子に異変は見られない、テオさんも何の迷いもなく入ってしまったので、俺と大雅は一度顔を見合わせてから足を踏み入れた。
「っ……!」
「こ、れは……」
一歩踏み入れた瞬間に分かる強烈な不快感。この感じ……少しだけ覚えがある。あのアカデミーでの出来事、大きな腕が出てきたときのプレッシャーによく似ていた。
「空気が……!」
「大雅、大丈夫?」
「ええ……入江さんは平気そう、ですね?」
「いや……重いには重いんだけど、覚えのある重さだから」
「まぁそうだろうな」
雪代さんは平然とした表情で室内に入って来る。皇とテオさんはともかく、雪代さんも平気なのがちょっとだけ意外だった。……魔術師だからこそ、の可能性もあるけれど。
「不甲斐ない……!」
「いや、本来は大雅の反応が正しいんだよ。今の時代にこの圧くらって平然としてる方がおかしい」
「オカシイネー」
「ねー」
「見ての通りワカバとラリマーですら入れないレベルだからな」
そういうものなのか……。俺も正直動き回るのは厳しいのに、皇とテオさんは軽い手合わせをしているんだけど、あの二人は全く影響を受けていないのか?
「これ……慣れたらマシになりますかね?」
「なるなる。つか初回でそんだけ喋るだけの体力があるんだったらすぐだろ」
「いえ、この状態で戦闘するのは絶望的なんですけど……」
「あ、俺もです」
「そこに関しては気合いで頑張れ」
「こ、根性論……!」
びっくりした、この流れで根性論を推奨されることってあるんだ。……確かに何らかの対処法があるなら既に実行しているだろうから当たり前といえばそうなんだけど。
「そういや入江、この場でその斧って使えるか?」
「はい?一応使えると思いますけど…………あれっ」
普段よりも遥かに斧が軽くて面食らう。おかしいと思って何度か握り直してみたけれど重さは変わらなかった。どういうことだろうと思い雪代さんに視線を向ければ、何故か納得したように頷いて何やら手元の紙に書き綴っていた。
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